スローライフで「人類文明の持続性の危機」は解決できるのか?

科学技術の発展やエネルギーシステムの開発は、私たちの生活を支える一方で、環境汚染や環境破壊も伴ってきました。その結果、現在は地球温暖化や海洋汚染といった、喫緊の課題が発生しています。将来のために一体何ができるのでしょうか。理学博士で青山学院大学経済学部の岸田一隆教授が、これからの時代を担う若い方たちに向けて解説します。著書本記事は『青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」 』より一部を抜粋・再編集したものです。

厳密な意味での「自給自足」達成は、非常に難しい

指数関数的な成長は、持続可能ではありません。ですから、私たち人類は、自らの文明を破局に追い込まないためにも、成長を前提としない「定常型社会」を目指さなくてはいけないはずです。そこで、一部の人たちは脱成長社会のモデルとして、「スローライフ」を推奨します。

 

資本主義が「グローバルの舞台で、より速く、より多くの利潤」を目指して、持続不可能な成長に邁進してしまったのに対し、スローライフの方向性は「ローカルの舞台で、よりゆっくりと、限られたもの」をうまく回しながら共有して、幸福な社会を作り上げようというものです。

 

スローライフ
スローライフ

 

定常型社会を目指すうえで、この方向性自体は間違っていないでしょう。ですが、スローライフだけで人類文明の持続可能性の危機が解決できるかということになりますと、現時点での実現性には大きな疑問が残ります。ローカルなレベルであったとしても、厳密には自給自足が達成できていないからです。

 

例えば、デンマークのサムソ島のように、再生可能エネルギーだけでエネルギー自給率100%を実現している共同体は存在します。しかし、この島でエネルギーを生み出している発電用風車やバイオマス燃料プラントなどは、島の外で造られて搬入されたものです。サムソ島よりも、もっと徹底して、自分で作った農作物と燃料の薪だけで暮らしているという共同体があるかもしれません。ですが、その農具やノコギリに使用されている鉄は、どこから調達したのでしょうか。鉄製品を製造するためには大量のエネルギーを消費しますが、それすら自給自足できているのでしょうか。

 

スタジオジブリの長編アニメ『もののけ姫』に印象的なシーンが描かれています。それは「たたら製鉄」を営む部落のそばに「死のハゲ山」が広がっている風景です。たたら製鉄には、一山まるごと消費するほどの薪を必要としました。製鉄はハゲ山の犠牲の上に成り立っていたのです。さらに、もし先に挙げた自給自足を謳っている共同体がアルミ製品を使っていたら、完全にアウトです。原料であるボーキサイトからアルミを製錬するために、世界の電力消費量の3%が使われているとまで言われています。

 

それにしましても、なぜ、これほどまでに金属製品を作り出すのにエネルギーが必要なのでしょう。これは地球という惑星の成り立ちに関係しています。

 

地球は岩石惑星(地球型惑星)です。太陽系の形成にともない、多数の小惑星が衝突を繰り返してできた大きな塊のひとつです。金星や火星も同じようにしてできました。初期の地球の大気の主成分は二酸化炭素で、その次に多い成分は窒素でした。金星や火星では、現在でもそのような組成になっています。ですが、その後、地球には大きな変化が訪れました。海と生物(特に植物)の誕生です。これらが大気中の二酸化炭素を極端に減らし、地球の大気に大量の酸素を生み出しました。今では、地球の大気の成分は窒素78%、酸素21%、アルゴン0.93%、二酸化炭素0.04%です。

 

この大量の酸素が陸上や海中の金属を酸化させました。ですから、鉱物資源としての金属の多くは、酸化物という形で存在します。

 

酸化というのは発熱反応です。反応の際にエネルギーを放出します。燃焼も酸化反応の一種で、反応で放出されたエネルギーが熱として発生します。反対に、酸化物から酸素を取り除く反応が還元です。還元は吸熱反応であり、反応の際には外からエネルギーを加えることが必要です。酸化物である鉱物を加工して金属製品を生み出すためには、最初に還元を行うことが必要であり、外部からのエネルギーの投入が不可欠なのです。

 

出所:大気組成の変化(田近、1995)
[図表1]酸素濃度などの変化 出所:大気組成の変化(田近、1995)
   丸山茂徳、磯崎行雄著
   『生命と地球の歴史』p163

 

もとより、世界人口の多くは都市部に集中しており、ローカルなレベルの解決だけでは、世界全体の問題を解決することはできません。ところが、そのローカルなレベルですら、厳密な意味では自給自足になっていないのが現実です。

 

人類は、古代文明の時代から金属を使い続けてきました。その当時に比べれば、現代の金属製品の使用量は、遥かに膨大です。それにもかかわらず、現代の自然がハゲ山だらけにならずに済んでいるのは、エネルギー密度の大きい化石燃料や原子力エネルギーを使用しているおかげです。

 

一方、化石燃料に頼り続けるのも問題があります。化石燃料の大量消費は地球大気の二酸化炭素濃度を上げてしまい、それが地球環境を大きく変動させます。他の惑星の大気に比べて、地球ではとても少ない二酸化炭素ですが、その増減が人類を危機に陥れてしまうのです。私たちは、二酸化炭素の排出を抑えるために、化石燃料に代わるエネルギー源を探し出すことが必要なのです。

 

おそらく、私たち人類は、これからも金属製品を使い続けるでしょう。したがって、最低でも金属製品生産のために必要になるエネルギーを確保しておく必要があります。つまり、化石燃料に代わるエネルギー源は、それを支え切る十分な量を常に供給し続けなくてはいけないのです。

 

現代文明に深刻なダメージを与えずに解決策を考えるには、冷静な数値化で社会を設計することが必要です。数値的根拠のないイメージだけでエコロジーを語ることは、とても危険です。特に、地球環境に著しい負荷を与えずに、十分なエネルギー量を確保するためには、そのエネルギー源の「エネルギー密度」という量が重要になります。

植物の化学と生態系

燃焼も酸化反応の一種です。炭素を燃焼させると二酸化炭素が発生します。水素を燃焼させると水が発生します。つまり、二酸化炭素も水も酸化反応によって生まれた酸化物なのです。この二酸化炭素と水を材料として、炭化水素(糖)と酸素を生み出す反応が、植物が行っている光合成です。炭化水素の原料となる炭素と水素を、酸化物である二酸化炭素と水から生み出すためには、光合成のプロセスのどこかに還元という化学反応が必要になります。還元には、外からエネルギーを加えることが必要です。植物の場合、太陽光をエネルギー源として利用しています。

 

それでは、なぜ植物は大気中の窒素を自分の栄養として使わず、土壌から得ようとするのでしょうか。大気中の窒素は窒素分子という形で存在しています。窒素原子が2つ結びついた状態です。化学式で書くと「N2」となります。この窒素を植物が使えるようにするためには、分子の結合を壊して窒素イオンにすることが必要です。外からエネルギーを加えなくてはなりません。光合成のときと同じように、太陽光のエネルギーを利用して窒素分子を分解すればよいように思えますが、残念ながら、そうはいきません。窒素分子の結合はとても固いのです。結合エネルギーが大きいとも言います。植物にとって、窒素分子を分解するのは負担が大き過ぎるのです。

 

植物は、大気中の窒素を直接利用する方向へは進化しませんでした。その代わりとして利用したのが土壌中の微生物生態系でした。植物は、根の近くに住む窒素固定細菌のおかげで、吸収しやすい形で窒素を得るようになりました。窒素以外にも植物が必要とする元素はいろいろありますが、それらは、岩の破片や土の粒子や有機物を細菌や微生物が分解して水溶性の養分に変えることで、植物にとって利用可能なものになりました。

 

光合成も土壌生態系による栄養補給もゆっくりと進みます。効率という意味では、あまり良くありません。それに比べると太陽光発電は、太陽光エネルギーの利用効率という意味では遥かに高い効率を持っています(この話題については、『青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」』参照)。

金属は精錬コストが高い…リサイクル方式の確立が必要

原料としての鉱物資源から金属製品を生み出すために、大量のエネルギーが消費されていることをすでに示しました。エネルギーコストの高い日本でこれを行うと、莫大な費用がかかります。そのため、例えば、アルミの製錬は2014年を最後に日本では行われなくなりました。アルミは海外で製錬された「地金」を輸入して、それを材料に製品を加工しているのです。

 

鉱物から金属を製錬する際に問題になるのは、エネルギーだけではありません。発生する大量の廃棄物が地球環境にとって問題になります。人類は、金属資源を利用して文明を築いてきました。それを続けてきた結果、純度の高い鉱物資源を取り尽くし、現在は低純度の鉱物を使わざるを得なくなっています。最近では、銅鉱石に含まれる銅の比率は0.5%程度です。つまり、製品として手にする銅の重量の200倍の廃棄物が発生することになります。白金の場合、さらに比率は小さく、鉱石中に100万分の1程度しか含まれていません。自動車の排気ガスを浄化するためには数グラムの白金が必要なのですが、その数グラムのために自動車の重量よりもずっと重い廃棄物が発生するのです。その廃棄物の中には多くの有害物質が含まれています。場合によっては、放射性物質も含まれています。

 

皆さんは、「レアメタル」とか「レアアース」という言葉をご存知でしょうか。これらは、人間社会での使用量や流通量こそ少ないものの、現代のハイテク社会を支えるうえで欠かせない物質群のことです。先ほど挙げた白金も「レアメタル」の一種です。

 

「レアメタル」は「希少金属」と翻訳されることがありますが、実は、そもそも和製英語です。「レア」という英語から、地球上にあまり豊富に存在しない貴重な資源のようなイメージを持ってしまいがちですが、必ずしもそうではないそうです。

 

多くのレアメタルは、絶対量としては十分に存在するものの、製錬するためのエネルギー消費量が大きく、有害な廃棄物が大量に発生するため、自然環境を維持するために高いコストを払おうとする多くの先進国では生産できないために「レア」になっているのが実情のようです。このことは、先進国のハイテクに満ちあふれたライフスタイルの影に、自然環境が犠牲になっている国が存在することを意味します。

 

本書(『青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」』)第7回の講義で触れますように、リサイクルは、必ずしも良いことばかりではないのですが、金属に関してはリサイクルが有効です。酸化物を還元するときの大量のエネルギー消費を節約するためにも、製錬の際の大量の有害廃棄物の発生を防ぐためにも、リサイクルの方式を確立しておくことが重要です。

 

出所?
[図表2]レアメタル一覧

 

岸田 一隆

青山学院大学 経済学部教授
東京女子大学 非常勤講師

 

青山学院大学 経済学部教授
東京女子大学 非常勤講師
日本サイエンスコミュニケーション協会 編集委員
日本生産性本部イノベーションデザインコース・プログラムコーディネーター

1961年東京生まれ。理学博士。東京大学理学部助手、国立研究開発法人理化学研究所仁科加速器研究センター先任研究員を経て、現在は青山学院大学経済学部教授、東京女子大学非常勤講師。日本サイエンスコミュニケーション協会編集委員、日本生産性本部イノベーションデザインコース・プログラムコーディネーター。研究テーマは、科学コミュニケーション・文明論・原子核物理学。主な著書に『3つの循環と文明論の科学』(エネルギーフォーラム、2014年)、『ボクらのエネルギーって、どうなるの!?』(エクスナレッジ、2012年)、『科学コミュニケーション』(平凡社新書、2011年)。

著者紹介

連載青山学院大・経済学部教授の「よくわかるエネルギー文明論」

青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」

青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」

岸田 一隆

エネルギーフォーラム

青山学院大学の経済学部教授が解説! エネルギー問題を中心として考える、人類文明の持続可能性とは? 人類文明が破綻に至り、多くの人類が貧困と飢えと争いのなかに衰退してゆく未来…。それは、私たちが考えなしに未来を…

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