日本では年間約130万人の方が亡くなっています。つまり相続税の課税対象になろうが、なかろうが、130万通りの相続が発生しているのです。お金が絡むと、人はとんでもない行動にでるもの。トラブルに巻き込まれないためにも、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが大切です。今回は、編集部に届いた事例のなかから、遺産分割の不平等感によるトラブル事例をご紹介。円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

跡取りの兄と、ひと回り違う弟…お互いの想い

「兄弟といっても、思い出はほとんどないんですよ」

 

そう語るAさん。弟のBさんとの思い出を振り返りますが、どんなに記憶を遡っても、エピソードらしいエピソードは出てきません。別に2人は仲が悪かった、というわけでありません。それでも思い出がないのです。

 

その原因となっているのが、年の差。AさんとBさんはひと回りも離れていました。年の離れた兄弟であれば、お兄ちゃんが忙しい親に代わっておしめを変えた……などというエピソードが出てくることもありますが、母は久々の子育てを楽しむ余裕があり、Aさんはあまり弟の世話をした記憶がないと言います。

 

Bさんが物心付いたときには、すでにAさんは高校生で、学校の寮に入っていました。さらにAさんは大学進学とともに上京し、1人暮らしを始めてしまったので、兄弟とはいえ、ほとんど接点がないまま、お互いが大人になってしまったのです。

 

「弟に会うのは盆と正月くらいで、しかも年齢が離れているから、共通の話題もなくて。年に1、2度会う親戚、という感じでしたね」とAさん。弟との間には拭いきれない壁がありました。

 

一方、Bさんは、兄Aさんのことをどのように思っていたのでしょう。

 

「正直、あまり好きではないですよ」と、意外にもマイナスの印象を持っているとBさん。なぜなのでしょうか。Bさんは、子どものころの思い出を話してくれました。

 

「母は優しかったです。子育ての煩わしさから解放されてからの子供だったので、余裕もあったんでしょうね。随分と我がままを言っても、母は聞いてくれた記憶があります」

 

しかし父に対しては「会社を経営していた父は、いつも仕事で忙しくて、あまり家にいた記憶がないんですよ」という印象。さらに父は何かにつけて兄のAさんには厳しく接していましたが、Bさんに対してはそうではなかったといいます。

 

「父は兄を早くから跡取りと決めていたので、口うるさかったですね。でも私には何も言ってこない。無関心に近いです。学校の成績とか、進路のこととか、何か言われた記憶がありません」

 

「結婚に対しても、そうでした。兄の結婚式は『格式ある一流ホテルでやるべき』などと口を挟んでいましたが、私に対しては何も言ってきませんでした。あまりの対応の違いに、私たち夫婦は海外で2人だけの挙式をしました。父を呼ばなくてもいい口実にもなったので」

 

そんな兄弟によって態度の異なる父に対して、Bさんは不満を持っていたといいます。そして厳しくされつつも何かと優先される兄に対しても、良い印象をもてませんでした。

 

AさんBさん兄弟。父の対応の違いから、目には見えない溝ができていました。その溝は埋まらないまま、Bさんが50歳を迎えたとき、父は闘病の末、この世を去りました。

 

 

次ページ父の遺産相続。兄は平等な分割を目指したが…

※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

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