ITを人に合わせて、誰でも使えるシステムに
丸亀製麺は店舗ごとに手仕込みの調理をしているので、品質のブレをなくすために、数時間ごとにQ(Quality =品質)S(Service =サービス)C(Cleanliness =清潔)をチェックしなければなりません。出来たての料理を提供しているか、客席の掃除は行き届いているか、といったことを1日に8回チェックしています。
以前は紙のチェックシートに記入し、それをスキャンしてPDF化し、各エリアのマネジャーに毎日メールで送ってもらっていました。ただでさえ調理や接客で忙しいのに、さらに面倒な作業です。しかも、真剣にチェックしているのか、毎日送っているのか、本社ではチェックしきれず、形骸化しつつありました。
そこで、2014年から株式会社シムトップスが販売している「i-Reporter」という帳票を記録・報告・閲覧するシステムを導入し、今まで紙でやっていた作業をiPadで行えるようにしました。
このシステムは使い慣れた紙の帳票をそのままiPadの画面に再現できるので、中高年のパートナーさんでも混乱なく使えます。画面にタッチするだけでいいとわかると、みな安心して使うようになりました。スキャンしてPDF化してメールに添付するという手間もなくなり、ムダな管理業務を減らせました。
今までは8回分のシートを閉店後一括で送っていましたが、1回ごとにサーバーに送れるので、マネジャーや本社もリアルタイムの情報を把握できるようになったという利点もあります。
全店舗の年間作業時間を「約2400時間」削減!
パートナーさんたちが「i-Reporter」に慣れてきたころを見計らって、さまざまな管理をiPadでできるようにしていきました。
丸亀製麺では、パートナーさんたちの体温を毎日チェックしています。お店に体温計が置いてあり、出社したらまず体温を測ることになっています。もし平熱より体温が高かったら、保菌している可能性もあるのでお店には出られません。その体温を毎日iPadに入力して、管理しています。
また、丸亀製麺は新しいフェアメニューを投入するとき、店の入り口にそのPOP広告のパネルを掲示することになっています。お店には事前にパネルを配っていますが、それをフェア初日から設置しているかどうかまでは、本社ではなかなかチェックできません。それまでは設置したかどうかを紙のチェックシートに記入してもらっていましたが、実際には設置していないお店もあったようです。
そのため、チーフマネジャーが店舗に設置してある防犯用WEBカメラをリモートで動かして、店頭にPOPが設置しているかどうかを確認していました。チーフマネジャーは50店舗ぐらいを管理しているので、この作業だけで3時間もかかっていたそうです。
この時間のムダをなくすために、パートナーさんたちにパネルを飾っている画像をiPadで送ってもらうことにしました。この試みは大成功で、チーフマネジャーの確認作業はわずか10分で済むようになりました。3時間から10分というのは大きな成果です。
そのほか、冷蔵庫の中の様子もiPadで撮影して、その画像を送ってもらっています。在庫の状況がリアルタイムで把握できるので商品のロスを防げますし、材料を適正な場所に保存しているかどうかもチェックできます。今は、出汁の温度を時間帯ごとにチェックできるようにもなりました。
このシステムを導入してから、全店舗での年間作業時間を約2400時間削減できました。何より、パートナーさんたちにiPadを使うと作業が楽になると理解してもらえたのが大きかったです。
「誰にでも使えるような」システムにする
新しいシステムを導入するときは、現場で多少の混乱が生じますし、導入コストもかかります。
それでも、慣れれば大幅に時間を短縮できるので、結果的にコスト削減にもつながります。ただし、大切なのは誰にでも使えるようなシステムにすること、そして段階的に取り入れていくということ。
このシステムを導入するとき、最初は一部の店舗で実験してから、全店舗での導入に踏み切りました。これなら、現場のパートナーさんたちがどのような操作に戸惑うのかを把握し、改善したうえで、すべてのお店で展開できましたので、混乱を抑えられます。
関係者を全員集めて講習会を開くという方法もありますが、一度で覚えられる人はそれほど多くはいません。日常の業務の中で、迷うことなく操作できるシステムでなければ、現場には根付かないでしょう。丸亀製麺では、今ではすべての店舗で毎日QSCをチェックするようになりました。それに伴いサービスの質も向上していったのです。
日本は高齢化率が世界一だと言われています。これから少子高齢化が進んで、どの企業も社員の高齢化が進むのを避けられません。適応力が低いからとシステムや新しい機器の導入を控えていては、生産性は低下するばかりです。工夫すれば道は開けますし、その工夫が新しいビジネスのヒントにもなるのではと思います。
小野 正誉
株式会社トリドールホールディングス 経営企画室 社長秘書兼IR担当