新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。東京都の外出自粛要請に始まり、政府の緊急事態宣言が出され、多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。通勤するサラリーマンが減ったため、都心部の大型書店は休業を余儀なくされた。出版業界も撃沈かと思われたが、実はいろいろなことが起こっていた。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

出版不況の中で児童書だけが売り上げアップ

子どもの成長とともに児童書への関心は薄らいでいく。書店をのぞいてもまず素通りしてしまうが、どっこい児童書を侮ってはいけない。なぜならこの10年間、出版不況の中で唯一児童書だけが売り上げを伸ばしているからだ。

 

日本出版販売の「出版物販売額の実態」(2019年版)によれば、2018年の児童書の売り上げは1,010億円で、2006年の約900億円に対し11.2%伸びている。一方、雑誌、文庫、新書、文芸などはいずれも40%台の大幅減で、コミックも25%台のマイナス。子どもの数はどんどん減っているのに、逆行して売り上げが伸びるという面白い現象が起きているのだ。

 

 

たしかにここ数年、年間ベストセラーに必ず何点か児童書がランクインしている。日販調べによれば、2017年は児童書と学習参考書が好調で、総合第2位に『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)が入った。敵に襲われると死んだふりをするオポッサムなど、ちょっとざんねんな進化を遂げた動物たちの生態をかわいいイラストで紹介したもの。

 

また、第4位には学習参考書の『日本一楽しい漢字ドリル うんこ漢字ドリル』(文響社)がランクイン。全例文に「うんこ」を使った斬新さ(?)がうけた。ドリルが総合ランキングに入ること自体近年にない出来事だったという。

 

2018年は、1937年に出版された吉野源三郎の名著を原作にした『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)が、2位に圧倒的な差をつけて総合第1位を獲得。この年は児童書4作品が総合トップ10に名を連ねた。

 

2019年は『おしりたんてい』(ポプラ社)が大ブレイク。顔がおしりの形をした名探偵が謎解きする話で、総合2位に。発行部数がまたハンパじゃない。『おしりたんてい』シリーズは累計700万部となり、『ざんねんないきもの』シリーズも357万部。両方でなんと1000万部を突破したのである。

 

2020年上半期ベストセラーが先ごろ発表された。注目すべきは総合6位に食い込んだ『こども六法』(山崎聡一郎著/弘文堂)である。タイトル通り、子どもに基本となる法律をわかりやすく説明しただけの本だが、新聞やテレビ・ラジオにこぞって紹介されたことも手伝って予想外のヒットとなった。編集担当の外山千尋さんはいう。

 

「昨年8月に発刊、17刷、累計62万部を突破しました。弊社としては200万部を突破した『「甘え」の構造』(土居健郎著/2007年)に次ぐベストセラーとなりました」

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