NYダウなど株価が一時6月高値に迫るなか、先週の米ドルは円以外の通貨、ユーロや豪ドルに対して6月安値前後へ下落しました。FX開始直後から第一線で活動している、マネックス証券・チーフFXコンサルタントの吉田恒氏は「今週は米ドル/円をあえて取引対象から外すと、取引しやすくなる可能性がある」と述べています。一体なぜなのでしょうか。本連載では、吉田恒氏が「今週のFX投資戦略」について解説します。

「7/20~7/26のFX投資戦略」のポイント 

【ポイント】

・先週はNYダウなど株価が一時6月高値に迫るなかで、米ドルは円以外の通貨、ユーロや豪ドルに対して6月安値前後へ下落した。このような株高・米ドル安の組み合わせは、「ドル・キャリー」を前提とすると理解しやすい。

 

・「ドル・キャリー」と「円キャリー」の綱引きで、米ドル/円が例外的に小動きの可能性がある。米ドル/円をあえて取引対象から外すと、取引しやすくなる可能性がある。

 

今週は、「米ドル/円」を取引対象から外すと、取引しやすくなる可能性がある
今週は、「米ドル/円」を取引対象から外すと取引しやすくなる!?

ドル・キャリー取引とは?

先週の米ドル/円は、107円近辺での方向感の乏しい小動きに終始しました(図表1)。ただ、対円以外では、米ドル安方向に少し動きがありました。

 

出所:マネックストレーダーFX
[図表1]米ドル/円の日足チャート (2020年4月~) 出所:マネックストレーダーFX

 

たとえば、ユーロ/米ドルは一時1.14米ドルを超えてユーロ高・米ドル安が進み、6月に記録したユーロ/米ドルの高値(米ドル安値)を更新しました(図表2)。これは、週末のEUサミットにかけて「コロナ復興基金」が議論されており、その期待でユーロが買われたとの解説が多かったようですが、本当なのでしょうか。

 

出所:マネックストレーダーFX
[図表2]ユーロ/米ドルの日足チャート(2020年4月~) 出所:マネックストレーダーFX

 

実は、豪ドル/米ドルも、0.7米ドルを一時超えて豪ドル高・米ドル安が進んでおり、6月の豪ドル/米ドル高値(米ドル安値)に接近しました。

 

つまり、復興基金への期待からユーロが買われた面もあるかもしれませんが、基本的には全般的に米ドルが売られたということになります。ではなぜ米ドルが売られたのでしょうか。

 

先週は、株にも少し動きがあり、NYダウは一時、6月の高値に迫る動きとなりました(図表3)。要するに、NYダウなど株価が6月高値に迫るなかで、ユーロ/米ドル、豪ドル/米ドルも6月高値前後へ上昇(米ドル安)するところとなったわけです。

 

 出所:マネックス証券分析チャート
[図表3]過去3ヶ月のNYダウの日足チャート (2020年4月~)  出所:マネックス証券分析チャート

 

私はこれまで、現在の相場は「ドル・キャリー取引」が軸になっているとの見方を示してきました。ドル・キャリー取引とは、安く調達した米ドルを売って、株などに投資する「米ドル売り運用」のことです。

 

米ドルを売って株などに投資するので、米ドル安・株高の組み合わせとなり、株などが下がると米ドルが買い戻される結果、株安・米ドル高といった組み合わせになるのです。

 

以上のような考え方からすると、先週株高となるなかで、米ドル安が進んだことも辻褄が合います。では、株高・米ドル安は、今週さらに広がるのでしょうか。

株高・米ドル安は、今週さらに広がりを見せるのか

NYダウは、先週一時2万7千ドルを超えたものの、その後は上値重い展開となりました。これを90日MA(移動平均線)からのかい離率で見てみると、一時かい離率がプラス11%以上に拡大するなど、きわめて「上がり過ぎ」懸念が強くなっていたことがわかります(図表4)。

 

出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成
[図表4]NYダウの90日MAからのかい離率 (2000年~) 出所:リフィニティブ・データをもとにマネックス証券が作成

 

「上がり過ぎ」懸念が強いなかでは、目先的に株高は限られますので、その面では米ドル安(ユーロ高、豪ドル高)も限られる可能性が高いといえます。むしろ、「上がり過ぎ」修正で株安となれば、「ドル・キャリー」、つまり売っていた米ドルを買い戻す動きから、米ドル高に戻すリスクもありえます。

 

それにしても、先週の動きは、「ドル・キャリー」という前提で見るととてもわかりやすい株高・米ドル安の動きであり、「引き続き方向感のない小動き」といった米ドル/円の印象とは違うものでした。あえていえば、米ドル/円が例外的な小動きを続けているということかもしれません。それはなぜでしょうか。

 

低利で安く調達した資金を、より利回りの高い先で運用することを「キャリー取引」といいますが、伝統的にその対象となってきたのは、代表的な低金利通貨の円でした。最近も「ドル・キャリー」とともに「円キャリー」が行われており、両者が綱引きとなる結果、米ドル/円の方向感が出にくくなっていたのです。

 

そういったことから、この局面ではあえて米ドル/円を取引対象から外すことも選択肢の一つといえます。もしかすると、その選択により、かえって足元の為替相場が理解しやすくなるかもしれません。

 

 

吉田 恒

マネックス証券

チーフ・FXコンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ FX学長

 

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、筆者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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