「眠っていはいけない会議でついついウトウトしてしまう」「眠くて仕事に集中できない」「疲れがなかなかとれない」などと、睡眠不足で悩む人は多いもの。しかし、その睡眠があらゆる循環器疾患の引き金となり、最悪の場合、命を落とす危険があります。本連載では、睡眠と循環器疾患の関係、そして睡眠を劇的に改善する生活習慣と治療法を解説していきます。※本連載は『その睡眠が寿命を縮める』(幻冬舎MC)の内容を一部抜粋・改編したものです。

無自覚に溜まる「睡眠負債」のリスクとは?

仕事や育児などで忙しく過ごしていると、つい睡眠時間を削ってしまい、慢性的な睡眠不足に陥りがちです。

 

厚生労働省が実施した平成29年「国民健康・栄養調査」でも、1日の平均睡眠時間が6時間未満の割合は20歳以上に限ると約40%、つまり4割の人は睡眠が足りていないことが分かっています。同調査で「睡眠で休養が十分にとれていない」と答える人も、ここ数年で右肩上がりに増えています。

 

睡眠不足の状態が続くと、がん、糖尿病、心臓病、認知症など、さまざまな病気を引き起こすことは多くの研究で明らかにされています。自治医科大学が行った研究では、睡眠時間が6時間以下の人は、7~8時間の人より死亡率が2.4倍も高くなると報告されているほどです。

 

ところが、普段6~7時間の睡眠をとっていて、自分では十分に眠っていると思っている人でも、実はわずかに足りておらず、そのわずかな睡眠不足が借金のように溜まっていることが、近年の研究で分かってきました。

 

この睡眠不足の蓄積を「睡眠負債」と呼び、命に関わる病気のリスクを高めていることも判明しました。

 

通常は、睡眠が不足すると日中に眠気を感じるなどして睡眠が足りていないことを自覚するものです。しかし、睡眠負債の場合は、本人に睡眠不足の自覚がないのです。そのため、自分は健康だと思っており、なにも改善することなく同じような生活を続けています。

 

それが、やがて体の不調として現れ、気づいたときには命に関わる重大な病気となって牙をむくようになります。

 

このような危険をはらんでいることから、「睡眠負債の解消こそが健康長寿には欠かせない」と研究者が指摘するほど問題は深刻になっているのです。つまり、睡眠負債は寿命にも大きく影響を与えているということです。

 

いつも、いつも……眠い
いつも、いつも……眠い

「いびき」は心身の危険を知らせるサイン

たまに、「睡眠中に自分のいびきで起きてしまった」という話を耳にします。こうして自分が“いびき”をかいていることに気づく人は少なく、多くの場合はベッドパートナーに指摘されて初めて、自分の“いびき”を知ることでしょう。

 

いびきがうるさくて眠れないというように、いびきは周りの人も睡眠不足にするなど、迷惑を掛ける症状です。

 

『おくのほそ道』で知られる江戸時代の俳人・松尾芭蕉も、弟子のいびきには悩まされていたようです。弟子とともに旅をした際、弟子のいびきがあまりに大きかったことから、その様子を筆で表現したとされる「万菊丸いびきの図」を遺しています。これは、2本の波線がいびきの大きさや抑揚をユーモラスに表しています。どうやら昔から、日常的にいびきをかく人は多かったようです。

 

かつては「ぐっすり眠っている証拠」といわれ、いびきは健康の証と考えられていました。しかし最近は、いびきのメカニズムが判明したことで、体になんらかの不調が発生しているサインであることが知られるようになりました。

 

それにもかかわらず、いびきを病気と結びつけて考えるのではなく、周りに迷惑を掛けると悩んでいることが、寝具メーカーのフランスベッドが20~60代の男女1000名を対象に行った「いびきに関する実態調査」(2017年実施)で明らかにされたのです。

 

これによると、全体で約30%の人が現在「いびきに悩んでいる」と回答していました。男女別に見ると、男性は40%以上、女性は30%以上の人が、いびきに悩んだ経験があるといいます。そのうち約50%は、ベッドパートナーを気にしながら寝る傾向にあり、「一緒に寝ている人の迷惑になる」と悩みを抱えていたのです。

 

その一方、「病気ではないかと不安」と回答した人は13.6%にとどまり、不調や病気のサインともいえるいびきに対して、不安になる人は少ない傾向にありました。私が気になったのは、対策をなにもしていない理由として、65%が「何をしたら良いかわからない」と回答していたことで、いびきに悩んではいるものの解決できないまま放置している点です。

 

実は、いびきは単に睡眠不足を引き起こしているだけではなく、大きな病気のサインでもあるのです。その代表的な病気の一つに、「睡眠時無呼吸症候群」があります。

 

この病名はニュースなどで耳にしたことがあると思います。しかし、それが本人にとって重大な循環器疾患を引き起こす可能性のある症状という認識は、意外と低いのではないでしょうか。

 

いびきについて誰にも相談していない人が多いことでも分かるように、いびきをかいている人の数を把握することは難しく、正確なデータはありません。ただ、慢性的ないびきをかく人は、さまざまな研究によって2000万人に上ると推測されています。

 

これほど多くの人がいびきをかいているとするなら、それに関係する睡眠時無呼吸症候群の患者数も、かなり存在すると考えても決して大袈裟ではないと思われます。

「睡眠時の無呼吸」による悪影響は計り知れない

私たちは、人生の3分の1の時間を睡眠に充てているといわれています。改めて考えてみると、多忙な現代人にとって寝ている時間は無駄で、もったいないように感じます。しかし、睡眠中には日中の活動で疲れた心身を休息させることや、傷ついた細胞を修復再生させる作業が行われているのです。

 

したがって、健やかな心身を維持するためには、「眠ること」は必要な時間となります。その大事な睡眠を障害しているのが、「睡眠時無呼吸症候群」(Sleep Apnea Syndrome:SAS《サス》)なのです。睡眠時無呼吸症候群とは、一晩(7時間)の睡眠で無呼吸(10秒以上の気流停止)を30回以上、あるいは1時間あたり5回以上起こす病態と、医学的には定義されています。

 

睡眠時に無呼吸を引き起こすと、熟睡できないために朝がすっきり起きられなかったり、日中に眠気が強くなって頭がボーっとしたり、集中力の低下を招くことでパフォーマンスを下げてしまうなどの弊害が生じてきます。

 

そうなると仕事の効率は大幅に低下し、些細なミスが増えたり、居眠りから交通事故、労働災害などの大きな問題を発生させたりするリスクが高まります。

 

実際に、交通事故を起こす頻度は健常者の約7倍、全ドライバーの約2.5倍といわれ、睡眠時無呼吸症候群が重症になればなるほど事故率も高くなることが報告されています。睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害による経済損失は、なんと15兆円に及ぶと試算する報告もあるほどです。

「睡眠時無呼吸症候群」日本人の患者は3000万人超?

ところが、さらに恐ろしいのは、無呼吸を繰り返すことによって体内が酸欠状態(低酸素状態)に陥ることです。私たちは空気中の酸素を利用して生命活動を行っているので、酸欠になれば酸素を含んだ血液を全身に送っている心臓に負担を強いる結果となり、高血圧・糖尿病・心筋梗塞・脳卒中などの合併症を起こしやすくなるのです。最悪の場合は、突然死につながります。

 

このように睡眠時無呼吸症候群は、日中のパフォーマンスを低下させるのみならず、生死にかかわる病気でもあるのです。

 

しかし、睡眠中に起こっていることなので、なかなか本人は気づくことができません。そのために医療機関を受診する人は少なく、正確な患者数を把握できないのが現状です。

 

それでも、米国で一般人6000名以上を対象として実施された大規模調査(Sleep Heart Health Study:SHHS)のデータが公表されています。それよると、軽症の睡眠時無呼吸症候群の患者は男性で57.6%、女性で36.1%に認められ、中等症以上に限っても男性で25%、女性で11.5%に認められたことが判明しました。

 

また、世界的に格式の高いことで知られる医学雑誌『Lancet Respiratory Medicine』に掲載された最新データによると、なんと日本人の睡眠時無呼吸症候群の有病者数は、軽症以上が2200万人、中等症以上が900万人とされています。いままでのデータや予測を3倍以上も上回る数字です。

 

これらの研究によって睡眠時無呼吸症候群の有病者はかなり存在すると見られ、もはやまれな病気ではなく、ありふれた病気になってきたといえるでしょう。

 

それにもかかわらず、睡眠時無呼吸症候群はほとんどの場合で自覚症状はなく、徐々に重症化していき、睡眠の質の低下も慢性的な経過をたどります。そのため、睡眠時無呼吸からくる眠気を、過労や加齢に伴う慢性疲労と誤認されるケースが多いのです。

「だるい・眠い・起きるのがつらい」なら病気を疑おう

たとえば、体のどこかが痛いとか、腫れているという症状が現れれば誰もが「異常」と気づきますが、体がだるい・眠い・朝起きるのがつらいといった症状で、果たして皆さんは病院へ行こうと考えるでしょうか。

 

このようなことから、病気を疑って受診することはなく、約9割の人が睡眠時無呼吸症候群を放置した状態にあります。たとえ受診して睡眠時無呼吸症候群と診断されたとしても、これを重大な病気と受け止めることはなく、きちんと治療を受けているのは40~50万人程度と少ないのが実情です。

 

さらにいえば、日中の眠気を異常とは認識していないことが多いため、受診しても医師には眠気を伝えず見逃されるケースが少なくありません。また、多くの医師もそのような認識はありません。

 

こうして多くの潜在患者が、本人の知らないうちに病状を進行させることとなり、重症化した末に突然倒れ、救急搬送される事態を招いています。

 

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