相続税を延納し、「まとまった土地」を残す
●配偶者特例で最大限に節税
ともかくの節税として、財産の半分までは無税という配偶者の特例を最大限に使うことで納税の負担を減らすことにしました。
U田家の土地は、自宅、駐車場、広い道路に面した土地の3区画に分かれています。このうち利用価値が一番高いと思われるのは、広い道路に面した土地で、店舗としても仕えそうです。母親には二次相続の節税対策が取れるようにと、広い道路に面した土地を割り当てることにしますが、それでは半分を超えてしまいます。そこで50%ぎりぎりの割合になるようにとU田さんの持ち分も入れて共有割合を調整しました。これは大きな節税になります。
●測量をして利用区分毎に評価
貸家が建っている土地は、三方道路ですが、表の公道に面する建物と裏の私道に面する建物に分かれています。敷地の一部には駐車場もあり、個々の地形は不整形です。この利用区分図を作成することで路線価が分かれることになり、評価減となり、節税できました。
●相続税を延納して土地を有効利用
課題は納税です。納税を早めにすませてすっきりさせるには、土地の売却か物納かになります。しかし、どの土地も効率はよく、なくしてしまうには惜しいと思えたため、相続税は延納にして、まとまった土地は残すことを提案しました。
肝心なことは、返済期間は20年間と長期にわたる延納の返済原資で、どういう方法で返済資金を捻出するかは重要なことになります。そこで、母親の相続税節税対策と延納返済原資確保の両方の目的で、土地を有効利用することを提案しました。
●リスク分散して余力を残す
広い道路に面した土地は横に長い区画です。向かい側に工業団地が広がっているので、敷地全体を利用して大きなビルを建てることも想定しましたが、U田さんは万一のときの状況の変化に対応できるように更地部分を残しておきたいとのこと。そこで、建物の位置を道路側に向けるのではなく、道路と垂直の位置に配置することにしました。利用するのは敷地全体の3分1程度となり、1階店舗、2~5階は賃貸マンションとし、ベランダは南に面しています。残りの土地は駐車場として賃貸することで、収益もあげられます。
●古い貸家から収益のある賃貸マンションへ
建設計画地には貸家が5棟あり、賃貸中でした。U田さんの意志も固まったころから入居者に明け渡しの交渉をはじめましたが、全員に同意が得られて、建物の着工までに明け渡しが完了し、建物の解体も終えることができました。
その後、古い貸家から賃貸マンションへと生まれ変わったのですが、見違えるようにきれいになり、環境がよくなりました。収益も今までの何倍にもなり、良質な入居者が入り、家賃滞納などの悩みからも解消されたのです。
相続実務士の視点
会社員のU田さんは朝早く出勤し、終電近くまで仕事をしておられ、普段はのんびりする時間もとれず、相続手続きも申告まであと3ヵ月を切っていたころ、こちらに相談に来られました。亡くなったお父さんも土地に愛着を持っておられただけに、U田さんもできる限り土地は残したいとはっきりとした意思をお持ちでした。
相続税の申告が終わってから、土地有効利用の意志決定まで5ヵ月程度でしたが、これも土地を残して維持していきたいという強い意思の表れだと感じています。事業は順調に進み、存在感のある建物が完成しました。建物の名称もU田さん自身が命名され、U田さんにとっては今後の財産維持の方向性を示す事業になりそうです。
いまや相続された土地にはかつての面影はなく、相続をきっかけとして有効利用することで価値をあげ、資産を殖やして頂くことができたといえます。建物が竣工したとき、U田さんのお母さんと最上階から周辺の景色を見たときに、「お父さんにも見せてあげたかった」としみじみつぶやかれたことが印象的でした。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士