急速に進むIoT(モノのインターネット)化によって、自動車産業は今、100年に一度の大転換期を迎えています。新興国市場へのインパクトも極めて大きく、これらの国々の経済事情を一変させる可能性もあります。本連載では、ジャーナリストとして活躍する桃田健史氏の著書、『IoTで激変するクルマの未来』(洋泉社)の中から一部を抜粋し、新興国市場で加速する「パラダイムシフト」の最新事情をお伝えします。

「新興国」「経済後進国」へと市場が移行している

時代が大きく変わること、世の中で物ごとに対する考え方が根本的に変わることを、一般的に「パラダイムシフト」と呼ぶ。

 

一方、クルマに関するパラダイムシフトとは“よく売れる市場”が移行することを示す。近年、日米欧という先進国から中国・インド・東南アジアなどの新興国、またはアフリカの経済後進国へと市場がシフトしているのだ。

 

なぜいまクルマのパラダイムシフトが起こっているのか。

 

先進国では、各国政府による環境対策と渋滞対策が強化されて、自動車メーカーにとって“クルマが売りづらい状況”になってきた。さらに、若い世代を中心に、移動の効率化と環境対応への意識拡大から、公共交通機関・自転車・徒歩移動の利用が増えている。

 

これに対して新興国や経済後進国では、先進国と同じく環境問題や渋滞対策が社会課題になってはいるが、一般大衆の「自由に移動したい」「クルマで贅沢したい」という願望が強いため、自動車メーカーにとって“クルマが売りやすい”市場環境にあるのだ。

「3000ドルの壁」探しに躍起になる自動車メーカー

では、パラダイムシフトの現状を把握し、さらに今後の展開を予測するためにはどうすればよいのか。その答えは、国際自動車工業連合会(OICA)が毎年3月に公開している“モータリゼーションレート”の図表で一目瞭然だ。

 

これは1000世帯あたりの自動車普及台数を世界各地域別に示している。最新のデータは発表年の2年前のものとなるため、本稿執筆時点の2015年末では直近データである2013年分を紹介する。

 

それによると、世界平均は1000世帯あたり174台。もっとも普及しているアメリカが790台、以下オーストラリア722台、カナダ635台と続き、欧州全体では565台、日本と韓国との合算で544台、ロシアが308台、タイが208台、中国が91台となる。なお、OICA発表の資料によると、日本単独では604台だ。

 

また、地域ごとに2005年の普及率と比較すると、北米は3%増、欧州が6%増、日本と韓国が4%増と小幅な成長にとどまっているのに対して、ロシアが42%増、南米が53%増、中国・東南アジア・オセアニアの合算で107%増となっている。こうした数値からも、パラダイムシフトがすでに起きていることがわかる。

 

自動車メーカーのビジネスの基本は、自動車普及率が低い国を見つけてはクルマを売りに行くという単純なことだ。

 

その際、クルマの普及が加速するポイントとして、一人あたりの国民総生産(GDP)が3000ドル(36万円)を超えると「モータリゼーションが始まる」というのが定説だ。そして、1国の販売台数が年間20万〜30万台レベルに達すると現地生産を始めることが多い。

 

結局、こうしたパラダイムシフトは自動車メーカーにとって、先進国での成功体験を新興国、そして経済後進国へと順送りで焼き直しているだけである。少々乱暴な表現をすれば、「貧しい国を探しては、クルマを売りつけている」のだ。

 

これから対象となる国は、東南アジアのミャンマーやカンボジア、そして中央アジア各国やアフリカである。そして行き着く先は、南極大陸。ペンギン相手に商売をするようになれば、もう先はない。

 

「目指せ!ペンギン」。そんないたってシンプルなビジネスを自分たちが続けていることを、自動車産業に従事している人のほとんどが自覚していない。

IoTで激変するクルマの未来

IoTで激変するクルマの未来

桃田 健史

洋泉社

米IT大手のアップルやグーグルはじめ、ライドシェアを普及させているウーバーやリフト、世界各国のベンチャー企業が自動車産業に続々と参入。 自動車業界はいま、100年に一度の転換期の真っ只中にある。 IoT化が急速に進…

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