不動産投資は自然災害に脆弱、震災リスクは特に深刻
株式や債券、投資信託など世の中にはさまざまな投資先があります。その中でも不動産投資は、「所有物件を自ら運営し賃貸による賃料で収益を上げる」という他の金融商品とは異なる仕組みです。不動産という現物資産の裏付けと賃料収入という確かな収益源を備え、法人・個人という隔たりなく確実性の高い資産運用の方法として活用されています。
しかし、不動産投資は現物資産に依拠しているため、他の資産運用と比べ、さまざまな自然災害によるリスクが高いというデメリットがあります。火災や台風などによる風災、洪水による水害などは、火災保険の活用によって被害に備えることができます。しかし地震に起因する災害については、損傷具合によって地震保険で被害額のすべてを賄うことができない場合があるのです。
1981年6月以後に建築確認を受けた建物が「新耐震」
日本国内において地震が起きないと断言できる場所はないでしょう。「避けられない」「いつ起きるか分からない」といった地震に備える一番の方法は「地震に耐えられる強い建物を建てる」ということになります。そのための指針の一つが「耐震基準」です。耐震基準とは、建築基準法で定められている「建物がどの程度の地震に耐える能力を持っているか」という基準のことです。
これまで大規模地震があるたびに耐震基準は見直されてきましたが1978年6月の宮城県沖地震の被害を受けて1981年6月に耐震基準の大きな見直しがありました。1981年6月以前の耐震基準を旧耐震基準、それ以降のものが新耐震基準です。またそれぞれの基準に従って建築された建物のことを「旧耐震」「新耐震」と呼ぶこともあります。
マンションや住宅が新耐震・旧耐震のどちらかを見分けるポイントは、「建物がいつ建築確認を受けたのか」です。1981年6月以前に建築確認を受けた建物は旧耐震、以後ならば新耐震になります。竣工日(建物が完成した日)では、どちらの耐震基準で建てられているかを確定できませんので注意が必要です。
東日本大震災が証明した新・旧耐震基準の性能格差
新・旧耐震基準では耐えられる震度に大きな違いがあります。簡単にいうと旧耐震基準では震度5程度の地震に耐えられる(倒壊または崩壊がない)ことまでが要件とされていました。しかし新耐震基準では要件がより厳しく(部材の各部が損傷を受けない)、さらに震度6強〜7の地震に対しても人命に危険を及ぼすような倒壊や崩壊が生じないことが求められています。
旧耐震基準では、震度6以上の地震については定められていません。マンションの新・旧耐震性能の違いが証明された事例の一つが2011年3月11日の東日本大震災です。この地震による東北6県の耐震基準別によるマンションの被害傾向は、中破(大規模な補強・補修が必要な被害)となったマンションのうち旧耐震基準のものが新耐震基準のマンションに比べて4.4倍も多くなっていました。
長期・安定の中古不動産投資を行うなら「新耐震」
基本的に不動産は、良好な立地条件の場所から建物が建っていく傾向です。そのため不動産投資において立地条件にこだわっていくと築年数が古い建物が候補となることがあるでしょう。実際、古い建物でもリノベーションで見栄えや機能性を高められることから、好立地で比較的購入価格を抑えられる中古物件は一定の支持を集めています。
しかし上述したとおり、耐震性に関して新・旧耐震基準で大きな差があるのも事実です。また築年数の古いマンションでは「耐震診断が行われていない」「必要な耐震改修工事が実施されていない」など管理組合の震災対策が十分でないケースもあるでしょう。
旧耐震で震災対策も不十分なマンションを購入した場合、もし震災でマンションが大きな損傷を受けてしまうと復旧までに時間を要してしまいます。入居者が住めないような状態では、その間家賃収入が入らなくなるだけでなく賃貸借契約の解約などの事態に陥るかもしれません。そうなるとローン返済の資金繰りにも影響が出てくるでしょう。
気象庁地震火山部によると2019年時点で今後30年以内に南海トラフ沿いの大規模地震が起こる確率は70~80%といわれています。これらの状況を総合的に判断すると、これから不動産投資を考えている人が長期的に安定した賃貸経営を行うためには、中古マンションでも1981年6月以降に建築許可が出された「新耐震」のマンションを選ぶのが賢明だと言えるのではないでしょうか。