父からの遺言書…聞いていた内容と180度違う
余命宣告を受けた10ヵ月後、父は帰らぬ人となりました。そのときに向けて準備もできていたからでしょう。心乱れることなく、きちんと見送ることができたとAさん。しかし、ひと通り葬儀が終わったあと、事件は起こります。弟がAさんに1通の封書を渡しました。そこには「遺言書」と書かれてあったのです。
Aさん「遺言書!? なんだい、これ」
弟「お父さんが書いた遺言書だよ」
Aさん「えっ、父さん、遺言書なんて書いていたのか? ならあのとき、病室でわざわざ俺らに話があるなんて言う必要なかっただろうに」
弟「俺が書いてと頼んだんだよ」
Aさん「えっ、なんでだよ」
弟「言った言わないで、よく揉め事になるっていうだろう、相続って。だから父さんに頼んで、遺言書を書いてもらったんだよ」
Aさん「そうか。気を遣ってくれてありがとうな」
そのとき、Aさんは「よくできた弟だ」としか思いませんでした。後日、然るべき手順を踏んで、遺言書を開封しました。そこに書かれていた内容に、Aさんは驚愕します。
――現金8,000万円をB(=次男)に相続する
Aさん「えっ、これってどういうことだ!? あのと、父さんは兄弟で等分しろって……」
弟「なんでだろうな……書いているうちに、気でも変わったんじゃないのか」
Aさん「でもなんでだよ。等分しろって言っていたのに、遺産の全部をお前にって、おかしいだろう」
弟「そう言われても、ここに書かれているのが父さんの遺志だし」
そのとき、遺言書を見ていたAさん。ちょっとした違和感を覚えます。
Aさん「なあ、これ、本当に父さんが書いたものなのか?」
弟「そりゃ父さんから渡されたんだから、父さんが書いたに決まっているだろう」
Aさん「でも、ここ見てみろよ。自分の名前。父さん、縦棒をすごく長く書く癖があったけど短い……それにこの字もおかしい。父さん、これでもか、というくらい“はねる”けど、全然はねてないし。誰かが父さんの字を真似して書いた感じだ……」
弟「……そうかい。俺には父さんの字に見えるけど」
Aさん「ちょっと父さんの書いた手帳と比べてみよう」
Aさんはそういうと、父が使っていた手帳を持ってきました。遺言書の字は確かに父の字に似ていましたが、Aさんが指摘した癖をはじめ、さまざまな相違点が見つかりました。
Aさん「なあ。本当にこれ、父さんから渡されたんだよな」
弟「そうだよ」
Aさん「でもよくよく考えたら、お前に言われて遺言書を書いたとはいえ、そのこと、父さんが俺にまったく言わないのって、おかしくないか」
弟「なんだよ、俺が嘘ついているっていうのかよ! とにかく、遺産は父さんが遺した通りにするからな!」
弟は大声でまくしたて、出ていきました。そのあとAさんはさらに細かく遺言書を調べていくと、似てはいるものの、父の筆跡とは明らかに違うと確信しました。また弟は投資で大きな損失をだしていたことも判明しました。その事実を知ったAさんは、ますます弟への疑惑を深めていったのです。
「遺言書の偽装……兄弟の間で、そこまでするものかと思いますよね。でも大金を前に心が乱れたのは私も同じですから。借金があれば、なおさらかもしれませんね」
現在、Aさんは遺言無効確認の訴えを起こしています。