「科学技術系の人々」が描く未来像が「楽観的」になるワケ

世界で未来予測の試みが多くなされている理由に、ビジネスへの優位性があります。未来への動きに先んじて製品やサービスが実現できれば、ビジネスの勝者になれるでしょう。しかし、この競争は資金力と人力で勝負がつくため、大国が勝利する可能性が高いのです。日本はどうやって勝ち残るべきでしょうか。理学博士で青山学院大学経済学部の岸田一隆教授が、これからの時代を担う若い方たちに向けて解説します。著書本記事は『青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」 』より一部を抜粋・再編集したものです。

論者の感情や信念に左右されやすい「未来予測」

世界には、さまざまな未来予測のシミュレーションが存在しています。こうした未来予測を収集・分析して一冊の本にまとめたものがあります。川口盛之助の『メガトレンド・世界の終わりと始まり』(日経BP社)です。この本にも書いてありますが、どんなに優れた人物が偏見なく未来を予測したつもりでも、その予測の結論は、著者の感情や信念から大きな影響を受けてしまうもののようです。川口氏は、それらの「感情」や「信念」を注意深く排除して分析を試みています。

 

一般に、科学技術系の人々が描く未来像は楽観的なものが多いです。「未来の科学技術は大きく発展し、それにより多くの課題が解決されるであろう」という未来です。彼らは、科学技術の力を信じ、努力を積み重ねているのですから、このような信念を抱くのは当然のことかもしれません。

 

反対に、社会系・人文系の知識人が描く未来像は悲観的なものが多いです。彼らは、社会に横たわる多くの課題を簡単に解決できないものとして捉えます。「科学技術が存在することと、それが有効に使われることとは別物」、「科学技術の利用には負の側面も存在する」、「科学者・技術者は開発に資金を投入できることを前提としているが、そんな経済状況ではない可能性もある」とツッコミを入れます。

 

私は、2017年11月29日に開かれた科学技術・学術政策研究所(NISTEP)主催の第8回予測国際会議「未来の戦略構築に貢献するための予測」に出席しました。その場において、登壇者のひとりによって「未来予測の成果がなかなか政策に活かされない」という発言がなされました。

 

私は、この発言を聞いて3つのことを考えました。1つ目は、未来予測は政策に活かすよりも、一般市民や民間企業に活用してもらうほうが効果的ではないかということです。

 

2つ目は、報告の仕方が悪いのではないかということです。この会議の報告の多くが情報を盛り込むだけ盛り込んで、報告の受け手が実際に経験する明確な未来像をイメージとして腑に落ちる形で提示されていなかったのです。

 

そして3つ目は、未来予測の精度はそれほど高くないのではないか、ということでした。

 

あああ
どんなに優れた人物が偏見なく未来を予測したつもりでも…

人口推移は予測可能だが、価値観や倫理観の変化は…

未来予測からは、大きな潮流を読むことはできます。なかでも比較的高い精度で予測できるのが人口の推移です。人口の変化は、年齢別の人口構成と出生率でほぼ正確に予測できます。そして、出生率が大きく変わったとしても、その影響が人口の変動となって現れるのは先のことです。ですから、時間的な余裕を持って予測を修正することができます。ただし、地域別の人口ということになりますと、人間の移動が問題になります。

 

産業の動向や科学技術の動向は、部分的には未来予測の示すとおりに進むでしょう。一般に、新しい科学技術の誕生は、その前の時代に萌芽が見られることが多いからです。ただし、これは、あくまで「部分的」だと思います。なぜなら、本当に革新的なイノベーション(技術革新と訳されることもありますが、新しいアイデアによって新たな価値を創造する営み全般を指します)は、既存技術やその延長線上の技術を使いながらも、まったく新しい道へと人々を導いてしまうからです。これは、その前の時代の気配から予想できるようなものではありません。

 

そして、人の心に属する部分、価値観や倫理観の変化に関して、各種の未来予測は「心」ではなく「ライフスタイル」の現状の変化の潮流を述べるにとどまり、遠い未来における人間の心について語ることはできていません。つまり、「心の変化」までは予言できていないのです。ランダースなどは「人は変わらない」と決めつけてしまっています。実は、この「人の心の動き」こそが、社会や科学技術と相互作用をしながら未来を創っているのではないでしょうか。

 

そして、未来予測が、その程度の予言能力しか持たないものだとしたら、私たちは「人の心そのもの」として、ともに未来を創っていく道を選ぶほうがよいのではないでしょうか。これは、私たち自身が「望ましい未来」を心に描くというやり方です。理想のゴールを先に設定して、そこから私たちが進むべき道を探るのです。山登りのときに、昇るべき山頂を目指して、ルートを選択し、一歩一歩進むのと同じような感じです。

未来予測の試み「バックキャスティング」とは?

未来を先に設定して、そこから過去方向へと逆算して現在までのルートを考えるやり方を「バックキャスティング」といいます。未来予測の試みが多くなされている理由のひとつは、それがビジネスに直結するからです。未来への動きに先んじてさまざまな製品やサービスを開発し、いち早く市場に提供すれば、次の時代のビジネスの勝者になれるからです。

 

このようなことは世界中のどこでも行われています。ということは、このやり方による競争では、誰もが似たようなことを考えることになります。その結果、そこにどれだけの資金や人力を投入できるかが勝敗の鍵を握ってしまいます。結局、米国や中国のような大国が勝利を収める確率が高くなるでしょう。

 

私は、日本のとるべき道はバックキャスティングだと思っています。望ましい未来を共有し、さまざまな社会課題を解決していけば、それはいずれ世界のモデルになるでしょう。

 

実は、望ましい未来の多くは実現可能なのです。『青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」』のなかで、『ドラえもん』の原作に登場する道具の多くが、現代では姿を変えて実現されていることを聴衆に示しました。科学者・技術者は現在の研究や技術開発の延長線上に未来を考えてしまいがちですが、そんな未来とは不連続に飛び抜けた未来を想像しても、科学技術はそれを実現化する力を持っているのです。これは、逆に言うと、望ましくない悪用も実現可能であることを意味しますので要注意です。

 

現在の人類が生きている第3期(目に余る悲惨さ…人類の「未来予測シミュレーション」』参照)において解決すべき課題は、「資源・エネルギー」と「地球環境」の限界です。これを科学技術で解決しなくてはなりません。

 

ですが、そもそも、この第3期を生み出した私たちの社会のルールは、「地下資源をベースとした資源・エネルギー大量消費文明」でした。このルールの後半の部分、すなわち「大量消費文明」を、まずは問題視すべきだという立場があります。そして、人類は、そんな文明から解き放たれて「スローライフ」を目指すべきだと、この立場の人たちは主張します。しかし、残念ながら、それで解決できるほど問題は単純ではないのです。

 

 

岸田 一隆

青山学院大学 経済学部教授
東京女子大学 非常勤講師

 

青山学院大学 経済学部教授
東京女子大学 非常勤講師
日本サイエンスコミュニケーション協会 編集委員
日本生産性本部イノベーションデザインコース・プログラムコーディネーター

1961年東京生まれ。理学博士。東京大学理学部助手、国立研究開発法人理化学研究所仁科加速器研究センター先任研究員を経て、現在は青山学院大学経済学部教授、東京女子大学非常勤講師。日本サイエンスコミュニケーション協会編集委員、日本生産性本部イノベーションデザインコース・プログラムコーディネーター。研究テーマは、科学コミュニケーション・文明論・原子核物理学。主な著書に『3つの循環と文明論の科学』(エネルギーフォーラム、2014年)、『ボクらのエネルギーって、どうなるの!?』(エクスナレッジ、2012年)、『科学コミュニケーション』(平凡社新書、2011年)。

著者紹介

連載青山学院大・経済学部教授の「よくわかるエネルギー文明論」

青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」

青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」

岸田 一隆

エネルギーフォーラム

青山学院大学の経済学部教授が解説! エネルギー問題を中心として考える、人類文明の持続可能性とは? 人類文明が破綻に至り、多くの人類が貧困と飢えと争いのなかに衰退してゆく未来…。それは、私たちが考えなしに未来を…

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