トランプ大統領が、ロシアとサウジアラビアが原油生産の削減に合意する見通しであることをツイートし、2日、原油価格が上昇した。新型コロナ感染拡大の影響による価格急落を防ぐ一手として期待できるものの、一方で、米国経済は悪化の一途をたどっている。3月の非農業部門雇用者数が事前予想を大きく上回り、失業率は急上昇した。この数値は「新型コロナ感染拡大の影響で月後半に広がった事業・学校閉鎖の前」のものである以上、景気後退への懸念は強まるばかりである。Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence BankのCIO、長谷川建一氏が解説する。

世界経済の景気後退懸念を増幅させた原油市場に変化が

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、5日現在、新型コロナウイルスの感染拡大は世界全体で110万人を突破し、死者数は6万人に達した。感染は急拡大しており、歯止めがかかる兆しはない。

 

トランプ大統領が2日、原油に関してツイートしたことをきっかけに、原油価格が上昇に転じた。

 

トランプ大統領は、サウジアラビアのムハンマド皇太子と会談し、サウジアラビアとロシアが原油生産を日量約1000万バレル削減することで合意する見通しだとツイッターに投稿した。サウジアラビアはトランプ大統領のツイートに続いて、OPEC(石油輸出国機構)並びに、ロシアなど非加盟主要産油国を加えたOPECプラスに緊急会合を呼び掛けたと発表し、他国が減産に合意すれば、サウジアラビア自身も減産する姿勢を示した。

 

また、ロシアメディアは、プーチン大統領がロシア石油大手企業の幹部に対し、原油価格の急落を反転させるために、産油国は協調減産に踏み切るべきで、世界全体で日量約1000万バレル前後の減産は可能だと発言したことを報じた。プーチン大統領はまた、ロシアがサウジアラビアと緊密に連絡を取り合っているとし、米国と接触したことも認めたようである。

 

WTI先物は2日に5.01ドル(前日比25%)高、3日もさらに3.02ドル(前日比12%)高の1バレル=28.34ドルで引けた。

 

原油価格は、新型コロナウイルス感染拡大による需要急減に加え、3月はじめにロシアとサウジアラビアの交渉、そしてOPECプラスでの合意形成に失敗したことで、産油国間のシェアの奪い合いによる供給過多を懸念し、20年ぶりの低水準に価格下落していた。今回の価格下落は、OPECおよびOPECプラスの合意形成失敗で増幅された側面もあるが、これが世界経済の減速懸念をさらに強め、株式市場での急落幅を大きくした側面がある。原油価格のダウンサイド不安が後退することは、株式相場にとっても、ポジティブなニュースになるのではないか。

失業率急上昇…米国経済への感染拡大の影響が鮮明に

米国の経済指標では、新型コロナウイルスの感染拡大が、米国経済を蝕みつつあることが伺える数字が出始めている。3日発表された雇用統計では、非農業部門雇用者数が、前月比70万1000人減少し、事前予想の10万人減少から大きく上回る数字となった。これだけの雇用者数の減少は2010年以来初めてのことである。

 

失業率も2月は半世紀ぶりに低水準となる3.5%だったが、3月は4.4%へ急上昇し、2017年以来の水準となった。2019年は一貫して力強さを示していた雇用市場にも、新型コロナウイルス感染拡大の影が及んでいることが示された。雇用統計の調査対象期間は毎月12日を含む週であるため、今回3月の統計には政府などによる外出制限措置の影響により急増した解雇の実態をすべて反映されているとはいえない。4月は、さらに感染拡大の影響が色濃くなると予想される。米国労働省も、「3月統計の調査対象期間は、新型コロナ感染拡大の影響で月後半に広がった事業・学校閉鎖の前だということに留意すべき」と異例ながら留意点を付け加えた。

 

前日2日に発表された、米国での新規失業保険申請件数は665万件と先週から倍増し過去最高を記録、直近2週間では1000万件に達したことがわかっている。米国内で実施された、新型コロナウイルス感染対策としてのより厳格な外出制限措置により、雇用に大きな影響が出ていることへの懸念は強まっている。これから数字として現れる雇用市場の厳しさを暗示するものとして、市場では不安視する見方が強い。

 

コロナの影響が米国経済指標に出始めた
コロナの影響が米国経済指標に出始めた

 

英国では失業者や低所得者向けの福祉手当の申請者が100万人に達し、英政府はクレジットカードの一部支払い猶予などを提案したと伝えられた。ドイツでは、アルトマイヤー経済相が、ドイツのGDPが5%程度縮小する見通しを語るなど、感染拡大の影響がボディブローのように欧州経済に効いてきている。

 

市場の見通しとしては、当面、株式市場では不安定でボラティリティーの高い相場展開が続くだろう。事態収束までの時間が長くなるのか否か、それを見通せるのか、市場では手探りの状態が続くことになる。債券市場では、金利は低下しやすく、為替市場では米ドル需要の旺盛さからドル堅調な展開を予想する。

 

加えて、筆者が気になっていることの1つに、このところ、格付け会社から格付け引き下げの発表が多いことである。特に、ハイイールド債や一部の国債では、今後大きな影響が出かねないものもあり、要注意である。通常、景気後退期には、信用度の低い債券は、市場金利が低下しようとも、信用度の低下からより大きな痛手を受ける。レバレッジドローンやCLO(ローン担保証券)にも、影響は及ぶだろう。クレジットリスクをどう取るかは、是非見直しておくことをお勧めする。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

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    本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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