親の介護費用を誰が出すかで険悪に
〈事例1〉
A子さんは80代の女性です。認知症が進行して、自分の身の回りのことはもちろん、家族のことも認識できなくなり、人との会話も成立しない状態になったため、現在、介護付き有料老人ホームに入居しています。A子さんには夫と3人の娘がおり、ホームに入居する前は、夫、離婚して家に戻ってきた次女との3人暮らしでした。
A子さんの入居費は毎月30万円で、夫の年金から支払われています。夫は大学卒業後、一部上場企業に勤務し、定年まで勤め上げたので、夫が生きているうちはA子さんの入居費を年金でまかなうことができます。
しかし、父親と一緒に暮らしている次女は、気が気ではありません。それには2つの理由があります。
一つには、父親の方が先に死去した場合、遺族年金に切り替わって年金額が減るため、年金だけでは足が出てしまうこと。もう一つは、「父親まで施設に入ることになったらどうしよう」ということです。
両親には1000万円の預貯金がありますが、それを使い果たしたら、自分たち子どもが分担して、父親の年金では足りない分を補うしかありません。そこで、姉と妹に相談したところ、妹である三女から思いがけない答えが返ってきました。
「私はお金は出せない」
と言うのです。三女は子どもを連れて離婚しています。公的な資格を持った仕事に就いてフルタイムで働いている上に、結婚していたとき双方の親がかなりの額を援助して建てた家に住んでいることもあり、経済的にそれほど困窮しているとは思えません。
「私にばかり親を押し付けて、お金を出せないとは何ごと!」
と、次女は怒りを隠せません。
A子さんの場合、比較的入居費の安価な特別養護老人ホームに申し込みをしたときは、すでに1000人の予約待ちという状況でした。