歴史的な1日となった。米国時間3月15日夜、米FRB(連邦準備制度理事会)は、緊急のFOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、フェデラルファンド金利の誘導目標レンジを1.00%引き下げ、0.00~0.25%にすると発表した。同宣言を受け、各国の中央銀行が金融緩和策に動いたものの、市場の反応は芳しくない。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大、そして経済的影響は、収まることを知らないのか。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO、長谷川建一氏が解説する。

FRB緊急利下げ、各国の財政政策実施までの時間稼ぎか

米国時間3月15日夜、米FRB(連邦準備制度理事会)は、緊急のFOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1.00%引き下げ、0.00~0.25%にすると発表した。FRBは、今月3日に0.50%の利下げを断行しており、これで合計1.50%の利下げを実施したことになる。また、今後数ヵ月の間に、市場から債券を7000億ドル(約74.7兆円)購入し、流動性を供給する方針も合わせて発表した。量的緩和(QE)を含む、大規模な金融緩和策の実施である。

 

加えて、米FRBと日本銀行(以下、日銀)、ECB(欧州中央銀行)、イングランド銀行、カナダ銀行、スイス国立銀行、計6ヵ国の中央銀行は、協調して米ドル・スワップ取り決めを通じた流動性の供給を、弾力的に行うと発表した。2020年3月15日は、金融市場にとって歴史的な1日となった。

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う、WHOのパンデミック宣言を受け、各国が感染拡大阻止の対策を急ぐなか、国際金融市場は不安定な状態が続いている。6ヵ国の中央銀行が協調してドル資金の供給強化に乗りだし、市場を落ち着かせることと、流動性の供給によって企業活動の継続を支援し、世界経済の底割れを防ぐという強い意思を表した。

 

流動性の供給は重要だが、前回も指摘したように、最大の課題は「失われた需要の回復」であり、そのためには、大型の財政政策パッケージが必要になる(参照:『リーマンショックの再来か?「コロナ危機」にFRB利下げ示唆』)。現在、世界の主要国が検討しているが、その実施を見極めたいというのが市場の本音だろう。FRBの金融政策は、それら財政政策が決まるまで時間を稼ぐ意味合いが強いと筆者は考えている。

 

6ヵ国中央銀行の協調に呼応して、日銀は、16日12時から臨時金融政策決定会合を開催した。今週18~19日の予定だった政策決定会合を前倒した形で開催したというのは、それだけ協調の枠組みを重視したということだろう。日銀は、これまで6兆円としてきた上場投資信託(ETF)の年間買入れ上限額を倍増し、12兆円へと引き上げた。また、新型コロナウイルスの感染拡大により悪影響を受けた企業の資金繰りを支援するために、金融機関に対して低利の資金供給を行う仕組みを導入した。一方で、マイナス金利の深堀りはされなかった。金融機関の経営への悪影響が負の効果として叫ばれるなか、この点は回避したようである。

 

中国は回復基調も、新型コロナの影響続く
中国は回復基調も、新型コロナの影響続く

世界的な金融緩和策で、市場の不安はむしろ増大

残念ながら、FRBの緊急追加利下げや6ヵ国中央銀行の協調行動に対する市場の反応は、ネガティブだったといわざるを得ない。市場は、当局が新型コロナウイルスの感染拡大による経済的悪影響をどこまで効果的に回避できるのか、疑問に思っている。FRBの果敢な判断も、かえって事態の深刻さに市場の目を向けさせてしまい、景気後退懸念を浮き彫りにする結果となっている。

 

米FRBの1.00%の緊急追加利下げに追随し、各国の中央銀行が金融緩和に動いたものの、金融緩和策が打止めになるとの手詰まり感が強まった。金融緩和策だけでは、効果が限定されるとの見方が大半である。市場が期待しているのは、ほかでもない財政政策だ。

 

16日に、トランプ米大統領が記者会見で、米国民に対し、旅行はもちろん10人超の集まりや通学、通勤、外食の自粛を呼びかけた際に、新型コロナウイルスとの闘いが8月または、それ以降も続くおそれがあると語ったことや、米国経済がリセッション入りする可能性があると言及したことも、不安心を増幅する一因となった。これまで、世界経済の牽引役だった米国経済すら、景気後退が懸念されるほど深刻な事態だということに、市場は恐怖心を煽られている。

 

また、マクロン仏大統領は、新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、17日正午(フランス時間)から、買い物や通勤を除き外出を厳しく制限すると発表した。新型コロナウイルスとの闘いを「戦争状態にある」と宣言し、患者の搬送に軍を出動させる方針も明らかにした。この外出制限措置は少なくとも2週間実施される見通しである。

 

カスタネール内相も、外出を取り締まるため約10万人の警官を動員し、全土に検問所を設置することを表明した。これまで、政府が警告したにも関わらず従わない国民が多かったことなど、危機感の欠如を懸念して徹底するようである。このように、欧米諸国が外国からの入国を制限する措置を取り、それが広がりを見せることで、経済的に支障をきたすことへの懸念は強まっている。

 

16日の米国株式市場では、アジアや欧州の株式市場の下げを超えて、さらに下げ幅を拡大した。S&P500は、前営業日比12%安い2386.13で引けた。ダウ平均も12.9%下落し20188.52ドル。米国株は、2019年に上昇した分をすべて失った水準である。10年米国債利回りは0.74%。為替市場では、危機に際して、米ドル選好が進んでおり、それがドル円でもドルを支える要因となっている。一方で、欧州、特にイタリアの感染拡大が深刻であるという要因もあってか、ユーロは軟調に推移している。

G7共同声明発表も、早急な財政政策発動は期待持てず

G7(主要7ヵ国)首脳は16日、緊急のテレビ会議を開催し、新型コロナウイルスの感染拡大と闘うため、必要な景気刺激措置を講じることで一致したと発表した。共同声明でG7首脳は、公衆衛生政策での連携と経済への信頼回復、国際貿易・投資の支援、科学研究での協力促進に向け、各国政府の力を結集するとした。

 

しかし、期待されている財政政策の発動に関しては、具体的にどんなことがでてくるのか、国別に異なる事情を抱えていることもあり、時間がかかるだろう。残念ながら、それまでの間、混乱した相場展開が続くことになる。

 

人的な移動を制限する措置を取ってから、3週間から1ヵ月程度で感染拡大のピークを迎えることを考えると、4月半ば辺りまで、混乱は続くことになるだろう。

中国は生産活動を再開…日米欧の景況判断は4月半ばか

新型コロナウイルス感染拡大の封じ込めに一定程度成功した中国では、すでに工場再開と稼働率上昇が進んでいる。中国メディアが報道している95%が再稼働済みという数字まで、筆者は確信が持てないが、生産活動が相当に戻ってきたことは事実である。サプライチェーンも機能し始め、3月に比べ、4月の供給体制は一段と回復すると予想される。欧米先進国は感染対策に3月から手を付け始めたので、4月に緩和されることとなれば、製品の供給は増加しやすくなるだろう。

 

中国の購買担当者景気指数(PMI)では、2月は大変厳しい状況が如実に示されていた。しかし、生産が再開していることで3月は改善する可能性を想定しておくべきだろう。同様に、日米欧の景況感指数は、3月は大幅に悪化するが、4月に改善する可能性がある。中国の指数をはじめとした経済指標が、3月にどれほど反転するかを注意深く見る必要はあるが、4月半ばには、日米欧でも経済指標が現時点ほどの景気後退懸念を正当化するかがはっきりするだろう。

 

また消費も、3月中は、移動制限などにより不安心理が増幅して消費意欲が低下しているが、それが解除に向かえば、消費者マインドが改善し、消費による需要も回復傾向がでてくるのではないだろうか。

 

新型コロナウイルスとの闘いは、見えざる敵との闘いであり、恐怖心は強い。加えて、対策が万全になるまで、時間をかけなければならないことも現実である。しかし、人々が冷静に対処していけば、一定程度の抑え込みができることも事実だ。楽観は禁物だが、悲観だけでも見誤る。中国の例は、冷静にその次の展開も考えておく必要があることを示唆しているのではないだろうか。一番暗いのは夜明け前である。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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