2000年の初めに誕生して以来、急成長を遂げた「丸亀製麺」。常識をことごとくひっくり返し、売れ続けている同店は、なぜNo.1ブランドになることができたのでしょうか。本連載では、創業者の行動と考えを至近距離で見てきた社長秘書・小野正誉氏の書籍『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?』(祥伝社)より一部を抜粋し、丸亀製麺の強さの秘密を紹介します。※記載の数値は、発売当初のものです。

「丸亀製麺」と「はなまるうどん」の2強とされるが…

丸亀製麺には年間1億5千万人以上のお客様が訪れます。皆さんも、どこかで一度は丸亀製麺のうどんを食べたり、あるいは純和風な毛筆字体の看板をご覧になったりしたことがあるのではないでしょうか。

 

日本の外食産業全体の規模は約25兆円。うどん・そば市場はマーケットの規模としては大きくて1兆円以上あります。そんな中、丸亀製麺の売上は約904億円(2018年3月期。国内のみ)。うどん業界ではダントツの1位を独走中です。

 

うどん業界は丸亀製麺とはなまるうどんの2強と言われていますが、2位のはなまるうどんは約480店舗、売上高約270億円(2018年2月期)。丸亀製麺は国内では約800店舗、海外では約200店舗にまでなりました。丸亀製麺は売上高でも店舗数でも、うどん業界で日本一なのです。

 

外食産業の市場規模は1997年の約29兆円をピークに年々減少していますが、少子高齢化が進む日本では、ますます衰退していくのは目に見えています。開業3年で約7割が倒産し、10年後も営業している飲食店は1割程度だという説もあるくらいです。そんな中、2014年の8月以降丸亀製麺では、既存店の売上高が40カ月以上対前年比100%以上を達成しています(オープン後18カ月経過した国内の店舗が対象)。

 

うどん・そばの業界は江戸時代より前からあり、激しい競争が繰り広げられてきました。丸亀製麺が本格的に参入した時点では、同じセルフ式のはなまるうどんは既に100店舗を超え、先頭を走っていました。

 

それでも丸亀製麺が業界ナンバー1になれたのはなぜでしょうか。それは長らく、秘密のベールに包まれていました。

 

トップ独走の秘密とは…
うどん業界ナンバーワン、「丸亀製麺」の秘密とは…

 

「最後の残された巨大マーケット」うどん・そば市場

実は、うどん・そば市場は「最後の残された巨大マーケット」と呼ばれています。市場規模は大きくても、9割程度が個人経営の店によって成り立っています。ハンバーガーのマクドナルドやアパレルのユニクロのように巨大なガリバー企業が参入していないので、成功のチャンスが眠る市場なのです。

 

とはいえ、それまでも山田うどんや杵屋(きねや)といったうどんチェーン店が昭和の時代から展開していました。そのような老舗(しにせ)企業であっても、山田うどんは最盛期で250店舗ほど、今は163店舗(2017年現在)。杵屋も以前は260店舗を超えていましたが、現在は172店舗(2017年現在)。多いときでも300店舗ぐらいの規模で収まっているのです。

 

老舗のうどんチェーン店は、通常のファミレスとの差別化を図るのが難しかったのかもしれません。

 

丸亀製麺が誕生した2000年ごろには、ファミレスは過当競争で右肩下がりになっていました。このころは深刻な不況が続き、デフレスパイラルに陥っていた時期です。牛丼チェーン店が400円台だった牛丼を200円台に値下げしたことから、熾烈(しれつ)な値下げ合戦が繰り広げられました。より低価格の店にお客様が流れたので、ファミレスは苦戦するようになったのです。

 

そこに起きたのが讃岐(さぬき)うどんブームです。打ちたて、茹(ゆ)でたてのうどんを一杯100~200円で食べられることが話題になり、全国から香川県に観光客が押し寄せました。

 

丸亀製麺が誕生したのは、そんなブームのころ。香川県の製麺所のように打ちたて、茹でたてのうどんをセルフ式で提供するという新しさが多くの人の心をつかみ、あっという間に全国区で展開するようになりました。この讃岐うどんブームの時期にそれに乗ってうどんチェーン店も次々とできました。

[図表]丸亀製麺の売上高と店舗数
[図表]丸亀製麺の売上高と店舗数

しかし、着実に店舗数を増やしていったところはごくわずかで、本場の香川県であっても常に数割の店舗が姿を消し入れ替わるといいます。それほど、ずっと選ばれ続けるのは厳しいという見えない壁があるのです。

 

そんな業界で丸亀製麺は2004年度末に13店舗だったのが、2007年度末に108店舗、2009年度末に300店舗を達成してうどん業界ナンバー1になりました。今もなお国内1000店舗を見据えて出店を継続しています。

「気がついたら生き残り、ナンバー1になっていた」

トリドールホールディングスが手掛けるのは丸亀製麺だけではありません。炭火焼鳥のとりどーる、焼きそば専門店の長田本庄軒(ながたほんじょうけん)、ハワイアンパンケーキのコナズ珈琲など、国内では10以上もの業態を手掛けています。

 

海外では中国や台湾などアジアを中心に丸亀製麺を展開する傍(かたわ)ら、現地で人気のある事業をM&Aで買収し、アジアンスタイルのヌードルチェーン店やアメリカの日本食レストランなどを展開しています。トリドールホールディングス全体では国内外で1500店舗以上、売上高1100億円以上を誇っているのです。

 

業界動向サーチによる飲食業界の売上高ランキングでは、トリドールは13位(平成27―28年)。トップを占めるのはゼンショー、すかいらーく、コロワイドといった超巨大企業です。トリドールは国内の展開に留まらず、さらには世界上場外食企業トップ10入りを目指し、2025年度に世界6000店舗、売上高5000億円を達成するという壮大な目標を掲げています。

 

丸亀製麺、そしてトリドールがここまで大きくなれたのはなぜか。それは他社との競争を重視しなかったことが最も大きな理由かもしれません。

 

同業他社と売上競争をしていたら、好立地を巡って陣地取りを繰り広げたり、値下げ合戦に巻き込まれたりして、企業は疲弊していきます。丸亀製麺は常にお客様のニーズやウォンツが何かを考えて店舗運営に反映し、効率や競合に競(せ)り勝つことを最優先しませんでした。

 

その結果、「気がついたら生き残り、ナンバー1になっていた」という結果を得られたのです。競合を尻目に業界ナンバー1を目指したのではなく、気がついたらそうなっていた。つまり、丸亀製麺は競争しないで生き残ってきたのです。

 

 

小野 正誉

株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書・IR担当

 

記載の数値は、書籍『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?』発売当初(2018年9月)のものです。

丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?―非効率の極め方と正しいムダのなくし方

丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?―非効率の極め方と正しいムダのなくし方

小野 正誉

祥伝社

お客様の歩数もメールも減らせ!効率なんていらない。競争はしない。でも、手間は極める。 創業者の行動と考えを至近距離で見てきた社長秘書が、丸亀製麺の強さの秘密を初公開します。「こんな効率の悪い店が成功するわけが…

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