「7/20~7/26のFX投資戦略」のポイント
【ポイント】
・先週はNYダウなど株価が一時6月高値に迫るなかで、米ドルは円以外の通貨、ユーロや豪ドルに対して6月安値前後へ下落した。このような株高・米ドル安の組み合わせは、「ドル・キャリー」を前提とすると理解しやすい。
・「ドル・キャリー」と「円キャリー」の綱引きで、米ドル/円が例外的に小動きの可能性がある。米ドル/円をあえて取引対象から外すと、取引しやすくなる可能性がある。
ドル・キャリー取引とは?
先週の米ドル/円は、107円近辺での方向感の乏しい小動きに終始しました(図表1)。ただ、対円以外では、米ドル安方向に少し動きがありました。
たとえば、ユーロ/米ドルは一時1.14米ドルを超えてユーロ高・米ドル安が進み、6月に記録したユーロ/米ドルの高値(米ドル安値)を更新しました(図表2)。これは、週末のEUサミットにかけて「コロナ復興基金」が議論されており、その期待でユーロが買われたとの解説が多かったようですが、本当なのでしょうか。
実は、豪ドル/米ドルも、0.7米ドルを一時超えて豪ドル高・米ドル安が進んでおり、6月の豪ドル/米ドル高値(米ドル安値)に接近しました。
つまり、復興基金への期待からユーロが買われた面もあるかもしれませんが、基本的には全般的に米ドルが売られたということになります。ではなぜ米ドルが売られたのでしょうか。
先週は、株にも少し動きがあり、NYダウは一時、6月の高値に迫る動きとなりました(図表3)。要するに、NYダウなど株価が6月高値に迫るなかで、ユーロ/米ドル、豪ドル/米ドルも6月高値前後へ上昇(米ドル安)するところとなったわけです。
私はこれまで、現在の相場は「ドル・キャリー取引」が軸になっているとの見方を示してきました。ドル・キャリー取引とは、安く調達した米ドルを売って、株などに投資する「米ドル売り運用」のことです。
米ドルを売って株などに投資するので、米ドル安・株高の組み合わせとなり、株などが下がると米ドルが買い戻される結果、株安・米ドル高といった組み合わせになるのです。
以上のような考え方からすると、先週株高となるなかで、米ドル安が進んだことも辻褄が合います。では、株高・米ドル安は、今週さらに広がるのでしょうか。
株高・米ドル安は、今週さらに広がりを見せるのか
NYダウは、先週一時2万7千ドルを超えたものの、その後は上値重い展開となりました。これを90日MA(移動平均線)からのかい離率で見てみると、一時かい離率がプラス11%以上に拡大するなど、きわめて「上がり過ぎ」懸念が強くなっていたことがわかります(図表4)。
「上がり過ぎ」懸念が強いなかでは、目先的に株高は限られますので、その面では米ドル安(ユーロ高、豪ドル高)も限られる可能性が高いといえます。むしろ、「上がり過ぎ」修正で株安となれば、「ドル・キャリー」、つまり売っていた米ドルを買い戻す動きから、米ドル高に戻すリスクもありえます。
それにしても、先週の動きは、「ドル・キャリー」という前提で見るととてもわかりやすい株高・米ドル安の動きであり、「引き続き方向感のない小動き」といった米ドル/円の印象とは違うものでした。あえていえば、米ドル/円が例外的な小動きを続けているということかもしれません。それはなぜでしょうか。
低利で安く調達した資金を、より利回りの高い先で運用することを「キャリー取引」といいますが、伝統的にその対象となってきたのは、代表的な低金利通貨の円でした。最近も「ドル・キャリー」とともに「円キャリー」が行われており、両者が綱引きとなる結果、米ドル/円の方向感が出にくくなっていたのです。
そういったことから、この局面ではあえて米ドル/円を取引対象から外すことも選択肢の一つといえます。もしかすると、その選択により、かえって足元の為替相場が理解しやすくなるかもしれません。
吉田 恒
マネックス証券
チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長
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