
どこの街に住むかの選択は、仕事やプライベートに大きな影響を与える。さらに家賃が家計支出の大きなウェイトを占めることを考えると、居住地は資産形成までも左右するといえる。総合的に考えて住みやすい街はどこなのだろうか? 20代後半から30代前半の単身会社員の住み心地を考えていこう。今回取り上げるのは、JR埼京線の「十条」駅。
人気ドラマの舞台にもなった、下町感が魅力の街
「十条」駅は東京都北区にある、JR埼京線の駅。1日の乗車人数は3万8,000人ほどです。
現在「十条」という単体の地名はなく、上十条、中十条、東十条、十条台、十条仲原に分かれています。かつては下十条も存在したそうですが、現在はなくなっています。地名の由来は諸説ありますが、その1つが漢字から何となく察することができるように、条理制の耕作地で、十本のあぜ道に区切った所だったから、というものです。
この「十条」という駅、どこにあるのかといえば、池袋から2駅目、さらに埼玉方面の隣駅は「赤羽」という立地です。人気漫画『孤独のグルメ』や清野とおる氏のエッセイ漫画『東京都北区赤羽』によって「赤羽」の人気が急上昇。人気の街に仲間入りするなかで、陰に隠れたような存在なのが十条という街です。
十条の代名詞といえば商店街。テレビにもよく登場します。このエリアには11もの商店街が林立し、下町感あふれる雰囲気です。そのなかでも最も賑わっているのが、駅西口から北へとアーケードがのびる「十条銀座商店街」。品川区「戸越銀座商店街」、江東区の「砂町銀座商店街」と並び、東京三大銀座の1つに数えられる、都内でも有数の商店街です。都内でもシャッター街と化した商店街多いなか、ここ十条銀座商店街には青果店や鮮魚店など生鮮食品店が残っており、買い物時の夕方には、威勢のいい声がこだましています。またコロッケや焼き鳥などの惣菜店では、行列をなすことも。物価も安く、コロッケ1個30円、なんていうお店もあります。
人情味あふれる雰囲気は、人気ドラマ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』で取り上げられるほど。第7話に登場した外国人女性は、古き良き日本の情景が残る十条の街が気に入り、住むことを決めました。
また駅西口から徒歩10分のところには帝京大学板橋キャンパス、駅南口から板橋方面に歩いていくと、東京家政大学があり、学生が多く住む街でもあります。
駅西口駅前は再開発が進行中で、2021年には37階建てのタワーマンションが竣工予定。また埼京線で東西を分断されている十条の街ですが、埼京線の高架化計画も持ち上がっています。さらに木造住宅が密集しているエリアであることから、セットバックして道幅を広げるまちづくりが進められています。一方で地域住民からは根強い反対意見も多く、開発には遅れも生じているようです。
すべてが人情味にあふれる「十条」の街
十条駅周辺の家賃水準をみていきましょう。駅から徒歩10分圏内の1Kの平均家賃は6.24万円、11分を超えると6.08万円となっています(図表1)。
北区全体の水準と比較すると駅周辺は平均よりも若干安く、駅から離れると平均より若干高くなっています。商店街が広域に広がっているため利便性が高く、駅から離れても家賃は高止まりしていると考えられます。
厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の男性会社員の平均月給は、25~29歳で27.5万円、30~34歳で34.1万円です(図表2)。企業規模によって平均給与は異なりますが、そこから住民税や所得税などを差し引いた手取り額の1/3以内を適正家賃と考えると、都内勤務20代後半は6.9万円、都内勤務30代前半は8.5万円です。
会社員の適正家賃からみてみると、「十条」周辺は、20代の若手会社員でも十分に居住を検討できるエリアです。人情味あふれる雰囲気にマッチする、財布にやさしい家賃水準を誇る街だといえるでしょう。
交通の利便性をみてみましょう。「十条」駅から「池袋」6分、「新宿」12分、「渋谷」18分。さらに「赤羽」乗り換えで、「上野」22分、「東京」30分。さらに駅東口エリアなら、京浜東北線「東十条」駅まで600m、徒歩13分ほどの距離。山手線東エリアに勤務であれば、「東十条」も利用できる、駅東口エリアがおすすめです。
さて問題は、埼京線の混雑率で、特に「赤羽」〜「池袋」はまさに通勤地獄。息を吸うのも大変な混雑ぶりなので、時差出勤をするのが懸命です。
次に生活利便性を見ていきましょう。駅周辺に中〜大規模なスーパーマーケットはなく、駅西口から徒歩10分ほど歩いたところに「オーケー十条店」があるくらい。しかしそれ以上に商店街が便利。生鮮食品はもちろん、惣菜店、書店など、地元密着型のお店にまじり、おなじみのドラッグストアや100円ショップなどもあり、あらゆる最寄り品が手にはいります。ただし閉店時間は早めなので、残業が続くときはコンビニ頼みになるでしょう。
また商店街には飲食店も豊富。単身者でも利用しやすいファストフードやファミレス、牛丼チェーンなどはもちろん、立ち飲み屋や庶民派の割烹料理店などぜひ通ってみたい個店も多彩にラインナップ。外食派でも不便は一切ありません。
「十条」は商店街が充実していることからもわかる通り、地域の目が行き届き、犯罪率も低め。女性でも安心して検討できるエリアです。近隣に大学があるので、駅周辺は少々騒がしいこともありますが、それは許容範囲。快適な居住エリアが広がっています。
人気の「赤羽」に隠れた街ですが、テレビドラマでも取り上げられるほどの人情味あふれる雰囲気に多くのファンがいます。交通利便性、生活利便性も申し分なく、家賃水準も良心的。ドライな都会っぽさがちょっと苦手、という人に特におすすめしたい街です。
一方で、駅前の再開発、防災力向上を目指した整備によって、街の雰囲気は大きく変わる可能性があります。独特の雰囲気に惚れ込んで引っ越しをしてくる人も多いので、ぜひ、いまある街の魅力は残してほしいものです。