リーマンショックの再来か?「コロナ危機」にFRB利下げ示唆

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響により混乱極まる世界経済。28日時点で、米国株式市場が7日連続で値を下げたことから、パウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長は「必要に応じた」利下げを示唆した。リーマンショック時を彷彿とさせる事態に、Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO、長谷川建一氏の見立ては?

混乱する市場…10年米国債利回りは史上最低値を更新

2月28日金曜日も、米国株式市場は値を下げ、7営業日連続して下落した。また、安全資産として米国債は買われ続け、10年米国債利回りは市場最低を更新し、1.16%まで低下した。28日の日中取引終了時間の直前になって、パウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長は、新型コロナウイルス感染拡大が米国経済の成長を脅かすリスクであるとの認識を示し、必要に応じ、政策金利を引き下げる用意があることを発表した。

 

1月28、29日のFOMC(連邦公開市場委員会)では、フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標は1.50~1.75%と、金融政策を維持していた。しかし、パウエル議長は今回の声明で「米国経済は足元で依然強さを維持している」としながらも、「新型コロナウイルス感染拡大のリスクが変質していることから、FRBは今後の展開と経済見通しへの影響を注視」しており、必要に応じて政策金利を引き下げる用意があると表明した。

 

世界的な株売りの展開のなか、資金逃避先を求めて安全資産に飛び付く動きが強まったことから、金利は急速に低下した。ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)は、同日、一日の下げとしては過去10年で最大の数値を記録した。3ヵ月物LIBORは1.46275%と前日比11.8BPS(=0.118%)低下した。また、フェデラルファンド(FF)金利先物相場は、2020年内に0.25ポイントの利下げなら、3回に相当する程度まで利下げを織り込んでいる。3月17-18日開催予定のFOMCで、0.25%の利下げが実施されることも織り込まれている状況である。

 

昨年難航した米中通商協議を経済成長のリスク要因と見るや、果断に金融政策スタンスを変更したFRBが、新型コロナウイルス感染拡大の影響をリスク要因と捉えて、再び積極的なペースで緩和を進めるとの見方を、市場が織り込みつつある。そして、パウエル議長の声明も、それに符合する。

 

コロナショックで大混乱の世界経済
コロナショックで大混乱の世界経済

不安高まるが、リーマンショック時とは異なる

実体経済への影響は、すでに指標にも出てきている。中国国家統計局が29日に発表した製造業購買担当者景気指数(PMI・2月)は35.7と、1月の50.0から大幅に悪化した。新型コロナウイルス感染拡大の影響を反映し、好不況を判断する節目とされる50を大幅に割り込んだ。これはリーマン・ショック直後の水準よりも低く、過去最低である。新型コロナウイルス感染拡大が、中国経済に大きな打撃を与えたことを示した。

 

特に生産動向指数が1月の51.3から27.8に低下し、新規受注指数も51.4から29.3に落ち込んだ。中国政府の感染抑止対策で、工場の操業再開が後ろ倒しとなったことや、人的な移動の制限により工場での人手不足が続き、操業ができなかったことが響いている。なお、サービス部門の景気指数も、非製造業PMIが1月の54.1から29.6に大きく落ち込んだ。

 

こうした実体経済への影響が出始めていることを受けて、新型コロナウイルス感染拡大対策として各国がどのような財政政策・金融政策を発動するかに注目していく段階に入るだろう。すでに、暫定的・初動的な対応策が出始めているが、経済成長が落ち込むリスクに対応して、どのよう政策を打ち出すかは、全体像がまだ見えていない。

 

金融政策では、パウエル議長の声明を待つまでもなく、緊急避難的な流動性供給や資金繰り支援の信用補完的な対応に加えて、大幅な金融緩和は検討されることになるだろう。恐らく、QE(量的金融緩和)に等しいものになる可能性が高い。財政面では、中小企業支援のための企業補助や減税措置、消費刺激のための賃金保証などが打ち出されるだろう。それは、リーマン・ショック後、金融緩和と財政政策の活用による需要創造が世界経済を支えた構図と同じである。

 

初期のアベノミクスやトランプ大統領による財政金融政策を総動員したマクロ政策が発動された過去とだぶる。新型コロナウイルスの感染拡大は、そうした政策が再び正当化される理由を与えるようにも見える。

 

リーマンショックとの違いは、現時点では、金融機関のバランスシートがそれほど傷ついていない点にあるだろう。リーマンショックは、サブプライムローンやクレジット・デリバティブによるレバレッジが、金融機関のバランスシートを極端に歪めたことが先進国経済の傷を深くした。いわば構造的な問題が事態を複雑化したのである。

 

しかし今回は、実体経済に世界的に広範に影響があり規模は大きいが、レバレッジが効いているわけではない。バランスシートの健全性を極端に損わなければ、リーマンショックほど長期の経済的な停滞にはつながらず、むしろ世界各国がリンクする政策を発動することよって、相対的には短期間の危機に終わる可能性があることも頭に入れておくべきではないかと考えている。

 

もちろん、一部の国ではバランスシートの傷みを抱えている国もある。イタリアは相変わらず金融機関の不良債権比率は高いし、韓国でも金融機関の脆弱さは否めない。日本も、公的部門の債務の大きさは、他国の比ではない。企業部門も世界的には債務比率が高まっていて、それがリスクシナリオになる可能性がないわけではない。そして、新型コロナウイルスの流行がいつ終わるのかが見えない点は、もちろん気がかりである。

 

だが今回の危機が、以前ほど構造的な問題とはいえず、実体経済への影響がリーマンショック時のような複雑骨折を引き起こすものでないとのシナリオに立てば、過度にリアクションを取るよりも、次の動きに対して準備していくことも重要ではないかと考えている。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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