どこの街に住むかの選択は、仕事やプライベートに大きな影響を与える。さらに家賃が家計支出の大きなウェイトを占めることを考えると、居住地は資産形成までも左右するといえるだろう。総合的に考えて住みやすい街はどこなのだろうか? 今回取り上げるのは、東急池上線。

他路線と直通運転のない「東急池上線」

東京・品川区の「五反田」駅と、東京・大田区の「蒲田」駅を結ぶ東急池上線。東京都心を走る私鉄の多くが地下鉄に乗り入れ、都心にダイレクトにアクセスできるのに対し、池上線はどの路線とも直通運転はしていない。そのため「都会のローカル線」などと称されることもある。

 

地味な存在ではあるが、池上線の歴史は東急電鉄の路線のなかでも古く、1922年、池上電気鉄道が池上本門寺の参詣客の輸送を目的に「蒲田」~「池上」間を開業させたのが始まり。長らく昭和の雰囲気を残す、牧歌的な雰囲気を漂わせていたが、2017年、東急電鉄は沿線自治体と連携し、池上線沿線を活性化させる、「生活名所」プロジェクトを展開し、一気に注目を集めることになる。プロジェクトの第1弾として行った「池上線フリー乗車デー」は、1日無料で池上線に乗車できるイベントということもあり、50万人以上が参加するほど盛況を博した。

 

また「木になるリニューアル」と称して行われた「戸越銀座」駅のリニューアルではグッドデザイン賞を受賞し話題になり、その第2弾として行われた「旗の台」駅のリニューアルも2019年に完成。2018年には「五反田」~「大崎広小路」間の高架下に伴い、新たに商業施設「池上線五反田高架下」が開業するなど、新しいコンテンツも増えている。

 

以前は知る人ぞ知る都会のローカル線だったが、いまや、いつか住んでみたい都会のローカル線へと変貌しつつあるのだ。

 

 

そんな東急池上線の住み心地はどうだろうか。20~30代の一人暮らしの会社員が賃貸マンションに住むことを想定し、沿線の街を見ていこう。

 

まず平日通勤時間帯の「五反田」と「蒲田」間の所要時間を見てみよう(図表1)。平日8時出発とした際、二つの駅の所要時間は25分前後となり、「洗足池」~「雪が谷大塚」あたりがちょうど中間地点となる。「蒲田」でJR京浜東北線に乗り換えて都心方面に向かうか、「五反田」でJR山手線に乗り換えて「渋谷」「新宿」「池袋」方面、または都営地下鉄浅草線に乗り換えて都心方面に向かうかによって、居住地候補は「蒲田」寄りか、「五反田」寄りに変わるだろう。

 

また東急池上線の混雑率は、130%ほど。これは楽にスマートフォンを操作できるレベルである。他の私鉄路線に比べデータ上はかなり余裕がある路線ではあるが、列車は3両編成と短く、通勤ラッシュ時の混雑を嘆く声も多い。ちなみに「蒲田」方面列車よりも「五反田」方面列車のほうが混雑する傾向にある。

 

次に各駅の平均家賃(駅から徒歩10分圏内/1K~1DK)を見ていこう(図表1)。JR線と接続する「五反田」「蒲田」のほか、「戸越銀座」「荏原中延」は9万円台、「蒲田」の隣駅「蓮沼」は8万円台となる。それらの駅に挟まれた区間は、6~7万円台で、最安駅は「御嶽山」で6万円前半となる。なお単身者向けの物件数が少なく、平均家賃として信ぴょう性が欠ける駅は表内でグレーで示している。

 

厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の男性会社員の平均給与/月は、20~24歳で23.01万円、25~29歳で26.01万円、30~34歳で29.34万円、35~39歳で32.22万円となっている。企業規模によって平均給与は異なるが、そこから住民税や所得税などを差し引いた手取り額は、20代であれば18~20万円、30代で22~24万円程度と考えられる。また、手取り月収の1/3以内を適正家賃と考えると、20代会社員の適正家賃は6万~6.7万円、30代会社員の適正家賃は7.4万~8.1万円となる。

 

これをもとに各駅の平均家賃を見ていくと、20代会社員であれば「長原」「洗足池」「石川台」「御嶽山」「池上」の5駅が候補駅になり、30代であればそこに「旗の台」「雪が谷大塚」「久が原」が加わる。大田区、品川区は都内でも良好な住環境で人気エリアだが、東急池上線沿線であれば、20代会社員でも住むことができる駅(街)がある。住むなら東京23区で、というこだわりがあるなら、有力な候補路線になるだろう。

 

出所:平均家賃、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ(2月13日時点)、各駅より徒歩10分圏内の物件を対象とする
[図表1]東急池上線各駅の「五反田」「蒲田」までの所要時間と、駅周辺の平均家賃 出所:平均家賃、公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会調べ(2月13日時点)、各駅より徒歩10分圏内の物件を対象とする

地味な駅ばかりでも、住環境は二重丸

平日通勤時間帯の所要時間と各駅の平均家賃を見てきたが、実際の暮らしはどうなのだろうか。それぞれ見ていこう。

 

■「五反田」~「長原」

「五反田」を起点とすると10分圏内となるエリア。「五反田」に近い「戸越銀座」や「荏原中延」は家賃は高いが、「戸越銀座」であれば都営地下鉄浅草線「戸越」駅、「荏原中延」であれば都営地下鉄浅草線、東急大井町線「中延」駅が近接しており、複数路線が使える利便性が魅力だ。また商店街が充実していて、生活の利便性も申し分ない。

 

30代であれば適正家賃内となる「旗の台」は、東急大井町線と交差する接続駅。閑静な住宅街が広がり、目立った商業の集積は見られないが、駅周辺を始めコンビニが点在してるので、1人暮らしであれば困ることはないだろう。

 

都内でも有数の規模を誇る戸越銀座商店街
都内でも有数の規模を誇る戸越銀座商店街

 

■「洗足池」~「千鳥町」

「五反田」を起点とすると20分圏内となるエリアで閑静な住宅街が広がる。どの駅も目立った商業の集積は見られないが、最寄り品は駅周辺の商店を中心に手に入れることができ、生活に困ることはないだろう。

 

「御嶽山」は池上線のなかでも地味な駅ではあるが、駅を挟みそれぞれに比較的大きなスーパーがあり、1人暮らしには重宝する。また「久が原」駅は駅を挟み東西に商店街が伸びるほかスーパーは2軒あり、街はコンパクトながら生活利便性は高い。

 

■「池上」~「蒲田」

「五反田」を起点とすると30内となるエリア。「池上」は「五反田」「蒲田」の両ターミナル駅を除き、沿線最大の駅だ。現在、駅舎はリニューアル工事中で、今年6月には5階建ての駅ビルとなってオープンする予定。池上本門寺の最寄り駅であり、駅北側の池上通り沿いには商店街が広がる。駅周辺には小型~中型のスーパーも点在し、生活利便性も高い。

 

東急池上線沿線は、ターミナル駅を除くと目立った商業の集積は見られず、知名度のある駅もない。駅周辺は下町の雰囲気が漂い、昔ながらの商店街が残る。また品川区、大田区は都内でも銭湯が多いエリアでもあり、情緒あふれるライフスタイルがかなう。一方で、他の私鉄沿線エリアと比べると、1人暮らしに便利な外食チェーンは少なめ。地域に根差した飲食店は多いので、エリアに溶け込むことに臆することのない人であればプライベートも充実するだろう。

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