職種タイプは経営に色濃くあらわれるだけに・・・
経営者タイプが同じで職種タイプが異なる場合の引き継ぎでは、思考パターンは同じなので経営方針が大きく異なることはないでしょうが、前経営者の職種タイプは会社の経営に色濃くあらわれるもので、新たな経営者はその強みを生かせないことがあります。それが売り上げに影響する可能性もあるので、そこをどのように穴埋めするかを検討する必要があるでしょう。
例えば自分の職種タイプが直接営業職型、後継者が一般技術職型であったとするなら、これまでの強みであった営業力が下がる可能性がありますから、営業畑のエースを補佐につけ「営業の話はこの人とよく相談してから決断してほしい」と伝えるとともに、補佐役にも「新社長を立ててやってくれ」などと頼んでおくとうまくいきます。
また、職種タイプが異なると、前経営者の職種について想像できない可能性があるので、業務内容について、相互が理解できるまでじっくりと話し合っておくことが望ましいです。
司令塔型になりやすいワンマン型の経営者の継承
●司令塔型
一般的に強力なワンマン型の経営者の継承は、司令塔型になりやすい傾向があります。その場合、経営者タイプと職種タイプがまったく同じであるにこしたことはないのですが、たとえ職種タイプが違ったとしても、経営者タイプが合っているなら問題なくうまくいきます。ポイントは、ワンマン型の強みを生かし経営者が司令塔となって社内調整を積極的に行い、新体制になった際に弱点となる可能性のある分野を補強する体制をあらかじめ築いておくことです。
<成功事例>
J社は代々、お茶の小売店を営んできました。地元では老舗として広く認知されており、関東圏を中心に店舗も展開。事業としては極めて堅実に推移しています。その現在の経営者であるM氏は60代半ばで、そろそろ事業を長男であるF氏に任せようと考えていました。
J社がずっと同族経営であったこともあり、M氏の経営はワンマン型で、経営権もM氏に集中しています。しかしM氏本人としては、自分が優れた経営者であるとは思っていません。自らの役目を「堅実に家業を守ること」と位置づけ、経営者として事業をどんどん拡大していくよりも、堅実に数字を積み上げ、事業を維持することに重きを置いてきました。
その息子であるF氏にも、家業を守るのがもっとも大切という価値観は引き継がれており、新体制になってもM氏の経営方針を堅持しながら経営を続けていくつもりでした。すなわち、経営者タイプはほぼ同じであったといえます。父と息子で異なったのは、職種タイプ。M氏が経理畑を歩んできたのに対し、F氏は営業支援を業務の中心としてきました。
事業継承にあたり、M氏は自らと同じように経営権をF氏に集中させようと考えていましたが、そのようなワンマン型であると、経営者の特長がそのまま企業のカラーになりがちです。具体的にいうなら、M氏の代は数字に強く市場の分析力も高いことが企業としての強みでした。しかしF氏の新体制となったなら、営業能力は高まるけれど、本来の強みはどうしても薄れてしまうと予想されます。
そこでM氏は、社内の体制図を書き換え、経理部門の人材を取締役として新たに迎え入れて、部門としての発言力が上がるように取り計らいました。F氏に対しては、最初は経理部門に関して細かな口出しを控えるようくぎを刺しました。こうして、営業重視になると予想されるF氏の新体制の弱点を補強し、社内におけるバランスも調整したのです。
結果的に、J社は、事業継承が行われたのちも安定した経営を行うことができました。むしろ従来に比べ営業面での実績が上がったことで、売り上げを伸ばすことに成功しています。