つみたて投資をやめるのは、投資成果を諦めるのと同義
つみたて投資は、一般の人が資産を着実に形成していくことができる唯一の方法です。しかし、残念ながら、途中でやめてしまう人が散見されます。あるいは、それまでつみたてた資金に利益が発生したということで、トレーダーのごとく売買する人もいます。
その気持ちはよくわかります。しかしながら、つみたて投資の目的は長期的に(理想は30年以上)少額の資金をつみたてて大きな資産を築くことですから、途中でやめてしまうのは、やめたあとの投資成果を諦めるのと同じことなのです。
投資の成功にはさまざまな要因がありますが、「投資対象を間違えないこと」「相場環境が良好なこと」そして「時間を味方につけること」がその太宗だといえます。そして、つみたて投資を途中でやめるのは、時間を味方にするどころか、時間を捨ててしまう行為です。
結論は「いったん始めたつみたてはやめてはいけない」ということに尽きるのですが、その理由を定性・定量面から見ていきましょう。
解約すると、当初の運用成果を取り戻すのは困難に…
<定性面>
(1)つみたてた資金が収益を生んでいるので解約したとしましょう。通常、収益も含めた元本の一部または全部を何らかのモノやサービスの購入に使うケースが多いと思います。この場合、元本が減りますので、つみたて投資の元本も増えませんし、複利効果も得られません。
これは、配当や分配金をもらうこととも同義です。配当や分配金からは所得税も源泉徴収されますので、一旦元本から外部流出した資金を再投資することが難しいとともに、税金を都度支払うのは複利運用という観点ではもったいない限りです。
たとえつみたて投資を復活させたとしても、解約前の運用成果以上に成果を上げるためには毎月のつみたて金額を増やさなければならないことになります。実際には、つみたて投資の復活には心理面の抵抗が大きいため、再開させるのはなかなか困難です。
(2)つみたてた資金が損失を計上しているので、期待が持てず解約したとしましょう。損してやめたのですから、つみたて投資を再開するのは心理的にほぼ無理です。せいぜい積立定期預金にシフトするのが関の山です(もちろん、元本は残りますが)。長期的な観点では、大きな機会損失となる可能性があります。
<定量面>
定性面の(1)の状況を、定量的に計測してみましょう。毎月3万円ずつ、5年間積み立てると元本だけで180万円です。毎年+6%のリターンで運用されていたと仮定すると、元本と運用収益の合計額は210万円となります。30万円の収益が出ていることもあり、ちょうどほしかった新車の購入資金の一部として200万円を解約したとします。残りの元本は10万円になります。
このキャッシュフローを元につみたて投資を継続していた場合と、解約後再度毎月3万円を25年間、定期預金に積み立てた場合を計算したのが下記の図表です。
このグラフでもはっきりわかりますが、つみたてを途中で解約して預貯金だけの運用をすると、30年間の間に約2000万円もの差が付きます。いったんつみたて投資をやめてしまうと、大幅な機会損失になるのです。
心理面もそうなのですが、定期的に投資して収益を計上している局面でつみたて投資を解約してしまうと、どうしても同じペースで投資を続けるのは難しくなります。つまり、解約しないマインドセットから、いつでも解約できるマインドセットに変わることで、最初の計画も雲散霧消し、結局資産形成がうまくできなくなってしまいます。
仮に、200万円解約したあと、残り25年間で目標の3000万円まで到達させようとした場合、毎月のつみたて金額を3万円から4万5000円に増やして運用しなければなりません。実に、1.5倍もの資金を増やしたうえでつみたて投資をしないとならないのです。
「解約できない」前提で運用することが肝要
このことからもわかるように、いったん始めた定期的な投資行動は、よほどのことがない限り解約するべきではありません。そういう意味では、つみたて投資に取り組む際は、公的年金やiDeCo(個人確定拠出年金)のように、解約できないことを前提として運用するのが肝要です。
長期投資というとなにか大上段から構えるイメージがありますが、少額をコツコツつみたてて残しておくことは、いつの時代も変わらない先人の知恵なのです。
太田 創
一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事