税理士はいったい誰の味方なのか?
税理士は「税務署に強い」ことも大切です。これは前回述べた「不動産に強い」ことに密接に関連します。いくら土地評価に自信を持っていても、税務署からクレームがつけられた場合に、きっちり反論・撃退できないのではほとんど無意味であるからです。
つまり、評価の過程で微妙な判断を要する場合において、「税務署からの否認の主張にどう反論するか」を考えた上でのものでなければ、強気の方針は立てられません。税務署員との折衝の際に腰が引けてしまうのでは、話にならないわけです。
税務署に強いかどうかは、税務調査の場で明白になります。自身の成績に直結するため、税務署員は税を追徴すべくいろいろ言ってきます。納税者側が弱気でいるとやられっ放しになりかねません。
となると、税務署員の不合理な主張にはしっかり反論するなどにより、これを撃退しなければなりません。そうした毅然とした対応は余分な税の納付を防止するだけではなく、税務調査の場における納税者の強力な心理的支えにもなります。
しかし多くの税理士は、ともすると「税務署の言い分を納税者に伝えるための存在」であると思っているかのような対応をとるようです。「一体あなたは誰の味方なのか。報酬は誰からもらっているのか」と言いたくなったという話を耳にしたこともあります。
したがって「税務署が何と言おうと、おかしいものはおかしい」と、主張しなければなりません。しかし、そうした主張をする税理士は極めて少数派のようです。
税務署員の不合理な主張に「反論」できる税理士を選ぶ
さらに情けないことに、税務署員からも「税理士は税務署の味方である」と思われているようなのです。それらに関して、筆者が忘れることのできない税務調査の経験をお話ししましょう。
話は私が新米税理士の頃にさかのぼります。ある税務調査で、署員が「古い預金通帳を見せてほしい」と依頼してきました。そこで未亡人が「奥の部屋から持ってくる」と言って立ち上がりました。
すると署員は、「一緒についていきたい」と言うと同時に、ズカズカと部屋に入っていきました。夫人が押し入れを開け、そこにある書類箱から通帳を取り出そうとするや否や、署員は「その箱を見せてください」と言い、夫人から書類箱を奪い取り、中の書類のすべてを念入りに調べ始めたのです。
夫人は、奥の間に入られた上、私的な書類まですべて見られてしまうという状況に戸惑っていました。プライバシーも何もあったものではありません。私もその光景を黙って見ているしかなかったのです。われながら情けない新米税理士でした。
その後こうした対応は、税務署の常套手段であることを知りました。そこで後の税務調査の際には、その手に乗らないよう事前に依頼者としっかり打ち合わせを行うことにしました。
他の税務調査で、署員が「古い通帳を見せてくれ」と言い、その依頼に夫人が立ち上がりました。その際になされた、「一緒に行かせてほしい」という署員の依頼を、私がやんわりと断ったのです。
すると署員は驚き、「先生は税務調査を拒否なさろうと言うのですか」と強い口調で言ってきました。
「違いますよ。奥さんがご要請のあった通帳を持ってきてくれるから、それまで待ってほしいと言っているだけです。これのどこが調査拒否ですか?」。当方は落ち着いたものです。
署員は、私の言葉を聞いて顔を真っ赤にし、「こんな税理士は見たことがない。この『拒否』は署で内部的に問題となるはずだから、上司の了解を得たい。電話を拝借したい」と言います。非協力的な税理士への精一杯の脅しのつもりだったのでしょう。
しかし、当方は「どうぞどうぞ」とすまし顔。こちらの対応に何の問題もない以上、そんなみっともない電話がかけられるはずがありません。
署員も一応は、電話をかけるしぐさを見せましたが、結局はかけずじまいでした。そして、その後の調査も、通常と何ら変わりなく終わりました。確かこの事案は、最終的に申告是認(追徴なし)であったように記憶しています。