前回、不動産を取り巻く専門家の知識が不足していると説明しましたが、今回はなぜそのような状況になってしまったのか、理由を見ていきましょう。

不動産の知識は机上だけでは習得できないが・・・

世の中は実践的な不動産の知識が驚くほど寒い状態にあります。今回は、その理由を少し考えてみましょう。

 

まず世の中では、「知識等の習得は机上の勉強で」という考えが強いようです。しかし不動産の知識・実力の養成には、「見て判断する」という実践行動が中心となります。机上の勉強だけではどうにもなりません。

 

要するに不動産は「実技」です。今ではかなり難しい宅地建築物取引主任者(宅建)の試験、さらには不動産鑑定士の試験の合格のみをもって「不動産を習得した」と考えるのは、「ペーパー試験のみの合格をもって、自動車を運転するようなもの」とでも申し上げておきましょう。

 

また忘れてならないのは、世の中が不動産・不動産業務を軽視(さらには蔑視)する傾向にあることです。これはペーパー試験の難しさによって、世の中の序列が決まっているような風潮の影響も大きいように思います。

 

そういうわけで、中央省庁のエリート役人は不動産をまったく知りません。そして、こうした不動産音痴が不動産の評価規定を作っているのです。その最たるものが、ここでの課題である土地の相続税評価規定(国税庁の作成)です。

 

また、固定資産税の評価規定(総務省の作成)も同じ状況にあります。この相続税評価規定は、近年それなりの改善がみられるのも事実ですが、まだまだできばえは芳しくありません。

 

同様に一般の税理士も不動産をまったくの苦手としています。したがって、前回紹介した「評価規定の拙劣さ」や「評価規定の曖昧さ」に対して、これを工夫して妥当な評価に持ち込むといった力量や意気込みが期待できないのです。

 

むしろ、税務署にクレームを付けられないようにと、自身の「安全第一」のために高めの評価を平気で行う傾向が強くあります。高い評価にしておけば、税務署からクレームを付けられることはないからです。

相続税対策の分野で「不動産」の実力が求められる理由

その一方、相続税対策やその申告に際しては、不動産に関する豊富な知識、実力、経験が必須となります。その必要性をいくつかの分野に区分してお話ししましょう。

 

第一に相続税対策の分野です。広義の相続税対策とは、単に税金を減らせばいいというものではありません。何より相続人同士の円満が求められます。

 

また、納税資金や遺産分割に要する資金がしっかり確保できるような財産構成にしておく必要もあります。その上で、狭義の相続税対策、つまり節税対策として税額をできる限り減らしたいわけです。

 

これを実施するには、かなりの不動産の実力を要します。とりあえず以下にその例を示しておきます。

 

たとえば、予想される相続税評価額に比べて、実際の時価(売りに出して売れる値段)はいくらなのか。実は先に述べた評価規定の不備等により、時価よりも評価額のほうが高い土地(逆転物件)も少なからずあります。これらをしっかり把握した上で、この乖離がかなり大きいのであれば、事前に売却するという手法が有力な相続税対策となります。

 

また、換金に適した更地の上に節税対策としてアパート建築が提案されるケースもありましょう。しかし、納税資金等が不足するようなケースでアパートを建ててしまうと、事実上その土地は換金できなくなります。アパート建築等は、不動産の実力を背景に、これらのメリット・デメリットを総合的に考えた上でのものでなければなりません。

 

第二に、相続発生時において土地の評価をいかに行うかの問題です。これらに関しても以下のように不動産の実力が必須となります。

 

まずは国税庁等が作成している評価規定の理解です。評価規定はその拙劣さの批判を受け、近年、徐々に改定されてきています。

 

その結果、一連の評価規定の理解には、ある程度の不動産の専門的知識を要するようになってきました。たとえば容積率、敷地の接道義務規定、建築基準法上の道路、都市計画道路予定地、開発行為等への理解です。

 

一般に会計事務所・税理士、さらには税務署員らは勉強家です。これらの規定に関しても理解に努めているはずです。しかし、不動産は「見て判断」を基調とする「実技」です。抽象的にこうした知識を詰め込んでも、それが現実にどのようなもので何を意味しているかに理解がおよびかねます。

 

これでは、地主層の所有する複雑な個別性(地形、面積、接面道路、利用状況等)を有する土地の的確な評価は、極めて困難となります。しかし、あくまで土地の相続税評価は、各種の評価規定を十分理解した上で、減額規定をもしっかり適用した的確な評価を行わなければなりません。

 

第三に、相続人の行う遺産分割に関して、不動産の実力を背景とした実のあるアドバイスが可能となります。

 

おそらく遺産分割に関しては、すべての方が「相続財産は全員が納得する形で分けたい」とお考えのことと思います。しかし、不動産にはその換金性、収益性、将来性、管理の困難性、修繕の必要性等いろいろな側面があります。

 

これらのほぼすべてを踏まえた形で、相続人全員の意向に沿うような遺産分割のたたき台が税理士から提案されれば、相続人はどれほど助かることでしょう。こうした助言には、不動産の実力が必須であることは十分ご理解いただけるものと思います。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『相続税を減らす不動産相続の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税を減らす不動産相続の極意

相続税を減らす不動産相続の極意

森田 義男

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策の成否は「土地の相続税評価をいかに行うか」にかかっています。 しかし、専門家であるはずの税理士や金融機関の担当者等が、まったくと言っていいほど不動産を知らない状況にあるとしたら…。 本書では二十数…

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