新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。東京都の外出自粛要請に始まり、政府の緊急事態宣言が出され、多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。通勤するサラリーマンが減ったため、都心部の大型書店は休業を余儀なくされた。出版業界も撃沈かと思われたが、実はいろいろなことが起こっていた。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

今年の5月、紙の本が突然売れ出した!

通勤電車で新聞を広げて読む人がめっきり減った。腕をたたみ、新聞を幾重にも折りたたみ、顔の間近で活字を追う姿はもう見られない。新聞や本はみなスマホやタブレットに姿を変えた。デジタル化がラッシュアワーの混雑解消に果たした役割は大きいと思う。

 

「紙」VS「電子」──出版媒体をめぐる覇権争いはすでに決したかに見える。全国出版協会・出版科学研究所によれば、2019年の紙の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は前年比4.3%減の1兆2360億円で、15年連続のマイナスとなった。

 

一方、電子出版は前年比23.9%増の3072億円と3000億円を突破した。なかでも電子コミック(電子コミック誌含む)は約3割の伸びを示した。結果、出版市場における電子出版の占有率は19.9%に。それでも2割に過ぎないが勢いの差は歴然としている。

 

ところが今年5月、電子化の流れに待ったをかける異変が起きた。紙の本が突然大売れしたのである。仕掛けたのは言うまでもない新型コロナウイルスである。

 

出版取次大手の日本出版販売(日販)の「店頭売上前年比調査」によれば、5月の紙の出版物の売り上げが前年比111.2%を記録し、2008年7月の調査開始以来最高の伸び率となった。1969年をピークに減少を続けてきた(出版科学研究所)が、半世紀ぶりに息を吹き返したのだ。緊急事態宣言期間中も営業を継続した約1500店に限ると、同年134.2%と復調。日販はこれを「巣ごもり需要の高さがうかがえる結果となった」と分析している。

 

 

新型コロナウイルス第一波がほぼ収束し、ひいきの書店に押し寄せた常連客に懐の余裕があったのだろうが、“紙派”の諸兄にとってはうれしいニュースとなった。なぜなら、本当に電子出版がいいのなら、家でもソファに横になって端末を指先でなぞっていればいいのである。空間に余裕がある、時間も十分ある、じっくり本を読みたいとなったとき、人はやはり紙を選んだのだ。

 

紙の凋落に喝をいれたのがコミックスである。中でも大ブレイクして数字を押し上げたのが『鬼滅の刃[きめつのやいば]』(吾峠呼世晴[ごとうげこよはる]著/集英社)のオリジナルノベライズの『鬼滅の刃 片羽の蝶』『鬼滅の刃 しあわせの花』が、日販の2020上半期ベストセラーの総合ランキングの1、2位を独占した。

 

日販社長室広報課に問い合わせたところ、「コミックスのノベライズ版が総合ランキング入りしたのは、2014年上半期の『黒子のバスケ』(20位)と2015年上半期の『NARUTO‐ナルト‐』(15位)のみ」という。しかもワン・ツーフィニッシュを決めたのだから、どれだけ凄いかが分かる。

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