世界累計500万部超を生んだ2人の出会い
出版不況に苦しむ業界人が、驚きと一種の羨望をもって注視している超ロングセラーを継続中の本がある。それも、「売れないのにスペースばかりとる」と書店員がぼやく、単行本ビジネス書においてだ。2014年上半期から今年上半期までの7年間、売り上げトップ10から外れることなく、しかも上位に君臨し続けている。ダイヤモンド社の『嫌われる勇気~自己啓発の源流「アドラー」の教え~』(岸見一郎/古賀史健:著)がそれだ。
2013年12月に発売されるや、翌年上半期のビジネス書ベストセラーにトーハン3位・日販4位で初登場。以来4年にわたりトップ3を継続。2018~19年は5位前後となったが、コロナの巣ごもり期間に昨年同期間の2倍近くを売り上げ、日販の2020年上半期では2位に返り咲いた。
超ロングセラーである。同時期のヒット曲『恋するフォーチュンクッキー』(AKB48)が、今も歌番組のトップ3にランクインされているようなもの。早速版元のダイヤモンド社に問い合わせてみた。『嫌われる勇気』の担当者である書籍編集局長の今泉憲志さんはいう。
「発行部数は国内228万部、韓国130万部超、台湾60万部超、世界累計で500万部を超えるベストセラーとなりました。ちなみに弊社トップは『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(2009年、岩崎夏海著)の275万部。『嫌われる勇気』は国内だと歴代2位ですが、海外も含めれば歴代1位です」
日本ではあまり知られていないが、フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称され、欧米で絶大な支持を誇る精神科医・心理学者にアルフレッド・アドラーがいる。サブタイトルから分かるように、『嫌われる勇気』はビジネス書というよりアドラー心理学の入門書であり、アドラーの教えをもとにした自己啓発の書なのである。
話は今から20年前に遡る。書店でたまたま手にした『アドラー心理学入門』を読んで、一人の青年が、世界がひっくり返るくらいの衝撃を受けた。ライターであり編集者でもあった青年は、その本の著者と一緒に「アドラー心理学の決定版と呼べる本をつくりたい」と思い立ち、著者が暮らす京都の自宅を訪ねた。その青年が古賀史健、著者は西洋古代哲学を専門とする哲学者岸見一郎である。
つまり書籍が売れている期間も長いが、二人で企画・構想をあたためていた期間はその3倍も長い。やはり超ロングセラーにはそれなりの理由と歴史があるようだ。