新型コロナウイルスの感染拡大で、東京都などの地方自治体も財政支出を余儀なくされています。これによって、財政状態にどのような影響があるのでしょうか。格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のレポートを考察します。

新型コロナで地方自治体の財政も大きな影響を受ける

日本政府による「緊急事態宣言」によって、対象となる東京都など7都府県では、経済活動がさらに停滞すると懸念されています。

 

メディアの報道は、繁華街を歩く人が減ると飲食店、小売店などが大打撃を受けるといったものが大半ですが、同様に、地方自治体も大きな影響を受けるとみられます。税収が減少すれば実行できる政策が限られるようになり、我々が受けられる行政サービスの質が低下します。

 

また、減収分を穴埋めしようと債券の発行などで借金をすれば、バランスシートが傷み、財政が硬直化します。

 

新型コロナウイルスの感染拡大にょり、繁華街を歩く人は減少している。
新型コロナウイルスの感染拡大にょり、繁華街を歩く人は減少している。

 

格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が4月8日に、東京都、愛知県、大阪市について、新型コロナウイルスの影響を調べたレポートを公表していますので、チェックしてみましょう。

 

なお、政府による「緊急事態宣言」の対象の中には東京都、大阪府は入っていますが、愛知県は入っていません。ただ、三大都市圏であり、トヨタ自動車の本社があるなど日本経済に大きな影響のある地域であるため、今回、調査したもようです。

諸外国のように「外出禁止令」が出たわけではない

言うまでもなく、S&Pも新型コロナウイルスによって、3自治体の財政収支は2020年度から2021年度にかけて、大きな下押し圧力を受ける可能性があるとみています。新型コロナの影響の長期化により、3自治体のスタンドアローン評価(中央政府による特別な支援・介入の可能性を考慮する前の自治体自身の信用力評価)に下方圧力が強まる可能性があると指摘しています。

 

ただし、S&Pでは改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく日本政府の緊急事態宣言による経済・社会活動への制約は、他国の都市封鎖(ロックダウン)と比較すると限定されるとの考え方も示しています。

 

いろいろ議論のあるところではありますが、小池東京都知事の「ロックダウンもあるかもしれない」という発言は、住民に対して注意喚起という側面では効果があったものの、スーパーマーケットやホームセンターでの買い占めの行動につながり、消費活動の面ではパニック的な行動を誘発したと指摘されています。

 

ひと頃に比べて、近所のスーパーの棚がカラになっているということは少なくなったものの、それでも多くの人が連日で午前中から小売店を訪れて、新型コロナの騒動の前に比べれば、多くの品物を買っています。

 

すなわち、諸外国の「外出禁止令」に比べれば、消費活動、経済活動が完全に止まったというわけではありません。人通りが減ったと言っても、住宅街の商店街では、日中は買い物袋を持った人が歩いています。この点は、テレビのニュースで見た中国・武漢市やフランス、アメリカとは異なります。

新型コロナが自治体の格付けに影響する可能性は低い

S&Pでは、緊急事態宣言による経済のさらなる落ち込みよりも、経済活動の停滞がさらに長期化することを懸念しています。そうなれば、国と地方の税収減少や経済対策に関わる歳出増加につながり、3自治体の財政収支に2020年度から2021年度にかけて下押し圧力がかかる可能性があります。

 

2008年度の金融危機(リーマン・ショック)時との比較では、税制改正に伴う税収構造の変化などにより、景気に対する税収の感応度はやや弱まっているようです。しかし、特に東京都と愛知県は他の自治体と比べて税収に占める法人2税の割合が大きいため、法人の経済活動の収縮による税収減の影響を受けやすいです。

 

税収減だけではありません。例えば、東京都では小池知事が新型コロナウイルスの感染拡大を受け、リーマン・ ショック後に措置した1,800億円を超す補正予算案を編成する方針を固めたと報じられています。

 

また、3自治体ともに医療体制整備などの負担が予想されるほか、大阪市では失業者増加による扶助費拡大を通じて歳出が増加する可能性があります。

 

S&Pでは東京五輪延期でも、東京都の財政への影響は限定的とみている。
S&Pでは東京五輪延期でも、東京都の財政への影響は限定的とみている。

 

このように、S&Pでは新型コロナウイルスは東京都など3自治体に、やはりネガティブな影響を与えるとみているようですが、「日本のソブリン格付け(国や地域への信用格付け)が変わらない限り、3自治体の格付けは維持される可能性が高い」との見方も示しています。

 

それは、今後1~2年間の経済の持ち直しにより中期的に税収が回復する可能性や、補正予算によって国から一部財源手当てが自治体に行われる可能性などを踏まえると、格付けに影響を与える可能性は低いとの見方が背景にあります。


 
東京オリンピック延期の決定についても、東京都は一定程度のコスト負担を最終的に負う可能性はあるものの、財政収支へのマイナス影響を十分に吸収可能であるとS&Pではみています。

 

まとめますと、新型コロナウイルスは確かに経済へ悪影響を与えます。企業の中には耐え切れず、経営破たんするところも出てくるでしょう。しかし、地方自治体の財政については、過度の懸念はすべきではないということのようです。一時的に財政は傷みますが、中長期スパンでみれば回復は可能であると、安心してよさそうです。

 

※本連載に記載された情報に関しては万全を期していますが、内容を保証するものではありません。また、本連載の内容は筆者の個人的な見解を示したものであり、筆者が所属する機関、組織、グループ等の意見を反映したものではありません。本連載の情報を利用した結果による損害、損失についても、著者ならびに本連載制作関係者は一切の責任を負いません。投資の判断はご自身の責任でお願いいたします。

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