●緊急経済対策は大型の公共投資を含まず、大規模でも最終需要押し上げ効果は小さいとみる。
●株価への影響は結局、国内の感染者数を見極めるしかないが、世界全体ではピークアウトの気配。
緊急事態宣言の外出自粛に強制力なく、感染収束には国民の強い危機感を持った行動が必要
安倍首相は4月7日、改正特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令しました。対象区域に指定されたのは、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県で、実施期間は5月6日までとなります。7都府県の知事は、政府の発令を受け、住民の外出自粛や事業者の休業などに関し、具体的な要請や指示を行うことになりますが、休業要請の実施については、各知事の間で判断が分かれています。
また、日本の緊急事態宣言では、外出自粛などは要請や指示にとどまるため、強制力はありません。これに対し、欧州の主要国や米国の一部州などは、厳しい罰則や罰金を伴う外出禁止措置を講じており、新型ウイルスの感染防止に一定の効果が確認されています。日本は、欧米のような強硬手段はとらず、緩やかな規制で経済活動を極力維持する方針ですので、感染の収束には、住民や事業者の強い危機感を持った行動が求められます。
緊急経済対策は大型の公共投資を含まず、大規模でも最終需要押し上げ効果は小さいとみる
なお、弊社では緊急事態宣言により、実質GDPは年間で1.5%程度押し下げられると試算しています。こうしたなか、安倍首相は同日の4月7日、臨時閣議で緊急経済対策を決定しました(図表1)。今回、事業規模は108.2兆円、財政支出は39.5兆円で、リーマン・ショック後の2009年4月の緊急経済対策(事業規模56.8兆円、財政支出15.4兆円)を大きく上回り、過去最大の規模となります。
今回の対策は、感染症に対処するものであり、大型の公共投資は含まれていません。そのため、財政規模に比べ、最終需要を直接押し上げる効果は小さいと思われます。弊社は今回の緊急経済対策による実質GDPの押し上げ効果は、年間で0.7%程度とみています。ただ、この場合、緊急事態宣言による実質GDPの落ち込みの、半分程度しか補えないことになります。
株価への影響は結局、国内の感染者数を見極めるしかないが、世界全体ではピークアウトの気配
改めて、緊急事態宣言については、外出自粛は要請にとどまるなど、規制が緩やかな分、感染の収束は国民の「良識ある行動」に頼る部分が大きくなります。そのため、緊急事態宣言が日本株に与える影響は、早期感染収束が期待できるほどポジティブなものでもなく、全く効果が見込まれず、失望するほどネガティブなものでもなく、結局は、今後の国内感染者数の動向次第となります。
また、緊急経済対策が日本株に与える影響については、今回の対策が景気浮揚ではなく、感染の影響緩和に主眼が置かれている以上、株価を力強く押し上げる効果は乏しいように思われます。日本株が二番底をつけるか、回避できるかは、やはり感染者数を見極めるしかありませんが、ここ数日で、新型コロナウイルスの新規感染者数が、中国を除く世界全体でピークアウトする気配がみられ(図表2)、日本株には好材料と考えます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『政府の緊急事態宣言と緊急経済対策が日本株に与える影響』を参照)。
(2020年4月9日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント シニアストラテジスト