高齢者の「家賃滞納」問題。法律に基づき退去させることも可能だが、財産の少ない高齢者への強制執行に、苦しむオーナーも少なくない。そこで本連載では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より、高齢者の賃貸トラブルの実例を挙げ、その実態に迫っていく。
5万円の家賃を滞納し続け、200万円まで膨れ上がった
先代の家主の時代から、建物の古さで取り壊しの話が何度かありました。相続で引き継いだ家主は、建物の現状から危機感を覚え、重い腰を上げたのです。ところが話が進まない間に家主が認知症になり、入退院を繰り返していたために、この建物のことが後回しになってしまっていました。
物件があまりにも古いため、他の入居者は退去していきました。唯一残っている杉山二郎さん(83歳)は、70代後半から目を患い現在薄らとしか見えていない状態です。この部屋には新築当初から住んでいるため、玄関から何歩で何がある、見なくてもすべてを把握しています。そのために転居はできないと住み続けています。
二郎さんはこの部屋で社会人生活をスタートさせ、生涯独身、定年まで勤め上げました。退職金もそれなりにもらったはずです。企業年金だってあるはずです。今まで滞納なんて一度もありません。それなのにこの3年ほど、5万円の家賃を払っていませんでした。家主も父親の入退院で、気が付かなかったのですが、滞納額は200万円近くになっています。
収入はあるのに、家賃を払わない。それは「お金に執着」し始めたからでしょうか。それとも若いときからギャンブルか何かで、貯金をせずに使ってしまっていたのでしょうか。ただ少なくとも年金があるはずなのに、家賃が払われていないという状況であることは確かです。
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OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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連載老後に住める家がない!明日は我が身の「漂流老人」問題