年金受給額の減少、受給年齢の引き上げ…国民の不安を煽るような報道・情報に溢れている現代。テレビを見ても、「難しい問題を取り上げるばかりで、具体的な解決策がわからない…」という人も多いのではないでしょうか。そこで本連載では、株式会社マイエフピー代表取締役・家計再生コンサルタント/ファイナンシャルプランナーの横山光昭氏が、お金の知識を、幅広く、そしてわかりやすく解説していきます。

「自分の生活が心配でたまらなくなった」とある会社員

日本人はよく「貯金しか知らない」と揶揄されています。実際、資産すべてを現金で保有する人の割合は多いものです。恐らく、預貯金以外の方法、つまり「投資」を危険視しているのでしょう。もしくは、「投資をしたい気持ちはあるけど、細かいことを考えるのが面倒臭い...」と考えているのかもしれません。

 

しかし、年金問題がひんぱんに取り沙汰される今の時代、現金のみで生活することが難しくなってきたのは明らかです。食わず嫌いをせず、様々なかたちで資産を管理したほうが、老後に向けた資産形成がスムーズになるはずです。

 

◆貯金約200万円のAさんの事例

 

「資産形成の手段として投資が有効」と聞いたことはあるけれど、なんだかよくわからないし、面倒臭いと感じて、貯金だけを続けてきた会社員のYさん(43)。妻(42)も投資に積極的ではないため、結婚後の資産管理も、自然と貯金だけになっていました。

 

ご夫婦の資産状況は、貯金約200万円と、Yさんが会社で加入しているDC(企業型確定拠出年金)300万円ほどです。一見、「DCなら資産運用をしているのでは?」とも考えられますが、定期預金に積み立てているだけなので、資産は本当に貯金だけです。しかもこのDCを会社側は退職金として考えているため、ここでの成績が自身の退職金額となってしまいます。

 

ご子息が3歳になるころ、夫婦そろって相談に来られました。幼稚園の入学も迫り、子どもにかかる支出が明確になった途端、「今のままで教育費は足りるんだろうか」「老後資金2000万円必要だと聞いたけれど、そんな額は貯められない」と不安になったといいます。毎月の資金繰りはカツカツであり、貯金をまったく増やせていなかったため、急に焦りを感じたそうです。

 

わが子の幼稚園入学を前にして、資金繰りが不安になった
わが子の幼稚園入学を前にして、資金繰りが不安になった

 

今の時代、「収入を増やす」「そもそものお金を貯める」には、支出を見直し余剰金を増やすか、資産運用するかの2択しかありません。教育費・老後資金を何歳までにいくら準備しておきたい、といった目標額を設定しておくことも大切ですが、まずはゴールへ向かうための「お金の捻出方法」を考え、実行する必要があります。

 

Yさんの場合、この資金繰りで、教育費にかかる支出が増えると、家計は赤字になってしまいます。もしかすると、公立学校の給食費や学用品代などを支払うのに精一杯で、通塾はできないかもしれない。最悪、大学進学費用を捻出できないかもしれない。早急に家計を改善する必要があります。

 

現在、Yさん家庭の生活費は約30万円。予備費を含んだ生活費と、生活防衛資金を合わせ、最低7.5ヵ月分の生活費にあたるお金があり、かつ、長期的にお金を使う予定がないのなら、余剰金を運用に回すべきです。Yさんの場合は、現時点では7.5ヵ月分にやや足りませんが、今後貯めていくことを目標にしつつ、教育費、老後資金の形成を目的に運用を始めたほうが得策です。

 

たとえば、家計を見直して、毎月2万円ほど貯金できるようになったら、どうでしょうか。息子さんが大学進学を迎える15年後には、360万円貯まりますね。ですが、資産運用によって3%ほどの運用益を出せたとすると、360万円の資産が、454万円ほどに増える可能性があります。投資にはもちろん不確実な部分もありますが、正しく運用すれば、非常に有効な手段なのです。

 

定期預金とこんなに違う
定期預金とこんなに違う

でも投資には「リスク」がある…最小限に抑える方法は

実は、DCについても同じように考えることができます。

 

たとえば、毎月1万2000円ずつ定期預金を積み立てると、20年ほどで約300万円になりますね。これを3%ほどで運用できていたとしたら、資産は400万円ほどに増加します。現状より100万円近く増やせる可能性があるのです。

 

もちろん投資にはリスクと呼ばれる「ブレ」があるので、差額100万円までは達しない可能性もあります。

 

ブレ幅を最小限に抑えるには、「長期」「分散」「積立」での投資が有効です。つまり、地域や通貨、商品によって資産を分散保有し、コツコツ積み立てられる投資を、長期間続けるのです。

今の時代「預貯金が不利」なのは紛れもない事実

もちろん投資に向いていない方もいます。投資をしていると、運用パフォーマンスがどうしても気になってしまい、ほかのことが手につかない人。このようなタイプの方は、確かに投資をせずに、貯金だけで頑張るべきかもしれません。

 

とはいえ、同じ金額をコツコツ積み立てても、投資をしている人と貯金だけをしている人では、超低金利の現代、大きな差額が出てしまう。これは紛れもない事実です。

 

では、Yさんご夫婦が「投資はわからない、面倒臭い」という気持ちを払拭し、「将来のために少額からでも投資を始めてみよう」と思い立ったら、具体的に何をすべきでしょうか。

 

まずは、家計を見直すことから始めてみましょう。そして、生活防衛資金だけではなく、教育費の一部にできるような貯金を作りつつ、数千円程度の少額から積立投資をスタートするのが最適です。「数千円でも家計を圧迫している」と思ったら、投資を止めればいいですし、「意外と余裕あるかも!」と感じたのなら、金額を増やしていけばいいのです。

「老後破綻」の可能性を今一度考えよう

Yさんと対話を重ねるなかで、「老後の生活資金が不足するのなら働けばいい」という意見も出ました。しかし、将来の働き口が保障されている人など、ほとんどいないですよね。労働量や責任を軽くされ、やりがいを感じられない挙句、給料も半減される...今の日本社会を鑑みる限り、将来のビジョンは、明るいとはいえないはずです。

 

加えてYさんの場合、退職金もDCで積み上がった金額のみです。定年を迎える前、もしくは同時期に教育費がかかる見込みですから、貯金以外の方法で資産形成をしなければ、簡単に「老後破綻」への道を辿ってしまいます。

 

誰であれ、老後の生活を年金だけで賄うというのは、ほぼ不可能と考えるべきです。Yさんご家族が理想的な人生を歩むか、そうでないかは、今後の取り組み次第なのです。

 

 

横山 光昭

株式会社マイエフピー 代表取締役

家計再生コンサルタント

ファイナンシャルプランナー

 

本連載は、株式会社マリオン「i-Bond Blog」の記事を転載・再編集したものです。

本連載は、株式会社マリオン「i-Bond Blog」掲載の記事を転載・再編集したものです。

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