丸亀製麺の国内店舗で、一番の売上を誇る「羽田空港第2ターミナル店」。大型店舗ではないにも関わらず、客足は途絶えない。同店が成長を続ける秘密はどこにあるのだろうか。創業者である粟田貴也氏の社長秘書・小野正誉氏の著書『丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?』(祥伝社)より一部を抜粋し、その秘密を紐解いていく。※記載の数値や内容については、発売当初のものです。

一番売れている羽田空港店は、常に客足が途絶えない

丸亀製麺の国内店舗で、一番売れているのは羽田空港の第二旅客ターミナルにあるお店です。

 

開店したばかりのころ、行列があまりにも長くなってしまったので嬉しい悲鳴が上がりました。同時に、「お客様は諦めて他のお店に行ってしまうのではないか」という心配もありました。

 

羽田空港第2ターミナル
店舗がある、羽田空港第2ターミナル

 

羽田空港店は、他の店舗に比べてお店が格段と広いというわけではありません。ただ、一日中ずっと客足が途絶えないのが羽田空港店ならではの特徴です。ピークがないからかえって強いのです。

 

他の店舗はランチタイムが勝負時で、一日の6割の売上を上げます。夜もお客様は入りますが、行列ができるほどではありませんし、それ以外の時間帯はポツポツ入る程度です。

 

羽田空港店はランチタイムにはやはり行列はできますが、それ以外の時間帯も客足は衰えません。

 

最近は飛行機の中であまり食事を出さなくなったので、早めにランチや夕食をとる方、遅いランチや夕食などをとる方のニーズに合っているのでしょう。

 

空港のレストランは料金が高い傾向がありますが、丸亀製麺は全国統一なので、安くて早く食事をとれるというのも人気の理由の一つです。しかし、売れているとはいえ、それに安住しているわけにはいきません。早急に問題点を解消しないと店の成長は頭打ちになってしまいます。

 

行列を解消するにはどうすればいいのでしょうか。

 

効率を考えれば、客席を増やしてお客様を詰め込んだり、制限時間を設けたり、料理を大量につくりおきするといった方法が考えられます。なかには椅子の座り心地を悪くして滞在時間を減らすなど、売上ファーストの方法を考えるお店もあるかもしれません。

 

しかし、どれも丸亀製麺としては受け入れがたい方法です。

 

車のガソリンを満タンにするようにただ食べ物をお腹に詰め込むだけの場になったら、丸亀製麺らしさがなくなってしまいます。

回転率を下げていたのは、見えないムダ

羽田空港店の売上を維持しつつ、さらにお客様によりよく利用していただくためにはどうしたらいいか。

 

この難題を解決するために、小さなムダを取り除く方法を取ることにしました。柔道でいうなら、一本勝ちを狙わず、合わせ技でポイントを稼ぐ方法です。

 

たとえば、お客様がお店に入って注文をして料理を受け取って、席に着いて食べてから店を出るまで、100歩歩くとします。それを70歩にすれば店全体の回転率を上げられます。

 

その30歩のムダをどのように減らすか。丸亀製麺でお食事していただいたことのある方ならおわかりかもしれませんが、会計を済ませた後は、ネギや天かす、薬味などを取り、水を汲んでから空いている席を探してそこでお食事していただくセルフスタイルです。

 

お客様の中には、「ネギと天かすを取り忘れていた」と席に着いてから取りに行く人、また、お水のお代わりを汲みに行く人などもいらっしゃいます。ピークの時間帯は、ネギと天かすを取るところに渋滞が起こったりします。

 

羽田空港店でまず取り組んだのは、お客様がお席に着くまでの歩数を減らすことでした。ネギや天かすの入った容器を3カ所に設置したり、お冷やピッチャーをテーブルに設置してお代わりを着席したまま汲めるようにしたり、そういった細かいことを積み上げていきました。

 

また、丸亀製麺は食べ終わった後、お盆を下げ場まで戻していただくシステムですが、それもピーク時間帯は混雑します。ですので、お盆を置けるボックスを店舗のフロア内に設置しました。

 

そのような地道な改善をしたところ、回転率が上がって売上が伸び、開店当初の2倍以上になった月もあります。利益を上げるのは商品の単価を上げたり、商品コストや人件費を削ったりするのが王道ですが、地道な改善の積み重ねでも実現できるのです。

 

丸亀製麺は羽田空港店に限らず、「レジを2台設置してみたらお客様の回転率が上がって、売上が0.5%増えた」といった成功例があれば、すぐに他の店でも実践してみます。そのような小さな成功例ほど、ムダにできません。

見えない「ムダ」を徹底的に削る

有名なトヨタ自動車の「ムダとり」は、工場で工具の置き場所を変えたり、作業をする姿勢を変えて作業のムダを省くことで生産性を上げるという方法です。丸亀製麺でも小さな「ムダとり」を実践しました。

 

丸亀製麺の場合、お店で出来たての料理を出すという点は譲れません。

 

味を落とせないので商品コストも削れませんし、サービスの質を保つために人件費を削減することもできません。それらは丸亀製麺にとってはムダではなく、財産なのです。その財産を活かすために、小さなムダを探す。そしてお客様のストレスを軽減しつつ知恵をしぼってムダを省いていく、それが丸亀製麺流の「ムダとり」だといえます。

 

組織が大きくなればなるほど増えていくのが、ムダな作業です。一つの物事を進めるために、いくつもの部署に確認をとるので時間がかかったり、パソコンで済む作業を手作業で続けていたり、おそらく誰もが「これってムダだな」と感じる作業があるでしょう。

 

丸亀製麺は接客では非効率を徹底していますが、その裏側の管理ではムダな作業を徹底的に削っています。その一つが、店舗の管理業務です。通常、作業でIT化を進めると中高年のスタッフがついていけないという事態が発生します。そして、そのシステムがほとんど使われないまま終わってしまうというのはよくある話です。

 

しかし、日本で少子高齢化が進んでいるのは周知の事実。

 

ITを「できれば」導入したいという話ではなく、IT化「しなければ」やっていけないのです。中高年層にITをうまく導入できないのは、人をITに合わせようとするからだと思います。若い世代であっても、新しいシステムや機器には戸惑うものです。中高年ならなおさらで、最初につまずいてしまうと苦手意識がさらに強まってしまいます。

 

これからの時代は、ITを人に合わせないといけないのではないでしょうか。

 

丸亀製麺は中高年のパートナーさんがたくさん活躍されていて、その方々が中心になって報告業務をするので、最初から誰でも使えるシステムにすることを考慮しました。

 

 

小野 正誉

株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書兼IR担当

 

※記載の数値や内容については、発売当初のものです。

丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?―非効率の極め方と正しいムダのなくし方

丸亀製麺はなぜNo.1になれたのか?―非効率の極め方と正しいムダのなくし方

小野 正誉

祥伝社

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