新型コロナで危ない経済…米国の消費堅調も「支えきれぬ」か?

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が懸念されるなか、米国経済では消費が堅調に推移している。市場では、新型コロナウイルス拡大懸念に関して、株式市場、原油市場は楽観的な見方が観測できるものの、債券市場、金市場ではリスク懸念に備える動きとなり、反応が割れた。今後の注目ポイントを、Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bankの長谷川建一CIOが解説する。

個人消費は引き続き力強く米国経済を牽引している

まず、注目しておくべき米国の経済指標から見ておきたい。14日に、米商務省が発表した小売売上高(1月)は、前月比0.3%増と4ヵ月連続の増加となった。前月の12月は速報値の0.3%増から0.2%増に下方修正された。コア売上高の指標は前月比変わらずで、前月12月は0.2%増と速報値0.5%増から軟化した。

 

しかし、1月の小売は、主要13項目のうち9項目で、前月比増加した。建設資材や無店舗小売りでは、いずれも昨年8月以来の高い伸びを示している。総合小売店の売上高も6カ月ぶりの大幅増加が見られた。家具・家庭用品店も4年ぶりの好調な小売を記録した。総じて見れば、小売店での売上は、安定した需要を受けて堅調に推移しており、個人消費は引き続き力強く米国経済を牽引していることを示している。

 

同じ14日に発表されたミシガン大学消費者マインド指数(2月・速報値)は、市場の事前予想の99.5、前月の99.8を上回って、100.9に上昇と、ほぼ2年ぶりに高水準となった。歴史的に見ても低い失業率と賃金の増加傾向にあり、消費者マインドは6ヵ月連続で改善している。1月の米中通商合意も加わって、家計や景気に対する見方は改善していることを示す数字だと解釈できよう。家計の財務動向と経済の見通しに対する見方は、米国に関しては明るい。

 

企業の設備投資には弱さが見られることや輸出市場が芳しくないこと、ボーイング737MAXの生産停止という逆風がありながらも、米国経済の成長が続くと市場が受け止めているのも、頷ける部分はある。

新型コロナの脅威…米大統領には「未だ対岸の火事」か

ただ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、今後の経済的リスクであろう。市場は、短期間での事態の沈静化を期待している。中国がうまく感染の拡大を封じ込め、その影響を抑え、世界経済に与える影響が限定的なものになると決め打ちしている部分はないだろうか。

 

トランプ大統領は、新型コロナウイルス感染について、習近平国家主席と電話会談したあと、中国が感染拡大を制御するため「一生懸命に取り組んで」おり、中国当局は非常に有能で、しっかりと対処するだろう」と信頼感すら口にした。しかし、米国内で出た新型ウイルス感染者は短期間で症状が改善、回復したケースもあり、また、インフルエンザ禍のほうが深刻でひどい事態であるため、新型コロナウイルスの感染拡大とその影響は対岸の火事のように見えているのではないだろうか。

 

 

トランプ米大統領にとって新型コロナは未だ「対岸の火事」なのか?
トランプ米大統領にとって新型コロナは未だ「対岸の火事」なのか?

中国政府は感染拡大防止に隔離措置を強化…実効性は?

確かに、中国政府はより徹底した対応を取るようになってきている。湖北省では、新型ウイルス感染の発生地である武漢市とその周辺で、感染拡大防止に向け住民に対する隔離措置を一段と強化した。医療サービスを受けたり、医療・検疫作業を支援したり、不可欠なサービスの提供をする以外には、居住地域を離れてはならないという外出制限も適用した。

 

しかし、住民がどのように食糧などを確保するのかは、はっきりしておらず、どこまで、実効性があるのかは不明である。工場の再開も、17日からの予定をさらに2週間程度延期する措置を各社に通知しているようだ。中国国家衛生健康委員会が、15日に発表した感染症例は、1日で2,641件増えて累計で66,492件になった。死者は計1,523人に達しており、感染者の増加基調には歯止めがかかっていない。

米国の専門家派遣を拒絶、WHO提案を受け入れた中国

中国による新型コロナウイルス感染拡大の対応への批判は、ホワイトハウス内からも、出てくるようになってきた。クドロー国家経済会議(NEC)委員長は13日、中国政府によって公表される感染症例と死者数の正確さに疑問を呈し、中国政府の情報の透明性を疑うと述べた。また、米国が提案した専門家らの派遣に対し、中国から受け入れの意思すら伝えられていないことに米国は失望していると語った。

 

WHO緊急事態プログラム責任者のマイク・ライアン氏によるとWHOが派遣する特別専門家チームが週末にも中国入りし、10日に中国入りしていた先遣隊と合流して状況の把握に当たるという。中国としては、米国に差し伸べられた手よりも、WHOの方が受け入れやすいということだろう。

 

テドロス・世界保健機関(WHO)事務局長は新型コロナウイルスの正式名称を「COVID-19」とすることを発表した。WHOは、新型コロナウイルス「COVID-19」の感染症例報告が増加していることを認めながらも、横浜に停泊中のクルーズ船での集団感染を除き、新型コロナウイルス感染例は中国本土以外では「劇的に」増えているわけではないとの認識を示した。

株式市場、債券市場、原油市場、金市場が揃って上昇

14日の米国株式相場は、前述の通り、比較的堅調な小売売上高の指標を受けて、S&P500とナスダックが小幅高となった。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大に関する中国当局の発表を受けて上値追いは限定され、出来高は平均的なボリュームを下回った。

 

対照的に、米国の消費堅調が確認されたとなれば、値を下げるはずの米国債券市場は続伸し、10年米国債利回りは1.59%に低下した。株式市場と債券市場の動きに整合性は見て取れず、市場参加者の見方が分かれていることを示していると言えるだろう。

 

ニューヨーク原油先物相場は、4日続けて上昇した。新型コロナウイルス感染の拡大は、一時的なものとの見方が、投資家に安心感を与えた。ゴールドマン・サックスが、今年の原油需要見通しと第1四半期の原油価格見通しを下方修正したと伝えられたものの、楽観ムードの方が優った模様である。WTI先物3月限は63セント(1.2%)高の1バレル=52.05ドルで取引を終えた。

 

一方で、ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物4月限は0.5%高の1オンス=1,586.40ドルで引けた。週を通して0.8%上昇したことになる。金相場の参加者は、原油市場の参加者よりも、新型コロナウイルスの感染拡大が、世界経済に与える影響に対して懸念が強いとも言えそうである。資産逃避先、もしくは代替投資先として、金への需要が高まるという見方は根強い。

注目…緊急事態が政策発動のトリガーになる可能性も

新型コロナウイルスの感染拡大が、世界経済に与える影響は、まだ計測し難い段階である。ただ、中国で大規模に生産活動が停止しているという事実、資金決済なども一部では滞り始めてきたことや代替手段の手当には相応に時間を要することなどを考慮すると、少なくとも第1四半期の生産や物流の減少による影響は少ないとは言えないだろう。米国経済の消費が、いかに堅調であろうと、それらを打ち返すに十分かと言えば、心許ないのではないだろうか。

 

ただ、こうした事態が、政策発動のトリガーとなり、生産の落ち込みの打ち返しへの期待が高まることも、事実ではある。今しばらくは、影響の大きさと、特に米中両政府の政策発動に気を配りながら、ポジションを取っていくしかないだろう。

 

 

長谷川 建一

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

 

Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO

京都大学卒、MBA(神戸大学)。
シティバンク日本及びニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任後、2000年にシティバンク日本のリテール部門で商品開発や市場営業部門のヘッドに就任。2002年にシティグループ・プライベートバンクのマーケティング部門ヘッドに就任。 2004年末、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に移り、マーケティング責任者として活躍。2009年からはアジア・リテール戦略を担い、2010年は香港にてBTMUウエルスマネージメント事業の立ち上げに従事。
2013年よりNippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク/日本ウェルス)を創業し、COOに就任。2017年3月よりCIOを務める。

WEBサイト https://jp.www.nipponwealth.com/

長谷川建一氏登壇のセミナー https://gentosha-go.com/articles/-/13973

著者紹介

連載香港発!グローバル資産防衛のためのマーケットウォッチ

本稿は、個人的な見解を述べたもので、NWBとしての公式見解ではない点、ご留意ください。

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