今回は、経営者タイプと職種タイプが異なる場合の最適な継承パターンと、その成功事例を見ていきます。

具体的な「約束」を取り交わして「理念」を共有

経営者タイプと職種タイプが異なる場合の引き継ぎでは、考え方も経営方針もまったく異なることが予想されるので、引き継ぎ後には大幅な路線変更をする可能性が高くなります。

 

新たな展開を望むならうってつけの人材ですが、もし自らが路線変更を望まないのであれば、後継者にはその核となる理念を十分に理解してもらわなければいけません。その場合、あいまいな表現では理念が共有できないので、具体的な約束を交わすこと。例えば「営業については古参社員Aの意見にしたがうこと」「××年××月までは社員を一人も辞めさせないこと」といった具合です。

 

また、引き継ぎ後は自由にさせると決めたのなら、完全に経営から身を引き、潔く口を出さないようにしなければなりません。

後継者に自らの路線を引き継がせない「ベンチャー型

●ベンチャー型

後継者が自分とはまったく異なり、自らの路線を継承してもらうことにこだわりがない場合には、ベンチャー型の継承になることが多くあります。後継者の個性を十分に発揮してもらうため、法人の形態や事業内容、時には屋号までも一新し、会社として新たに生まれ変わります。

 

例えば古株社員の雇用など、どうしても守ってほしいものがあるのであれば、あらかじめ明文化して確約をとっておく必要があります。経営方針なども引き継がないので、極めて短期間で事業継承が行われるでしょう。

 

<成功事例>

O社は、地元密着型の工務店として経営を続けてきました。バブルの頃には業績が拡大し、従業員の数は50人まで増えましたが、バブル崩壊の余波を受けて事業縮小を余儀なくされ、従業員の数も15人まで減少。さらに、地域が高齢化の波にさらされていることもあって、事業の先行きは非常に不安な状態でした。

 

経営者であるY氏は、裸一貫から立ち上げ、自分の人生そのものであったといっていいO社に非常な愛着を持っていましたが、このままではいずれ立ちいかなくなり、従業員に迷惑がかかることもまた理解していました。Y氏は70代半ばに差し掛かり、そろそろ会社を誰かに任せたい気持ちがありました。自分の代で廃業することも考えましたが、従業員の手前、それはできないと思いとどまりました。

 

そこで後継者を探すことにしたのですが、Y氏の2人の息子は、それぞれ別の企業で働いています。あまり期待せずに声をかけてみたところ、IT関連の会社でシステムエンジニアを務める次男のW氏が、事業を継ぐことに同意しました。

 

ただ、W氏は建設業界での勤務経験はありません。いきなりO社を引き継ぐのには無理があります。また、W氏の性格は勝気で、地元密着型のビジネスよりも、より大きな市場で勝負することを好む傾向がありました。経営者タイプ的にもY氏とは真逆です。そして、W氏が事業継承に同意したのには、思惑がありました。O社にシステム部門を立ち上げて自らつくったシステムを販売し、ゆくゆくはシステム開発会社としてO社を運用していきたいと考えていたのです。

 

幾度か協議を重ねた結果、Y氏は息子の好きなように会社を運営させることにしました。業態も事業内容もすべて新体制にゆだね、株式も100%譲渡して自分は経営から完全に身を引くという選択です。

 

ただし、Y氏からも「今後10年の間は、今いる従業員を雇い続けること」「屋号を残すこと」というふたつの条件をつけ、明文化して残しました。現在の雇用を守るとなれば、事業内容のすべてをIT系に刷新することは事実上不可能です。W氏は、これまでの事業は規模を縮小しつつも継続して行うとともに、新たに工務店向けの施工管理システムを販売する部門を立ち上げ、そこに資本を投下しました。

 

事業継承は、1か月という短期間で終了。生まれ変わったO社は、ITという領域のまったく異なる分野で、少しずつ実績を伸ばしています。

本連載は、2015年10月25日刊行の書籍『たった半年で次期社長を育てる方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった半年で次期社長を育てる方法

たった半年で次期社長を育てる方法

和田 哲幸

幻冬舎メディアコンサルティング

中小企業は今後10年間、本格的な代替わりの時期を迎えます。 帝国データバンクによると、日本の社長の平均年齢は2013年で58.9歳、1990年と比べて約5歳上昇しました。今後こうした社長たちが引退適齢期に突入します。もっと平…

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