「新型コロナ」を甘んじていた市場、続落で大荒れ
市場は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が、景況感の悪化や生産の遅延につながり、米国経済にまで及ぶことを本格的に懸念し始めた。中国以外の国でも感染が広がるなか、実体経済への影響が出始めている。
27日のニューヨーク株式市場で、米国株が急落、ダウ平均は4.4%下げて25766.64ドルとなった。S&P500種も前日比4.4%安、2978.76ドルで引けた。ナスダック総合指数は4.6%下落。米国債は、資金逃避の思惑で買われ、10年米国債利回りが1.26%まで低下した。為替では、安全資産需要で日本円が買われ、ドル円は109円台半へ下落した。また、景気鈍化見通しから、ニューヨーク商業取引所でWTI先物4月限が1.64ドル(3.4%)下落し1バレル=47.09ドルと、19年1月以来の安値となった。NYC金は1オンス=1642.50ドルと高値を維持している。
28日の東京株式相場も大幅続落となった。日経平均株価は4.6%下げて20,936.32、TOPIXも4.2%の下落率となり1,501.93で引けた。米国株が大きく下げ続けていることや、ドル円為替での円高が相場のモメンタムを悪くし、さらなる下げを呼ぶ悪い循環にある。企業業績に対する懸念も強まっており、電機や情報・通信などを中心に全面安となった。アジア株も同様に下げ、香港ハンセン指数は前日比-2.58%の26,087.15となった。
これまでは、米国の旺盛な消費が、米国経済の底支え、世界経済の底入れに寄与して、2020年の世界経済は再度拡大に向かうのではないかとの見通しに傾きかけていた。そのシナリオに従い、市場にはリスクオンの雰囲気が醸成され、米国株式市場ではS&P500種やナスダック総合指数で史上最高値を更新する展開となっていた。
新型コロナウイルスの感染拡大が伝えられても、影響は短期的で限定されたものになるとの楽観的な受け止め方が支配的だった。加えて、中国政府が感染拡大の影響を最小限に食い止めたいとの意思を鮮明にし、景気支援策へのコミットメントを強めるなど、政策効果も加わることへの期待が、市場の支持要因となっていた。
しかし、世界経済や企業業績に与える中国の影響力が、SARSが流行した20年前より大きくなっている点は見逃してはならない。中国での生産の停止や遅延が、国境をまたいで世界規模で展開されているサプライチェーンに与える影響などを考慮すれば、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が企業業績に及ぼす悪影響を市場が見誤ることはなかっただろう。この点については、奇しくも前回指摘していたとおりである(参考:『新型コロナ感染拡大でも「強気維持」の相場に死角はないか?』)。
2月21日に発表された2月の米国購買担当者景気指数(PMI)の速報値は、予想以上に低い数字になった。サービスPMIは49.4と、事前予想の53.0を大幅に下回った。これは、2013年10月以来の低水準である。サービス業の新規受注指数も49.7と、2009年10月以来の低水準となり、50を下回った。製造業PMIは50.8と50こそ下回らなかったものの、事前予想の51.5は大きく下回る結果だった。
今回のPMI速報値の「サービス業、製造業ともに新型コロナウイルスの感染拡大への懸念が強まり、影響が出始めていることを示唆しているのではないか」との受け止め方は、これまでの強気の見方と一変している。新型コロナウイルスの感染は、中国以外の国でも拡大し始めており、このPMI速報値を引き金として、21日(金)以降世界の金融市場は、大荒れの展開となっている。
日本が「コロナピーク」に向かうなか、3月の相場は?
3月の相場展開は、新型コロナウイルスの感染拡大が、どれほど経済活動の足かせになるかを見極める必要があり、やや振れを伴った荒れる相場になるのではないだろうか? まさに、強気の相場の死角を突かれた格好であり、要注意である。
ダウ平均の当面の下値の目途は、2018年12月の安値22,445ドルから2020年2月高値29,398ドルの61.8%戻しの25,100ドル、または2019年5月安値24,815ドルあたりだろう。株については、この水準では、拙速な動きは取らないようお勧めしたい。
為替では、「円を一方的に買う」というロジックの効果は、一時的なものだろう。ドル円で108円台に突っ込めば、ドル買いで良いのではないかと考えている。債券は、利回りは随分低下してしまったが、引き続き質の高い長期債は選好されるだろう。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO