新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。東京都の外出自粛要請に始まり、政府の緊急事態宣言が出され、多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。通勤するサラリーマンが減ったため、都心部の大型書店は休業を余儀なくされた。出版業界も撃沈かと思われたが、実はいろいろなことが起こっていた。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

アドラーが喝破「すべての悩みは対人関係の悩み」

それにしても、一見小難しそうなこの本がなぜここまで売れたのだろうか。今泉さんは次のように分析する。

 

「アドラー心理学には、世の中の常識と思われていることを引っ繰り返すような考えがあふれています。たとえば≪人間の悩みはすべて対人関係≫≪トラウマは存在しない≫≪あなたの不幸はあなた自身が選んだもの≫≪誰でもいまこの瞬間から幸せになれる≫などなど。そうした教えが読者の関心を強く引いたのでしょう」

 

「私は学歴が低いから出世できない」とか、「結婚生活がうまくいかないのは、幼いころの家庭環境がよくなかったからだ」といった話を、アドラーは明確に否定する。火のないところに煙は立たない──あらゆる結果の前には原因があると多くの人は考えるが、彼はこれを“人生の嘘”と退ける。

 

岸見一郎/古賀史健著『嫌われる勇気~自己啓発の源流「アドラー」の教え~』(ダイヤモンド社)
岸見一郎/古賀史健著『嫌われる勇気~自己啓発の源流「アドラー」の教え~』(ダイヤモンド社)

過去に何があったとしても、これからの人生になんの関係もない。人はトラウマなど過去の原因によって突き動かされるのではなく、今の目的によって動くというのがアドラー心理学のスタンスだ。本編は、哲人と青年の対話形式によって進んでいく。

 

こんなやりとりがある。青年が、もう何年も自室に引きこもって外に出られなくなった友人の話をし、背景には何らかのトラウマがあるはずと言ったときの哲人の答えが面白い。不安だから出られないのではなく、「外に出ない」という目的があり、その目的を達成する手段として「不安や恐怖といった感情を作り出している」と考えるのだ。これを「目的論」という。

 

正直なところ、私にはよくわからない。逆ではないのか。しかし、この目的論に立つと、「どうすれば人は幸せに生きることができるか」という哲学的な問いに、極めてシンプルかつ具体的な答えを提示できるのだ。つまり、「人は今この瞬間から幸せになれる」と。今泉さんは続ける。

 

「現代人の多くが抱える悩み(特に対人関係)について、上記のような目から鱗が落ちる考え方が大いに参考になったのではないでしょうか。ネットの普及によってコミュニケーションのあり方が大きく変わり、それ故の悩みが増大していたことも背景として大きいと思われます」

 

amazonレビュー数も約3200と歴代最多クラス。レビューを読んだ人がまた興味を抱くというサイクルが生まれ、超ロングセラーにつながったようだ。

 

ちなみにタイトルの『嫌われる勇気』は、「すべての悩みは対人関係の悩みである」と言い切るアドラーが読者に贈る、しあわせになるための処方箋と考えてよさそうだ。

 

平尾 俊郎
フリーライター

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