23区でも家賃が安いエリアを走る「京成本線」
「京成上野」駅と千葉県成田市の「成田空港」駅を結ぶ京成本線。京成電鉄の基幹路線だが、海外旅行のときに利用する鉄道路線、というイメージが強いだろうか。京成本線は長らく成田国際空港への輸送をJR線と共に担っていたが、2010年に成田空港線(成田スカイアクセス線、「京成高砂」~「成田空港」)が開業してからは、その色は薄れている。
通勤路線としては、JRや東京メトロと接続する「京成上野」と「日暮里」がターミナル駅としての機能を果たす。一方で「市川真間」~「京成津田沼」ではJR総武線と競合し、都心に向かう時間だけで見ると、JR線利用のほうが有利だ。また「青砥」では京成押上線と接続。「押上」で都営地下鉄浅草線に、さらに「泉岳寺」で京急本線に乗り入れ、横浜や羽田空港方面にもダイレクトにアクセスできる。途中駅で乗り換えれば、多方面にアクセスできるのが、京成本線の魅力のひとつだ。
そんな京成本線沿線の住み心地はどうだろうか。20~30代の一人暮らしの会社員が賃貸マンションに住むことを想定し、沿線の街を見ていこう。
まず平日通勤時間帯の「日暮里」までの所要時間を見てみると(図表1)、10分圏内であれば「京成関屋」まで、20分圏内であれば「京成高砂」まで、30分圏内であれば「京成八幡」の隣、「鬼越」までがボーダーとなる。快速特急などの速達列車を利用すれば、「日暮里」~「京成船橋」で30分強、「京成津田沼」で40分強程度なので、都心勤めの単身者でも、十分に居住地候補として考えられるだろう。
また京成本線の混雑率は、130%ほど。これは楽にスマートフォンを操作できるレベルである。京成本線はJR総武線や東京メトロ東西線、都営地下鉄新宿線などと競合する区間が多く、利用客が分散されている結果だろ思われる。速達列車は各駅停車よりも混雑している印象だが、それでもすし詰め状態の満員電車が多い他の私鉄路線と比べると、ラッシュの混雑率はかなり低いといえるだろう。
各駅の平均家賃(駅から徒歩10分圏内/1K~1DK)を見ていこう(図表1)。JR山手線と接続する「日暮里」で7.00万円。再開発が進む「千住大橋」は7.64万円と平均家賃が高くなるが、都内駅であれば、5~6万円台が相場となる。江戸川を越え千葉県に入ると平均家賃5万円台の駅も出てくるが、JR線も利用でき交通利便性の高い「京成船橋」は6.48万円と周辺駅と比べて若干高め。「日暮里」まで40分圏内の「京成津田沼」では、5.69万円となる。なお単身者向けの物件数が少なく、平均家賃として信ぴょう性が欠ける駅は今回対象から外して考えていく。
厚生労働省が発表している「賃金構造基本統計調査」によると、都内勤務の男性会社員の平均給与/月は、20~24歳で23.01万円、25~29歳で26.01万円、30~34歳で29.34万円、35~39歳で32.22万円となっている。企業規模によって平均給与は異なるが、そこから住民税や所得税などを差し引いた手取り額は、20代であれば18~20万円、30代で22~24万円程度と考えられる。また、手取り月収の1/3以内を適正家賃と考えると、20代会社員の適正家賃は6万~6.7万円、30代会社員の適正家賃は7.4万~8.1万円となる。
これをもとに各駅の平均家賃を見ていくと、20代会社員であれば「日暮里」や「千住大橋」を除き、ほとんどの駅が適正家賃内であり、30代であればほぼ全駅が候補駅として考えられるだろう。京成本線は、東京都区内でも比較的家賃相場の低いといわれる、荒川区や足立区、葛飾区を通る。家賃を抑えたいと考える都心勤務の会社員にとって、ありがたい路線といえるだろう。
利便性の高い駅が点在するが、やっぱり災害が心配
平日通勤時間帯の「日暮里」までの所要時間と各駅の平均家賃を見てきたが、実際の暮らしはどうなのだろうか。それぞれ見ていこう。
■「日暮里」~「京成関屋」
「日暮里」まで10分圏内のエリア。ここで住まい探しの有力候補になるのが、「日暮里」と「町屋」だろう。
「日暮里」は前出の通りJR山手線のほか、日暮里・舎人ライナーも乗り入れる。JRは京浜東北線、常磐線の利用も可能で、1回の乗換えで多方面にアクセスできる。また「谷中銀座商店街」や「日暮里繊維街」と、昨今、海外観光客からも人気が高いスポットがあり、休日の散策が楽しいエリアである。大きな商業施設はないが、街中には小規模なスーパーが点在しているので、1人暮らしであれば問題ないだろう。
「町屋」は都電荒川線のほか、東京メトロ千代田線に接続し、「大手町」や「表参道」などの都心にもアクセスできる。「町屋駅前銀座商店街」など商店街が充実し、生活利便性も高いエリアである。
■「堀切菖蒲園」~「京成高砂」
「日暮里」まで20分圏内のエリア。このエリアであれば「青砥」以東の駅がいいだろう。前出の通り、本線で上野方面に向かうことができるほか、押上線~都営地下鉄浅草線~京急本線で、銀座や品川、横浜方面へとアクセスできる。生活利便性の点では、駅前に大型スーパーが出店する「京成高砂」が、頭一つ抜けている存在だ。
■「京成小岩」~「京成八幡」
「日暮里」まで30分圏内のエリア。各駅停車のみの「江戸川」「国府台」「市川真間」「菅野」は賃貸物件の数も少なく、住まい探しの対象になりづらい。
「京成小岩」と「京成八幡」はどちらも速達列車が停まる。特に「京成八幡」は都営地下鉄新宿線「本八幡」駅と地下通路で繋がり、駅周辺は市川市の行政・商業の中心を担っており、生活利便性も非常に高いエリアである。「京成小岩」は停車する速達列車の種別は限られるが、周辺に深夜24~25時まで営業する中規模スーパーが2店あり、生活利便性も申し分ないだろう。
京成本線沿線は家賃相場がリーズナブルで、乗り入れ路線、接続路線を利用すれば多方面にアクセスできる交通利便性の高い路線である。沿線の懸念点をあげるとすれば、木造住宅の密集地であり、災害に対して脆弱な点だ。
東京都では、地震の揺れによる「建物倒壊危険度(建物倒壊の危険性)」「火災危険度(火災の発生による延焼の危険性)」「総合危険度(2指標に災害時活動困難度を加味して総合化したもの)の危険性を町丁目ごとに分析。平成30年に公表された第8回目の調査では、都内の市街化区域の5,177町丁目について、5つのランクに分けて相対的に評価をしている(図表2)。その調査によると、京成本線沿線は地盤が弱く、地震による災害リスクは非常に高い。
また水害リスクも高いエリアで、最悪の場合、区外非難が余儀なくされる。京成本線沿線で住まいを探す際には、周辺環境、ハザードマップのほか、建物自体の安全性もしっかりと確認しておきたい。