株式投資では「こんなつもりじゃなかった」が起きる
最近、「投資を始めてみたい」という相談を多く受けます。実際、お金の仕組みについて学べますし、トライすることも大切です。しかし、「投資をする」と一言でいっても、どのような商品にどうやって投資をするのか、手法は様々です。資産をコツコツ増やす方法もあれば、急に増えたり減ったりする投機的な方法もあります。
あっという間に市場の様相を一変させてしまった「コロナショック」のように、投資の世界では、いつ試練が訪れるかわからないものです。安易に始めると、大損してしまう可能性があることを、肝に銘じましょう。
◆家族の大切な貯金を投じて「株式投資」を始めたBさんの事例
「投資で効率よくお金を増やしたい」と思っていた、会社員のBさん(36)。インターネットや雑誌で情報を集め、個別株への投資を始めようと思い立ちました。
「投資に興味を持ち始めたとき、ちょうど同僚が『株で儲けた』と喜びながら、飲み代を大盤振る舞いしていたんです。そんなに儲けられるんだと思いました。話を聞いたら、随分簡単そうだったし、自分にもできるかもしれないと感じました」
Bさんには、専業主婦の妻(33)と息子(4)がいます。教育費やマイホーム資金を貯めるため、節約を心がけようと話しているところでした。息子も幼稚園に入学したことから、奥様がパートを始めることも計画していました。
結婚後、頑張って貯めたお金は130万円ほどです。Bさん自身は、ほかに資産を持っていません。投資資金は、こっそりと貯金から捻出しようと考えていました。
さっそくネット証券に口座を開き、個別株を選んでいきました。「とりあえず人気なものから」の気持ちでランキングを見たら、100株の1単元あたり10万円程度から、100万円を超えるような株まで並んでいて、どれを買えばいいのか迷ってしまいます。
「あれこれ考えたんですけど、まずは100株で20万円ほどの株を買ってみることにしました。証券口座にお金を入れたら、ボタンをクリックしながら進めていくだけで、すごく簡単でした。投資可能額に表示された数字は減りましたが、なんだか実感できないまま、株の購入が終わりました」
「あとは売りどきだな」と、Bさんは心勇みました。スマートフォンに、購入した株の株価がわかるアプリを入れ、値動きをチェックしていくことにしました。
アプリを開くたびに、株価は少しずつ変わっていきます。徐々に上がっていくので、「ものは試し」と売ってみたら、8万円近い利益がでました。「株で儲けるってこういうことか!」と実感したBさん。難しいものではないという手ごたえ、そして、次も上手くいくだろうという確信を得たそうです[図表1]。
次は少し投資額を増やし、3つの株に投資しました。合計で80万円ほどです。またスマホで株価を確認して、上がったときに売ればいいと考えていました。しかし、今回の株は前回と値動きが違います。投資後、全部ではありませんが、株価が徐々に下がっています。上がることもほとんどありません。
こうなると、Bさんは居ても立っても居られなくなりました。
「仕事をしていても、普通に生活をしていても、今株価がどうなっているのかが気になって仕方なくて。トイレに行くふりをして、スマホを確認することもありました。株価が下がりだすと、集中して仕事をすることもできませんでした」
そうこうして3ヵ月、株価はどんどん下がってしまいました。精神的にも疲れたBさんは、いわゆる「損切り」をすべきだと判断し、3つすべてを売却。損失額は約35万円にものぼります。奥様と懸命に貯めてきた貯金が、一瞬で減ってしまいました。「こんなつもりじゃなかったんです...」と嘆いていましたが、もう諦めるほかありません[図表2]。