新型コロナ感染拡大でも「強気維持」の相場に死角はないか?

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響は、過去のSARSなどを引き合いに「短期的で限定されたもの」であるとの見方が、市場では強い。米国株式市場では史上最高値に近い水準で推移するなど、相場は堅調だ。しかし、中国現地に生産拠点を持つ経営者からは、「相当に生産が停滞していきている」との声も聞く。市場は何か見逃している点があるのではないか? Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bankの長谷川建一CIOが解説する。

IMF「2020年の世界経済は緩やかに上向く」と予想

国際通貨基金(IMF)は2月19日に公表したサーベイランス(政策監視)リポートで、「世界経済の活動は昨年の著しい減速を経て、2020年に緩やかに上向くと予想される」と指摘し、世界経済の成長について、底入れの段階にあるとの見方を維持した。これは、2020年の世界経済成長が3.3%と、2019年の2.9%成長から改善するとの1月時点の予想(世界経済予測)を据え置いた形である。

 

一方で、見通しに対するリスク要因は引き続きダウンサイドが多く、新型コロナウイルスの感染拡大や米中間の通商問題で緊張が再燃する懸念があり、世界経済が回復路線から外れるリスクを指摘した。

 

新型コロナウイルスの感染拡大は「製造業での生産の停止や、感染地域での交通制限などを通じて、中国の経済活動を混乱に陥らせている」として、中国経済の短期的な見通しは、新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込められるかどうかに大きく左右されるとした。

 

一方で、2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行したケースを参照し、一時的な混乱はあるものの、その後に成長加速期入りして、遅れを急速に取り戻す可能性についても言及した。

 

こうした見通しに加えて、米国経済の消費が堅調であることは、市場参加者の強気の見方を維持する根拠となっている。加えて、追加の政策発動への期待も固まっていることは、市場にとってはプラス要因だろう(関連記事『新型コロナで危ない経済…米国の消費堅調も「支えきれぬ」か?』)。

 

◆中国政府は打ち手を強化

 

2月20日、中国人民銀行(中央銀行)は、企業や家計向けの新規貸付の指標として使われるローンプライムレート(LPR)を、期間1年物は4.15%から4.05%に、5年物は4.8%から4.75%に引き下げると発表した。人民銀は2月に入り、リバースレポの金利や1年物の中期貸出制度(MLF)の金利も引き下げており、新型コロナウイルスの感染拡大による経済への影響を軽減する政策の一環としてLPRの引き下げを実施した模様である。

 

今回の引き下げ措置は市場の予想通りで、5年物LPRの引き下げ幅が小幅だったのは、人民銀が、不動産価格の高騰を招くことに対して神経を尖らせ、不動産バブルの発生を回避してきた従来の政策スタンスを変える意図はないことを示唆しているといえる。

 

しかし、IMFも指摘するように、新型コロナウイルスの感染が拡大するのか、収束に向かうのかを現時点で見通すことは難しい。感染者数が減るなどして、市場のセンチメントが数週間で改善すればいいが、すでに工場の再開遅れや生産の落ち込みによる景気への影響は一部出始めるなど、今後2・3ヵ月の間には、預金準備率やLPRの引き下げが、さらなる追加措置として実施されることを市場は期待している。

 

金融政策だけではなく、中国政府は、様々な企業負担の軽減措置を講じている。感染拡大の抑制に直結する事業を支援するため、政策銀行や商業銀行に対し優遇金利で総額3,000億元(4.8兆円)の特別融資を実施した。小規模企業を支援するため、物流サービスや金融支援の提供を行っている。これらはいずれも、労働市場の下支えや経済活動の維持には支援材料となるだろう。

 

また、20日に人事社会保障省は、社会保険料の減免措置を拡大し、企業の保険料負担を総額で5,000億元(約8兆円)程度軽減することを発表した。昨年も同様の措置を一時的措置として4,000億元(約6.4兆円)の規模で実施しているが、今回はこれを上回る負担軽減措置となる。同日、余蔚平財政次官は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を注視しており、雇用情勢が変化して必要と判断すれば、政策を柔軟に調整することに言及した。

 

新型コロナウイルスの感染拡大
新型コロナウイルスの感染拡大

米国株式は史上最高値水準だが今後は荒れる可能性も

市場では、新型コロナウイルス感染拡大の影響が、短期的で限定されたものになるとの受け止め方が支配的である。上述のとおり、中国政府が感染拡大の影響を最小限に食い止めたいとの意思を鮮明にし、景気支援策へのコミットメントを強めていることが、ある種の楽観につながっている。

 

そのため、市場最高値に近い水準を保つ米国株式市場を筆頭に、相場は堅調である。ダウ平均の30000ドル到達を1つのターゲットとして強気の見方をしていた筆者にとっては、その手前で相場が崩れなかったことは、ありがたい話である。

 

しかし、中国経済が世界経済や企業業績に与える影響が、20年前より大きくなっている点は見逃してはならない。少なくとも、中国での生産の停止や遅延が、他国の生産に与える影響など考慮すれば、結果的に新型コロナウイルスの感染の影響が企業業績に及ぼす悪影響を過小評価している可能性は高いのではないだろうか。

 

中国現地で生産拠点を持つ経営者からのヒアリングでは、相当に生産が停滞してきている感は否めない。ここからの相場展開は、持続的な強気相場というより、やや振れを伴った荒れる相場になるのではないだろうか? 強気の相場に死角はないか、気をつけておきたい。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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