前回は、不動産に関わる専門家の「知識不足」を招いた要因などを説明しました。今回は、そのような現状の中で、どのように税理士を見極めていくのかを紹介します。

一般の税理士にとって相続税対策はハードルが高い!?

よく言われることですが、医者は内科、外科、耳鼻科等いろいろな専門に分かれています。

 

当然ながら、税理士にも得意分野や苦手分野があります。大半の税理士は、多くの法人を顧問先に持ち、記帳や決算・申告を行うことを仕事としています。これを医者にたとえて言えば、内科や小児科等を中心とする街のクリニックといった存在です。

 

とはいえ、法人にも規模の大小があります。大法人向けには特有のノウハウが必要であり、それを得意としている会計事務所もありましょう。また法人の事業承継といった特殊分野に特化しているところもあるようです。

 

それらの中で、相続税もかなり特殊な分野に入ります。それは不動産(特にその評価)が大きく絡むからです。

 

しかし、一般の税理士は相続税申告の依頼を受けるのはせいぜい年に一度ぐらいでしょう。むろん税理士である以上、通り一遍の申告業務はできるはずです。まして今日では、数字を入力しさえすれば、たちどころにきれいな申告書を打ち出してくれるコンピューターソフトもあります。

 

しかし、その程度であれば、気の利いた金融マンやFP(ファイナンシャルプランナー)でも十分やります。これではとても専門職業家を名乗るレベルではありません。さらに一時的に専門知識をマスターしたとしても、「台風と相続税の依頼は、忘れた頃にやってくる」というのが実情ではないでしょうか。

 

要するに、少なからぬ不動産を含む相続税の申告を一般の税理士に依頼するというのは、心臓外科を街のクリニックに依頼するようなもの、と言うべき状況にあります。餅は餅屋と言います。やはり特殊な業務は、それを専門とする人に依頼すべきではないでしょうか。

 

なお、今回の相続税の増税をきっかけとする「相続税ブーム」に対応して、都心の一等地に大きな事務所を構えた大手の会計事務所等が、「相続税専門」として売り込んでいるという話を耳にします。しかし、こうした動きには疑問を持ちます。

 

おそらく相続税の依頼を受ける人は、相続税業務の素人同然の急造した担当者となりましょう。ましてや不動産の実力まではとても期待できるとは思えません。相続税に関して豊富な経験を有する人など限られていますから、そう考えるより他ありません。

 

会計事務所はそうした納税者の不安を、規模の大きさや事務所の立地や豪華さで補おうとしているように見えてしまいます。

相続人自身が基礎知識を身につけ、税理士の力量を測る

不動産の実力が相続税全般に関して必須であり、かつ大変な威力を発揮するということはご理解いただけたかと思います。

 

そうであるならば、相続人自身の側がこれを身につけたら、いろいろな面で相当の戦力となるはずです。そうなりさえすれば、基本的な相続税対策を自分で考えることができます。また対策の提案を受けた場合に、その内容を判断することもできます。

 

その他、土地の相続税評価を見通したり、本来の公平な遺産分割を考えるなど、威力は抜群と言えましょう。

 

実はその最大の効用は、申告業務をどの税理士に依頼すべきかという選択眼が養われることにあります。仮に不動産の実力等を備えた人に依頼したいと思っても、誰を選択すればいいかがわかりません。

 

しかし、多少なりとも不動産の力が身についていれば、その際に少し不動産の話、さらには具体的な土地への評価の方針を聞いてみることで、相手の力量はすぐわかるはずです。

相続税評価の問題点となる「±個別的要因」とは?

実は、不動産は少しも難しくありません。そこで少しこれから不動産の基本的な部分を、簡明かつわかりやすく説明させていただきます。

 

最初に評価の考え方の基本を述べます。それは次の算式に示されます。

 

個別の土地の評価額=地域の地価水準±個別的要因

 

まず「地域の地価水準」というのは、「あの辺りは㎡当たり20万円ぐらい」ということを示しています。現実にはこれは難しいのですが、ここではまったく気にする必要はありません。路線価図における路線価を見ればOKだからです。これを前提に考えていけばいいのです。

 

ただし路線価図の㎡単価は、「(地形も面積も)標準的な土地」という名の優良物件を前提としていることを忘れてはなりません。

 

次に「±個別的要因」です。個々の土地は、欠点のない「標準的な土地」に比べ、地形や面積、接面道路や利用状況等においていろいろな癖や欠点を持っています。稀に「東南の角地」といったプラス面もないわけではありませんが・・・。

 

そこでこうした個別的要因が個別の土地の値段に与える影響を、標準的な土地を前提とした単価に加減算します。そしてこれにより最終的な「個別の土地の評価額」を求めるのです。

 

これをたとえて言えば「この辺りは㎡当たり20万円だけど、200㎡のこの土地は地形がいまひとつで単価はほぼ2割減。よってこの土地の単価は2割引きの16万円、総額では3200万円」となるわけです。

 

ところで土地の相続税評価(路線価評価)の方法も、この考え方とまったく同じです。つまり、まず地域の地価水準を路線価で表します。ちなみにこれは地価公示価格の8割水準に設定されています。

 

そして次の「±個別的要因」は、何種類かの補正率等(たとえば奥行価格補正率、不整形地補正率等)に基づき加減算します。これにより最終的な土地の単価を求めるのです。

 

いずれにしても土地評価のポイントは、「±個別的要因」の部分です。これをどう見てどう判断するのかが勝負です。そして相続税評価の問題点もすべてこの部分にあります。すなわちその減額幅が論外に少ないのです。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『相続税を減らす不動産相続の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税を減らす不動産相続の極意

相続税を減らす不動産相続の極意

森田 義男

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策の成否は「土地の相続税評価をいかに行うか」にかかっています。 しかし、専門家であるはずの税理士や金融機関の担当者等が、まったくと言っていいほど不動産を知らない状況にあるとしたら…。 本書では二十数…

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録