目に余る悲惨さ…人類の「未来予測シミュレーション」

科学技術の発展やエネルギーシステムの開発は、私たちの生活を支える一方で、環境汚染や環境破壊も伴ってきました。その結果、現在は地球温暖化や海洋汚染といった、喫緊の課題が発生しています。将来のために一体何ができるのでしょうか。理学博士で青山学院大学経済学部の岸田一隆教授が、これからの時代を担う若い方たちに向けて解説します。著書本記事は『青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」 』より一部を抜粋・再編集したものです。

環境破壊は「経済・社会」的なものに起因している

人類文明の持続可能性に危機が迫っているという議論については、懐疑的な意見を持っている方も多いと思います。そもそも「終わりが近い」というような終末論的な言説は、2000年以上前から人類が繰り返し行ってきたものです。そして、それらの未来予測はことごとく当たりませんでした。

 

人類文明の量的な成長が指数関数的であったとします。そして、その成長による歪みが、我々の目の前に巨大な困難となって立ちはだかったとします。しかしながら、科学技術の進歩も一般に指数関数的に成長しますので、困難を解決する技術も指数関数的に発展すると考えられます。ですから、すべての困難を未来の科学技術の進歩が解決してくれるという考え方もできます。

 

技術系の人たちと未来について議論をすると、このような楽観的な予測を技術者たちが抱いていると感じることがあります。それは、ある意味当たり前のことで、自分たちの技術がこれから拓くであろう明るい未来を信じなくては、新しい技術を生み出すモチベーションを高く保つことができません。しかし、ここでは肝心なことが忘れられています。それは、「技術が存在すること」と「技術が使われること」は別物だということです。

 

先進諸国は、他の地域に先駆けて重工業型経済成長を経験し、その歪みとして深刻な環境汚染に遭遇してきました。そのため、多くの脱公害技術が生まれました。遅れて経済成長を始めた国々は、それらの技術を使って、環境汚染を未然に防ぐことができたはずです。

 

しかし、現実は、そうはなりませんでした。問題はコストです。脱公害技術の装備にはコストがかかります。急激な経済成長の段階にある国では、余計なコストをかけてしまえば、国内の競争に敗北してしまいます。たとえ、その国の政府が脱公害技術の導入を義務づけたとしても、運転費用を節約するために、実際には稼働させないということも起こり得ます。

 

環境破壊の主たる要因は、技術的なものではなく、経済的なものや社会的なものである可能性があります。こうなると、技術ですべてが解決できると楽観視できる状況ではなくなります。

ヨルゲン・ランダース教授のきわめて悲観的な予測内容

それにしましても、人類文明の量的な成長は本当に指数関数的なのでしょうか。成長が指数関数的であるためには、「ルールが一定である」という前提が必要です。この前提が間違っていないでしょうか。そこで、人類文明の量的な発展をわかりやすく記述するために、世界の人口を例にとって考えてみましょう。図表1は、縦軸を対数目盛りで表した人口の推移です。

 

出所:Econosystemics「Human Population through the Ages」 http://econosystemics.com/?p=9
[図表1]世界の人口の推移 出所:Econosystemics「Human Population through the Ages」

 

すると、面白いことがわかります。確かに、ルールは一定ではありませんでした。世界の人口の大まかな推移は、傾きが大きくなってゆく3つの直線で示すことができます。実は、人類は成長の速度が急加速するようにルールを変更してきたのです。

 

現在、未来予測のシミュレーションは多数存在します。それによりますと、世界の人口に関しては、さすがに指数関数的増加を続けることはなく、今後は減速傾向に入り、いずれは飽和に達すると考えられています。しかし、そうした未来予測がさらに教えるところでは、現在のライフスタイルを継続していけば、世界の人口が飽和する前に、エネルギー消費の増大や大気中二酸化炭素の増加のために、人類文明が深刻なダメージを受けてしまうのだそうです。

 

印象的なのはヨルゲン・ランダースの『2052・今後40年のグローバル予測』(日経BP社)です。ランダースは、1972年に『成長の限界』を発表したローマクラブのメンバーのひとりです。『成長の限界』では、いくつかのシナリオを仮定して、そのシナリオごとの未来予測を行い、人類に警告を与えました。そして、ランダースの意図は、『成長の限界』から40年経って多くのことが明らかになったので、そのさらに40年後の未来である2052年の世界を、科学的に正確に予測しようというものでした。

 

ランダースの予測は、正視をためらうほどの悲観的な内容でした。これは「人類の敗北宣言」です。いわく、「もう手遅れである」、「人はけっして変わらない」などなどです。『成長の限界』を発表して警告したにもかかわらず、その後の40年間、人類が何の手も打たなかったことが、彼をひどく失望させ、このような悲観的な言葉を書かせたのでしょう。さて、このランダースの予測は当たってしまうのでしょうか。

 

科学コミュニケーションを専門とする私から見ますと、ランダースは間違っていると思います。それは、「人は変わらない」と彼が諦めてしまったところです。そもそも彼は、なぜ40年間、人が変わらなかったのかという理由を真剣に研究したでしょうか。そして、今後どうすれば、人が変われるのかを真剣に考えたでしょうか。私には人が変わるためのヒントが、おぼろげながらわかってきています。本書(『青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」』)で、それを示せればと考えています。

 

私は教育に携わる者として、未来予測が何を示そうとも、世の中がどのように変わっていこうとも、その変わりゆく世界で生き抜く力を若者に与えることこそが教育の使命だと思っています。ランダースは最後に、「どうか私の予測が当たらないよう、力を貸してほしい」との言葉で本を結んでいます。私たちは、その希望となろうではありませんか。

資源枯渇と地球環境悪化は「地球の限界」を意味する

さて、先ほどの世界の人口の推移のグラフを眺めると、大まかに3つの直線で表わすことができることがわかりました。縦軸が対数目盛りのグラフで直線になるということは、指数関数的に成長しているということを示しています。そして、指数関数的に成長しているのは、その間のルールが一定だったからです。つまり、それぞれの3つの期間は、それぞれ違ったルールが働いているものの、その期間の中では、ルールは常に一定だったということです。

 

第1の期間は10万年前から始まりました。指数関数的な成長が始まった理由は、人類の脳の増大と言語の獲得でした。この期間のルールは「狩猟と採集というライフスタイル」です。高い脳機能と言語能力が狩猟や採集に威力を発揮し、生存と繁殖に有利に働きました。ですが、指数関数的な増加は、持続可能ではありません。今から約1万年前、地球上から大型の肉食動物や草食動物が姿を消しました。絶滅の要因のひとつとして、増え過ぎた人間による乱獲が挙げられています。食糧としての獲物の枯渇が、この時代の限界として立ちはだかろうとしていました。

 

第2の期間は1万年前から始まりました。この期間のルールは「農業を基本とした都市文明」です。獲物が枯渇しようとしていた1万年前、奇跡的なことが起こりました。最後の氷期が終わりを告げて温暖で安定した気候の時代が始まったのです。人類は、農業を発明して食糧を生産し始めました。安定して得られる食べ物が人口増加のペースをさらに速めました。ですが、この時代のルールも持続可能ではありません。本書(『青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」』)で述べたように、「マルサスの罠」が忍び寄りつつありました。1万年にわたる農業の営みは大地を徹底的に痛めつけました。森林の大幅な減少と土壌の劣化と食糧生産の頭打ちが、この時代の限界として立ちはだかろうとしていました。

 

第3の期間はおよそ250年前から始まり、現在に至っています。この期間のルールは「地下資源をベースとした資源・エネルギー大量消費文明」です。化学肥料の登場によって農業生産力は上昇し、「マルサスの罠」は、実際には訪れませんでした。さらに、食糧の増産に加えて、医学の進歩や衛生環境の改善などが世界人口増加のペースをそれまで以上に速めました。

 

しかし、もうおわかりのように、この時代、すなわち現在のルールも持続可能ではありません。地下資源は、無限に存在するわけではありません。いずれ枯渇する運命が待っています。しかも悪いことに、エネルギー源として用いた化石燃料の燃焼によって発生した二酸化炭素が大気中の二酸化炭素濃度を上昇させ、温室効果によって地球温暖化が始まりました。資源枯渇と地球環境悪化が、この時代の限界として立ちはだかろうとしています。

 

次は、何がこの限界を打破してくれるのでしょうか。それとも、ランダースの言うように、何もかも「もはや手遅れ」なのでしょうか。

極めて繊細な地球の生命環境、温暖化にも脆弱

第2期のライフスタイルの農業が大地を荒廃させ、第3期のライフスタイルの化石燃料の燃焼が地球の温暖化を招いたと述べました。ですが、地球は、そんなにも脆弱なものなのでしょうか。私たちの地球は、大きいものなのではないでしょうか。

 

そこで、宇宙から地球を眺めてみましょう。地球を上空へと飛び立って、どこまで行けば宇宙と呼べるのでしょうか。その境目を明確に示すことはできませんが、国際航空連盟と米国航空宇宙局(NASA)が便宜的に決めた高度100キロのカーマンラインというものがあります。それによると、ここから外側が宇宙空間ということに定められています。ですから、宇宙旅行を水平方向に置き換えると、東京から熱海まで旅行するようなものです。いかに短い距離かがわかります。高度400キロの国際宇宙ステーションから地球の表面を眺めると、カーマンラインの内側にある大気の青い層は、半径が6371キロの大きな地球に比べ、薄皮まんじゅうの皮のように張りついて見えます。この薄い層がすべての生命を守り育んでいます。

 

その大気の組成のうち二酸化炭素の濃度は405ppm(世界平均、2017年)です。測定された年を一緒に表示した理由は、現在、5年で10ppmずつ上昇しているからです。ちなみに、産業革命以前の大気中の二酸化炭素濃度の平均的な値は278ppmでした。さて、400ppmというのは、パーセントに直すと0.04%に過ぎません。二酸化炭素は地球の大気にとって微量成分です。ですが、この微量成分が大きな効果を発揮します。地表付近の気温を決めているのは、入ってくるエネルギーと出て行くエネルギーの釣り合いです。

 

入ってくるエネルギーとして、太陽光線のエネルギーがありますが、その量に比べ温室効果で戻ってくるエネルギーは1.8倍なのです。私たちが生活する地表の気温にとって、温室効果がいかに大きいかおわかりいただけたと思います。大気中の成分で温室効果に最も寄与しているのが水蒸気で効果全体の6割程度、第2位が二酸化炭素で2割から3割程度の効果を担っています。ちなみに、人間活動による水蒸気の量の変動はほとんど無視できます。ですが、大気中の水蒸気は気温が上昇すると増加します。つまり、水蒸気は、二酸化炭素濃度の人為的な増加による気温の上昇を増幅する効果を持っているのです。

 

今度は目を下に向け、地下を考えてみましょう。私たちは「大陸地殻」と呼ばれる岩盤の上に生きています。その厚さは30~50キロであり、大気の厚さよりもさらに薄いです。ですが、その岩盤に生態系はありません。岩石が風化作用で細かくなり礫(小さい石)や砂・土の層を作り、さらにその上に生物が移動して来て有機物の豊かな表土の層を形成します。生物が豊かな生態系を営んでいるのは、この表土層です。そして、陸地における表土の厚さは、だいたい30センチから1メートルです。薄皮どころかきわめて薄い膜です。残念なことに、この膜は一度剥がれてしまうと、取り返しがつきません。自然の力のみに任せた場合、2センチ程度の表土を復活させるのに数百年を要するという試算があります。

 

地球上の生命は、きわめて薄い層の中で生きているということが、そして、その薄い層の環境はきわめてデリケートであることがおわかりいただけたでしょうか。

 

Aが表土層 出所:ウィキペディア
[図表2]土壌の断面図 Aが表土層
出所:ウィキペディア

資源・エネルギーの枯渇、環境の悪化への対処法は?

第3期の限界である「資源・エネルギーの枯渇」や「環境の悪化」に対処する方法はあるでしょうか。その方法のひとつは、第2期で食糧生産の限界に出会ったときの対処法にもあった「外へ出て行く」というやり方です。第3期の限界は地球の限界です。ということは、もはや宇宙に出て行くしかありません。

 

こうしたことを真剣に考えている個人や団体は、世界にたくさん存在します。なかでも、テスラやスペースXという会社の最高経営責任者(CEO)を務めているイーロン・マスクによる「火星移住計画」が有名です。しかしながら、超えなければならない技術的なハードルはきわめて高いものがあります。火星には、地球の大気圧の100分の1以下という薄い大気しかありません。そこでは、人間が強烈な宇宙放射線に晒されます。火星表面を人間にとって住みやすい環境にするためには、厚い大気の層と温室効果が必要です。これをそう簡単に生み出せるでしょうか。放射線を避ける現実的な方法としては、火星の地下にコロニーを作るやり方があります。これならなんとか可能かもしれません。ですが、たとえ宇宙進出が可能になったとして、そのペースはどれくらい速いものになるでしょう。「資源・エネルギーの枯渇」や「環境の悪化」といった限界が襲ってくる速度に間に合うのでしょうか。

 

第2期で食糧生産の限界に出会ったとき、人類が生み出したもうひとつの対処方法は「科学技術による解決」でした。第2期のときは「ハーバー・ボッシュ法」が人類を救いました。第3期が解決すべき問題は「資源・エネルギー」と「地球環境」です。これに対して、科学技術が正面から取り組んで解決するのです。私には、こちらのやり方のほうが遥かに有望に思えます。

 

 

岸田 一隆

青山学院大学 経済学部教授
東京女子大学 非常勤講師

 

青山学院大学 経済学部教授
東京女子大学 非常勤講師
日本サイエンスコミュニケーション協会 編集委員
日本生産性本部イノベーションデザインコース・プログラムコーディネーター

1961年東京生まれ。理学博士。東京大学理学部助手、国立研究開発法人理化学研究所仁科加速器研究センター先任研究員を経て、現在は青山学院大学経済学部教授、東京女子大学非常勤講師。日本サイエンスコミュニケーション協会編集委員、日本生産性本部イノベーションデザインコース・プログラムコーディネーター。研究テーマは、科学コミュニケーション・文明論・原子核物理学。主な著書に『3つの循環と文明論の科学』(エネルギーフォーラム、2014年)、『ボクらのエネルギーって、どうなるの!?』(エクスナレッジ、2012年)、『科学コミュニケーション』(平凡社新書、2011年)。

著者紹介

連載青山学院大・経済学部教授の「よくわかるエネルギー文明論」

青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」

青学発 岸田教授の「エネルギー文明論」

岸田 一隆

エネルギーフォーラム

青山学院大学の経済学部教授が解説! エネルギー問題を中心として考える、人類文明の持続可能性とは? 人類文明が破綻に至り、多くの人類が貧困と飢えと争いのなかに衰退してゆく未来…。それは、私たちが考えなしに未来を…

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