前回は、「依頼人にとって優しい」税理士について説明しました。今回は、税理士の活躍が最も期待される「税務調査」の現場の実態と、「できる税理士」の対応の姿などを見ていきます。

相続税対策は「税務調査」を乗り切れなければ失敗

今回は、納税者の悩みの種であるとともに、税理士の実力発揮が強く期待される場面でもある税務調査について簡単にお話しします。

 

納税者と同様、税務調査は税理士にとってもイヤなものです。適正に申告したつもりでも、何を言ってくるかわかりません。先方も税務調査に出向く以上、何かを見つけてこなければならない立場にあります。その税務署員とまともにぶつかりかねないからです。

 

また、どんな効果的と思われる相続税対策を行っていても、いかに工夫した評価であっても、それらが税務調査で否認されてしまえば何の意味もありません。イヤな思いをする上に加算税まで徴収されてしまいます。逆に言えば相続税対策は、「税務調査を乗り切れる」ものでなければ意味がない(かえって弊害となる)のです。

 

ここで筆者が対処する場合を中心に、税務調査がどんなものなのかを簡単に見ておきましょう。

 

税務調査は、通常秋に行われます。つまり春までに申告書を提出すればその年の秋、夏以降に出せば翌年の秋が、税務調査の予想される時期となります。しかし近年はそうした傾向に当てはまらないケースも増えているようです。

 

税務調査が行われる割合は、申告件数のうち2〜3割くらいであろうかと思われます。選択の基準は常識的に判断されましょう。

 

具体的に言えば、遺産が極めて多額である場合、怪しげな家族名義預金が多い場合、近年に多額な預金が引き出されている場合、過去の所得税の申告内容等から見て不自然に金融資産の申告額が少ないと思われる場合、そして、説明もないまま特殊な評価を行っている場合などです(とはいえ近年は「何でこんな事案で税務調査に来るのだろう」と思われるようなケースもありますが)。

 

したがって私は、なるべく税務調査を避ける意味から、税務署員が疑問に思うような点は、あらかじめ申告書に補足説明書を添付して、彼らに納得してもらうようにしています。たとえば「なぜかくも金融資産が少ないか」といった理由の説明です。

 

税務調査の連絡は、ほとんど事前に担当税理士宛に来ます。これを納税者に連絡の上、1〜2週間後で双方の都合のいい日を税務署に連絡します。そして税務調査の数日前には、必ず数時間にわたり納税者と対策会議を行います。

 

申告後の状況変化の有無を確認するとともに申告内容をしっかり思い出すことにより、頭を臨戦モードにする必要があるからです。

税務調査への対応は何よりも経験値がモノを言う

税務調査には通常は朝10時に二人でやってきて、夕方まで行われます(私の場合は、何やかや理由をつけて、午後の早いうちに終わってもらうようにしています)。署員との質疑は納税者との間で行われます。ただし具合の悪い話になりそうな場合には、同席している税理士が話に割り込みます。

 

調査の対象は家族名義預金の内容、過去の贈与の状況、近年の払い出し預金の行き先など、そのほとんどが金融資産です。やはり税務署も苦手としているのでしょう、不動産の話はほとんど出てきません。

 

そして、調査の過程でいろいろな疑問点を指摘してきます。ときには調査の終了直前に「実は、こんな預金があるのだが・・・」といった隠し玉のような質問がなされることもあります。いずれにしても先方の金融資産の調査能力は、舌を巻くレベルにあります。

 

税務調査の当日は主に疑問点の指摘で終わります。そしていわば宿題として、それらの疑問解明の指示を受けるわけです。その一方、先方は古い通帳を預かることを含め調査内容の分析を始めます。

 

そして2〜3週間後に、当方からは先の宿題の回答を、税務署から分析結果をそれぞれ電話で打ち合わせ、双方がそれらを検討します。それらの再調査も打ち合わせなどを行い、税務署に出向いての折衝を経て、最終的な税の追徴額の合意に持ち込みます。

 

税理士はこの結果を納税者に説明し、その了解を得ることにより修正申告書を作成します。その追徴税額と加算税を納付することにより、一連の税務調査が終わるわけです。

 

もちろん調査の結果、追徴が発生しない場合(これを申告是認と言います)もあります。この申告是認の割合は、大雑把に言って2〜3割ぐらいではないでしょうか。

 

何と言ってもここで重要なのは、税務署との折衝において税理士がいかに頑張るかです。この頑張り具合によって追徴額は高くも低くもなります。税務署員はこの追徴額(これを増差と言います)の多寡が、人事考課に直結します。したがって税理士の顔色を見つつ、いろいろふっかけてくるケースもかなりあります。

 

これにホイホイ応じれば税理士は気楽でしょう。事実そうしたケースがかなり多いようです。しかしそれでは納税者はたまりません。

 

私は熾烈な折衝はそう嫌いではありません。相手の顔色も見つつ、納得がいかなければとことん突っぱねます。むろん戦略上の妥協もします。場合によっては「わかりました。そうまで言うなら課税処分をしてください。こちらは異議申し立て、さらには裁判で徹底的に争いますから」とやります。事実私は、裁判を含めこうした争いもかなり行っています。

 

要するに、税務調査は相続税対策や申告内容の卒業試験のようなものです。そしてそこには税理士が「税務署に強い」かどうかの違いが明白に現れます。さらにはその場で(精神面、金銭面の双方で)いかに納税者を守ろうとするかが、「納税者(依頼者)に優しい」かどうかの試金石ともなります。

 

結局のところ、この税務調査は「最大の相続税対策は税理士の選択である」ということを、何より雄弁に物語っているように考えるしだいです。

本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『相続税を減らす不動産相続の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税を減らす不動産相続の極意

相続税を減らす不動産相続の極意

森田 義男

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策の成否は「土地の相続税評価をいかに行うか」にかかっています。 しかし、専門家であるはずの税理士や金融機関の担当者等が、まったくと言っていいほど不動産を知らない状況にあるとしたら…。 本書では二十数…

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