大企業製造業は7年ぶりにマイナスへ転落
日本銀行は4月1日早朝、「全国企業短期経済観測調査」の結果を発表しました。一般的に「日銀短観」と呼ばれているもので、注目度の高い経済指標の1つです。
統計法に基づいて日銀が行う統計調査であり、全国の企業動向を的確に把握し、金融政策の適切な運営に資することを目的としています。全国の約1万社の企業を対象に、3カ月ごとに実施しています。
短観では、企業が自社の業況や経済環境の現状・先行きについてどうみているかといった項目に加え、売上高や収益、設備投資額といった事業計画の実績・予測値など、企業活動全般にわたる項目について調査しています。
今回、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が、大企業製造業でマイナス8となりました。前回の2019年12月調査ではプラスマイナスゼロでしたが、8ポイントの悪化です。
5四半期連続での悪化、7年ぶりのマイナスへの転落となり、新型コロナウイルスの感染拡大によって、企業心理が急速に冷え込んでいる様子が浮き彫りとなりました。
製造業では造船・重機等のマイナス29、非鉄金属のマイナス26、金属製品のマイナス19あたりが目立ちます。自動車はマイナス17で、東日本大震災の直後である2011年6月以来の水準まで落ち込みました。
もっとひどいのは非製造業の宿泊・飲食サービスで、マイナス59となりました。70ポイントの悪化となり、調査開始以来最大の悪化幅です。観光業、飲食業への打撃は深刻と言えます。
企業の景気判断はさらに厳しくなっているとみられる
内訳をよくみると、建設の36、不動産の32など、新型コロナウイルスの影響を受けているのだろうと、なんとなくみえてしまう業種でも、プラスになっているものがあります。
この点で、NHKニュースによると、今回の調査では7割の企業が3月上旬までに回答を終えていたとのことです。欧米や国内で感染拡大が深刻化する最近の状況や、株式市場の記録的な値下がりなどは反映されていない可能性があり、専門家などからは、企業の景気判断はさらに厳しくなっているという指摘は多いと報じられています。
この発表を受け、菅官房長官は1日午前の記者会見で「新型コロナウイルスの感染拡大により国内外の経済活動は一時的に縮小を余儀なくされており、日銀短観にも反映された」と述べた上で、「まずは今の状況をしのいでもらうことが大事だ。感染が収まった後は日本経済をV字回復させ、成長軌道に戻すことが重要だ」と発言しました。
目先では緊急経済対策の規模に注目が集まっていますが、今回の日銀短観で「数字」として景気悪化が示されたことで、政府として、より大規模な対策を打ち出しやすくなったとの見方もあるようです。
日銀短観の結果も受け、4月1日の日経平均株価は3日続落となっています。とりわけ、観光業、飲食業の銘柄は下げがきつくなっています。
個別では、ANAホールディングスが急落しています。短観の結果だけでなく、全社員の半数近くに当たる約6,400人の客室乗務員を対象に、1人あたり月に3~5日程度の一時帰休を実施すると伝えられていることが嫌気されているもようです。当初見込みよりも対象人数が拡大し、航空需要の大幅な減少が改めて意識されているとみられます。
3月あたりから求人情報がグッと少なくなったとか、派遣社員の仕事がなくなったといったニュースも聞かれます。新型コロナにより、雇用面にも影響が出てきているようです。今後、雇用面の経済指標に「ネガティブサプライズ」が出るリスクは十分あり、注意したいところです。
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