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「資産があって当然」という堂々とした姿勢が重要
調査官のなかには、話しやすい雰囲気を作り、苦労話などをうまく引き出しながら、相続人がついうっかり本当のことを話すのを待つ人もいます。
「奥さんはずっと専業主婦だったんですよね。仕事で忙しいご主人が不在がちで、一人でお子さんたちを育てるのは大変だったんじゃないですか」など、巧みに「専業主婦で収入のない期間が長かった」ことの裏を取ろうとする場合があります。
こうした質問に対しては、事前の打ち合わせのときに、親から財産をもらっている場合には、「けっこうな財産を相続した」と、独身時代に働いた経験のある人なら、当時の収入金額から貯金できる金額を推定し、「高金利の時代に複利で運用していたので相当の金額になっていることを説明できるようにしておきましょう」とアドバイスするようにしています。
相続人である奥さんたちに共通していえるのは、概してみなさん控えめだということです。打ち合わせのときに「ご両親の相続財産は?」とか「結婚前の収入は?」と尋ねると「人さまにいうほど多くありません」と遠慮がちに答える人が多いのですが、税務調査ではこれが不利に働いてしまいます。
一般的な感覚からすると、専業主婦だった人が3,000万~4,000万円の預貯金を自分の財産として持っているというのは、疑問を感じるかもしれませんが、決してあり得ないことではありません。
銀行預金の低金利時代が長い間続いているので、世のなかの人の多くが忘れているかもしれませんが、昭和の終わりから平成の初めにかけてのバブル時代を思い出してみてください。当時、複利で計算すると10年で2倍近くになる元本確実な高金利の金融商品が数多くありました。
独身のころ、ある程度の預貯金を持っている人なら、それに親の相続財産や夫からの贈与を合わせてまとめて運用すれば、決して作れない金額ではないのです。
ある程度の年齢の調査官だと、こうした時代背景を説明すれば、妻の高額な財産について納得してくれます。その時代を知っているので、理解が早いのでしょう。
ですが、若い調査官の場合、自分が大人になったときすでに低金利時代が始まっていたので、なかなか納得が得られません。
余談ですが、以前紹介した記事『税務調査「午前の部」…相続専門税理士が質問と回答を完全解説』で解説した質問項目「生前の生活費について」についても同様です。若い人の場合、自分の生活水準が基準になりがちなので、毎月の生活費が40万円とか50万円かかるというのが、理解しがたいようなのです。
そんな場合は「それはあなたご自身の生活水準に照らせば多いと思うかもしれませんが、世のなかにはいろいろな生活水準の人がいるんですよ。これだけの資産のある家なら、生活費もそれなりにかかることが普通にあることなんですよ」とお話しするようにしています。
なかには法的に許されていない行為をする調査官も…
調査官はいろいろな質問をして、相続人の申告漏れを指摘しようとします。先ほどから何度かご説明した「除外」に話を持っていこうとしたり、なかには「ここで認めてくれないと調査が長引きますよ」と半ば脅しのような言葉を吐いたりする人もいないわけではありません。勝手に机の引き出しやキャビネットを開けるなど、法的に許されていない行為をする人もまれにいます。
また、税務調査のケースではないのですが、税務相談に来られた納税者に対して税務職員が誤った指導をし、そのとおりに納税者は申告処理したのに、あとから税務署側の意見が変わり、結局修正申告になってしまったという異例なケースもあります。
こうしたことをあとからいくら訴えても「いった」「いわない」の水掛け論になるのはよくあることです。筆者はこのような場合に備えて、税務職員とのやりとりや税務調査の立ち会いのときは、必ず録音をするようにしています。あとで起こるかもしれないトラブルを証明するのに、もっとも有効な手段だからです。