日本では年間約130万人の方が亡くなっています。つまり相続税の課税対象になろうが、なかろうが、130万通りの相続が発生しているのです。お金が絡むと、人はとんでもない行動にでるもの。トラブルに巻き込まれないためにも、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが大切です。今回は、編集部に届いた事例のなかから、母の認知症に端を発した相続問題をご紹介。円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

高齢の母の面倒を見るから…長男が全財産を相続

元々、心臓が弱かった父。その年の夏は暑さが厳しく、負担が大きかったのでしょうか。ベランダのウッドデッキのイスに座りながら夕涼みをしたまま、息を引き取っていたといいます。

 

突然のことに、家族はみな悲しみに暮れていたといいます。法事がひと通り終わったころ、やっといろいろ考えられるようになりました。そして、父の遺産について、家族みんなで話し合うことになりました。

 

父が遺したのは、自宅と預貯金が2,000万円ほど。また生命保険がかけられており、その受取人は母になっていました。保険金があるから、遺産は3人の子どもたちで分けるといいわ、と母。そこまで話が進んだとき、実家で暮らす兄が「今後、母の面倒はまかせてほしい。その分、多めに遺産をわけてほしい」といいました。特にお金に困っているわけではないと、次男もA子さんも遺産相続を放棄。父の遺産はすべて長男が相続することになったといいます。

 

「遺産争い!? うちの場合は、まったく無縁ですよ。残された母の面倒を、一番の上の兄が見てくれていますし」とA子さん。その後、夫の仕事の関係で、地方に引越すことになったA子さん。元々、次男も地方に住んでいて、家族全員が集まるのは、正月くらいになっていたといいます。

 

そして、父の死から5年ほど経ったとき。また家族を揺るがす事件が起きるのです。前触れはありました。数年ほど前から母は認知症になり、徐々に進行していたのです。

 

「この前会った時は、そんなにひどくなかったから、安心かなと思っていたんですが……」

 

連絡をしても電話に出るのは兄ばかりで、母の声が聞こえてこないことに心配になったA子さん。ある日、久々に実家に行ったところ、そこに母の姿はありませんでした。

 

「あれ、お母さんは?」

 

A子さんの問いに、何も答えない長男。家のなかを探してみましたが、母はいません。そして違和感を覚えます。母が暮らしている痕跡がないのです。

 

「ねえ、お母さん、どこにいるの? この家にいないよね」

 

「……施設に入った」

 

「えっ!?」

 

「認知症がひどくなったから、この前、施設に入れた」

 

「何でそんな大切なこと、わたしたちにいわないのよ!」

 

そういって、母が入ったという施設にいくと、そこにはA子さんの記憶にはない母の姿が。からだはやせ細り、年の割に美肌と自慢していた肌はボロボロ、顔色も土のようで、明らかに健康とはいえない状態でした。

 

「ちょっとお兄ちゃん、お母さん、どうしちゃたのよ!」

 

「認知症が進んで、おれのこと誰だか分からないし、ご飯も食べてくれないし」

 

「だからって、あれは異常よ!」

 

「仕方がないだろう、おれだっていろいろがんばったさ」

 

「遺産分割のとき、おれに任せておけっていったじゃない。あの約束はなんだったのよ!」

 

「………」

 

「もう、お兄ちゃんにお母さんを任せることなんてできない……そうだ、お母さんの面倒はわたしが見るから、お父さんの遺産、もう一度」

 

「もうないんだ」

 

「はぁ!?」

 

「この家も売ることにした」

 

「何いっているのよ! ふざけないで!」

 

このあとわかったのは、兄には借金があり、父からの遺産はすべて返済に消え、それだけでは足りず、家も売却することにしたといいます。あまりのだらしなさに大きな怒りを覚えたといいますが、兄を構っているよりも、変わり果てた母を優先することにしたといいます。

 

お母さん、こんなに痩せちゃって……
お母さん、こんなに痩せちゃって……

 

 

次ページ解説:相続人全員の同意で遺産分割のやり直し可能

※本記事は、編集部に届いた相続に関する経験談をもとに構成しています。個人情報保護の観点で、家族構成や居住地などを変えています。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録