新型コロナウイルスの流行により、本来ならば対面で行われるはずだった会議が「バーチャル」に移行するケースも多いことだろう。今回は創業者である粟田貴也氏の社長秘書・小野正誉氏の著書『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?』(祥伝社)より一部を抜粋し、以前より丸亀製麺で行われている「バーチャル会議」の有効性について解説する。

問題視されている、日本の生産性の低さ

今は働き方改革が政府主導で進められ、日本の生産性の低さが問題視されるようになっています。

 

OECD(経済協力開発機構)の2017年の調査によると、日本の年間平均労働時間は1710時間。ドイツの1356時間、フランスの1514時間と比べると、かなり長い傾向があります。ただし、これにはサービス残業は含まれていないので、実際には3000時間を超えるとの意見もあります。

 

日本生産性本部によると、日本の時間あたりの労働生産性はOECDに加盟する36カ国中21位で、先進7カ国の中では最下位だったそうです(2019年度)。

 

実は、日本の国内総生産(GDP)は約4兆9700ドルで世界3位、ドイツは約3兆9500ドルで4位と、日本のほうが上です。

 

ところが、労働生産性になると状況が変わります。GDPを労働者の数で割り、さらにその数値を労働時間で割ると、労働生産性を割り出せます。日本の1時間あたりの生産性は47ドル(約5000円)となり、8位のドイツの73ドル(約7900円)を大きく下回ります。

 

つまり、日本はドイツよりも人口が多くて国として稼いでいるのに、生産性は低い。

 

ドイツは少数精鋭で結果を出しているといえるでしょう。だからといってドイツ人の仕事量が少ないというわけではありません。会議の時間が短かったり、無駄話をせずに仕事をこなしたり、決められた時間内に作業を終わらせようとする意識が高いのだといいます。

長時間の会議は「ムダの代表選手」

日本では、長時間の会議はいつも問題にされるムダの代表選手です。本来は何かを決定するのが会議の目的なのに、長時間話し合うのが目的になっている企業は少なくないはずです。2、3時間話し合っても結論が出ず、「次回、この続きを話し合いましょう」とエンドレスで持ち越すのはよくあるケースです。

 

何かを決定するのが目的のはずなのに…
何かを決定するのが目的のはずなのに…

 

それは、全員が「いいね」と合意するのをゴールにしているからではないでしょうか。異論があっても決断して実行することができず、全員が納得するまで話し合おうとすると、時間がいくらあっても足りません。

 

全員、もしくは大多数の人が「いいね」と言うまで待つのは、自分ひとりが責任を負いたくないという意識があるからでしょう。そうなると自分の立場を守ることに懸命になり、お客様に意識が向かなくなります。

 

丸亀製麺では、物事を全員一致で決める会議はほとんどありません。各担当者が、「うちのエリアではこういう取り組みをしたい」という意思表示をする感じです。その案に対して、他の人たちが「前例はあるのか」「他社はその施策でうまくいってないじゃないか」などと口を挟むことはありません。

 

その提案をするまでに担当者は相当調査して、考え抜いていることはわかっているので、周りから頭ごなしに反対されることもなく、「では次の回で検証結果を共有してください」というふうに前に進んでいきます。

 

ただ、必ずしも和やかな賛成ムードで物事が進んでいくというわけではありません。「自分ならこういう方法でやるかもしれない」と意見する場合もあります。それでも「見送り」とはならずに、「可能性があるなら、やってみよう」となることが大半です。

 

「他の人の反対意見がないなら、社長と担当者の1対1でやりとりすればいいのでは?」と思うかもしれませんが、他部門の動きを知っておく場はやはり大事です。他の担当者とのやりとりを聞きながら、「そのチャレンジは面白いな」と気づきを得られる場面もあるでしょう。

「店舗を束ねるための会議」をバーチャルに移行

丸亀製麺では全員一致で何かを決める会議はほとんどありませんが、店舗を束ねるための会議はどうしても必要です。

 

丸亀製麺では店長やマネジャーは現場の管理や指導で手いっぱいで、ひんぱんに連絡会議やプロジェクト運営会議を開くことに限界を感じていました。そこで、リアルな会議をバーチャルの場に移すことにしました。

 

まず、社内SNSの「トークノート」を導入。これはトークノート株式会社が開発した社内SNSのシステムです。フェイスブックやラインと同じような機能ですが、セキュリティ度が高いのでビジネスに適しています。

 

約1000の店舗に1台ずつiPadを配り、トークノートでやりとりできるようにしました。

メリットは「リアル会議の時間短縮」だけじゃない

たとえば、「もったいないをなくそう」プロジェクトを立ち上げたとき、リアル会議が始まる前に、トークノートで店長やマネジャーたちの間で議論できる場を設けました。トークノートで仕切るのは、本社の営業サポート部の担当者です。

 

このときは専用ページを立ち上げ、まず「水道・光熱費を年間で8%削減する」というプロジェクトの目標を明示し、削減したコストを求人・設備投資に活用したいことも伝えて、なぜそのプロジェクトが必要なのかをメンバーに理解してもらいました。

 

そのうえで、メンバーに水道光熱費がどれぐらいかかっているのか、データを出してもらうように依頼しました。写真やグラフも投稿してもらうようにしたところ、メンバーが興味を持って読むので、リアル会議までに他店の状況を把握することに役立ちました。

 

これなら、リアル会議が始まってから各店舗にデータを出してもらい、全員で共有するという時間を削減できます。リアル会議では、初回から集まったデータをもとにどのように削減すればいいのかという具体的な議論になりました。

 

バーチャル会議はリアル会議の時間を減らせるだけではありません。リアル会議ではなかなか発言できない人も、自分の意見を書き込みやすいというメリットがあります。つまり、活発に議論できる場をつくれるということ。今の若い世代はSNSに慣れているので、リアルとバーチャルの会議を組み合わせると、議論が深まるかもしれません。

 

こういった取り組みは、形骸化しないためにも細やかに仕組みをつくりあげていかないといけません。それは手間暇がかかる作業ですが、定着したら大幅に時間とコストを削減できるので、導入するからには徹底すべきでしょう。

 

そもそも、社員が「こんな会議ムダだな」と思いながら参加している時点で、その会議は役割を果たしていないのでは、と思います。大きな会議に長時間をさくぐらいなら、少人数のミーティングを10分ほど開くほうが、よほど効率的です。生産性を生まないムダな時間こそ、働き方改革を妨げているのではないでしょうか。

 

 

小野 正誉

株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書兼IR担当

※記載の数値や内容については、発売当初のものです。

丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?―非効率の極め方と正しいムダのなくし方

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小野 正誉

祥伝社

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