不動産投資の「決算」と「確定申告」
決算とは一般的に法人が一定期間(基本的には12ヵ月)の収益や費用、利益や損失、資産状況などを計算してまとめることです。そのため自社の決算期に応じて毎年1年間分の決算を行わなければなりません。たとえば3月決算の会社であれば4月~翌年3月までの1年間の利益を精査して確定させます。
一方確定申告とは個人や個人事業主の1月1日~12月31日までの1年間の所得を確定し、所得に掛かる税金を計算して税務署へ申告・納税をすることです。決算および確定申告のどちらも利益や所得に応じて国や自治体に対して納税する義務があります。一般的に公務員やサラリーマンなどの給与所得者は、給与や賞与から勤務先が所得税を源泉徴収して本人に代わり納税しているため、確定申告は不要です。
ただ不動産投資をしている場合は給与所得以外の所得が発生するため確定申告が必要になります。また独立して事業をしている個人事業主も確定申告が必要です。なお確定申告は、所得のあった年度の翌年2月16日〜3月15日(休日の場合は翌営業日)の間に行います。そのため期限に間に合うよう前もって確定申告や納税の準備をしておきましょう。
不動産投資の決算で気をつけるべきポイント
確定申告の時に提出する決算書は金融機関へローンを依頼する際にも提出を求められます。経営状況や財務状況を金融機関の担当者へしっかりと説明する必要があるため、自分自身で決算内容をよく理解しておくことが重要です。そして決算書作成の段階では、とにかく正確さを心がけましょう。税金を安くするために所得を低く改ざんしたり融資を受けやすくするために所得を大きく見せかけたりする行為は、粉飾決算となるため絶対にしてはいけません。
むしろ大切なことは、試算表(決算書になる前の集計表)を毎月作成し、きちんとお金の流れを把握しておくことです。その試算表を参考にして将来のリフォームやリノベーション費用を積み立てておきましょう。金融機関へ融資を申し込む場合は、最新の試算表の提出を求められることが多いので毎月試算表を準備しておけば急に良い物件に巡り合ったときにバタバタせずに申し込みができます。
確定申告の「準備」と「進め方」
毎年の確定申告の流れは主に3つです。
1. 必要書類を集める
2. 決算を行いつつ税額計算と申告書類の作成
3. 提出・納税
必要書類は、家賃収入が分かる預金通帳などの写し、経費が分かる領収書やクレジットカードの明細、金利を含めたローンの支払状況が分かる書類などです。また確定申告は不動産投資単体で行うのではなく給与所得など他の所得も合算して総合的に計算するため、給与所得がある人は源泉徴収票も用意しておきましょう。医療費の控除を受ける場合には、医療機関などの領収書もすべて忘れずに用意しておく必要があります。
次に決算や申告書類などの作成ですが、給与所得がある人が提出する主な書類は「収支内訳書(不動産所得用)」と「確定申告書B」です。「収支内訳書(不動産所得用)」では、減価償却費の計算も必要なので注意しましょう。
青色申告をする人は「青色申告決算書」を提出します。青色申告を行うと10万円または65万円を所得から控除することができます。65万円の控除を受けるには、アパートは10室以上、貸家は5棟以上に相当するような「事業的規模」で不動産投資をしなければなりません。控除金額が65万円とメリットが大きいため、複数の不動産を保有する人は青色申告の選択も検討すると良いでしょう。
確定申告書はAとBの2種類のフォーマットがあります。
●確定申告書A
所得の種類が給与所得・公的年金などの雑所得・配当所得および一時所得のみの人のための申告書
●確定申告書B
所得の種類にかかわらずだれでも使用できる申告書
不動産投資家は確定申告書Bなので間違えないようにしましょう。これらの書類が用意できたら、それを郵送または電子申告で提出します。納税は指定した金融機関の預貯金口座から「振替納付」「電子納付」「クレジットカードで納付」「現金で納付」のいずれか都合の良い方法で納めましょう。
申告のタイミングですが、提出期限ギリギリになるとミスの原因にもなります。また申告の遅れにはペナルティーが発生する場合もありますので時間に余裕を持って事前にある程度まとめておきましょう。提出前に慌てないように、日頃からお金の流れをしっかり把握しておくことが大切です。
不動産投資において課税対象となるのは、家賃収入から必要経費を差し引いた所得です。所得が少ないほど支払う税金額は減ります。その基準は「賃貸経営という本来の業務に関係があるかないか」ということです。家賃収入を得るために必要な支出ならOKですが、線引きが難しいものもありますので以下で検証していきましょう。
1.管理費、修繕積立金、修繕費、減価償却費
区分マンション所有者が管理組合に対して支払う管理費や修繕積立金は、経費としての計上が可能です。これらは確定申告前に1年分の領収書をまとめて発行してもらえます。リフォーム代などの修繕費も可能です。減価償却費は物件の取得費用を耐用年数に応じて分割して計上するため実際の支出はありませんが、経費として認められますので会計上では有力な節税手段となります。
2.保険料、税金、手数料
火災保険や地震保険は経費として計上できます。主な地震保険が1年更新であるのに対して火災保険は最長10年分をまとめて支払うこともできますが、初年度にまとめて計上するのではなく年ごとに分割して計上します。物件を購入した際に求められる不動産取得税、登録免許税に加え、固定資産税、課税文書に貼り付ける印紙代も計上可能です。
手数料関係では、物件購入時に不動産会社に支払う仲介手数料、登記を依頼した司法書士への報酬も経費にできますが、住民税や所得税は必要経費になりません。なお金融機関に支払うローンの利息分は経費として計上可能です。
3.広告宣伝費、セミナー
不動産の管理会社など客付けのために支払う広告宣伝費も計上可能です。不動産投資の勉強のためのセミナー参加費用、書籍購入代金、ネット上での有料情報購入費用も計上できます。一方、不動産投資に役立つことだからといって宅地建物取引士やマンション管理士など不動産関連の資格取得費用は認められていません。
4.その他の費用
これら以外に計上できる費用として物件を見に行くための交通費があります。電車代やマイカー、レンタカーのガソリン代および駐車代、高速道路料金、車検費用、自動車保険料、自動車税なども計上可能です。業務中に生じた事故ならレッカー代も問題ありません。ただ駐車違反やスピード違反の反則金は計上できません。
◆不動産オーナーが経費と主張するも国が否定した使い道
経費としての判断がつきにくい項目もあります。あるサラリーマン大家さんが不動産所得と給与所得を損益通算して申告した際に否認されました。そのため2011年に国税不服審判所に更正処分の取り消しを求めたものの、再び経費計上が否定されたという判決があります。それは以下の通りです。
• 住宅の専有面積のうち貸与していた2部屋分40平方メートルの広さ
• その建物にかかる水道光熱費の50%
• インターネット利用料と電話代
• スーツ代、自転車代、コンタクトレンズ代など
• 妻が日常生活の一環として行っていた電話の取り次ぎや郵便物の発送などに対する給与
これらが経費として認められなかった理由は、不動産賃貸業との関連性を客観的に示すことができなかったためだそうです。そのため税務調査に対して関連性を明確に説明できていれば、経費として認められた可能性もあるので上記のものが一律にダメだということではありません。