眠気を感じたときは「15~30分の昼寝」がおすすめ
平日は決まった時間に寝起きしている人でも、休日になると深夜まで起きていたり、翌日は昼近くまで寝ていたりなど不規則な生活になりがちです。実はこうした生活は、「体内時計」を乱し、体の調子を狂わせて疲れやストレスを溜めることになっています。
体内時計は遺伝子レベルで設定されているため、これに逆らった生活は全身の各臓器に不調を引き起こし、不眠や循環器疾患だけではなく、がん、感染症、代謝疾患、精神疾患など、あらゆる病気の引き金にもなります。
体内時計を狂わせないようにと休日でも平日と同じ時間に起きたら、睡眠不足が解消されず、疲労が蓄積していく一方ではないか、と思った人もいることでしょう。そういうときに効果的なのが「昼寝」をすることです。
昼寝とは、昼食後にとる仮眠のことをいいます。子どもの頃は、幼稚園や保育園で“お昼寝の時間”があったのに、成長とともに昼寝をしなくなりました。ですから一般には、「昼寝は子どもがするもの」と思われがちです。
ところが近年、「パワーナップ」といわれる短時間の仮眠がグーグルやアップル、マイクロソフトなどのIT企業をはじめ、日本でもJR東海、学校で推奨するなど、その効果に注目が集まっているのです。
パワーナップは、“パワー”と“ナップ(昼寝)”を合わせた造語で、米国コーネル大学の社会心理学者ジェームス・マース氏が命名しました。パワーナップには睡眠不足をカバーし、脳の疲れを解消して仕事や勉強の作業効率をアップさせる効果があります。
私たちの体はもともと、食後に眠くなるようにできています。これには、睡眠と覚醒に関係する「オレキシン」という脳内物質が影響しています。オレキシンは、食欲を刺激する「食欲中枢」という場所で発見され、さらに睡眠に関係する物質であることが解明されました。
このオレキシンが活発に働いているとき、人間を含めた多くの脊髄動物は覚醒し、オレキシンの働きが鈍ると睡眠状態に入ると考えられています。
野生動物は、空腹になるとエサになる獲物を探さなければなりません。これは敵と戦う危険な行為ですから、意識を最高レベルにまで覚醒しておく必要があります。
このとき、「オレキシン作動性ニューロン」という神経細胞がオレキシンを刺激し、活性化することで野生動物は覚醒します。これによって最高レベルに覚醒した野生動物は、狙った獲物を捕獲してエサにありつけるというわけです。
エサを食べて満腹になると、もう獲物を狩るという危険な行為を当分の間はしなくて済みます。そうするとオレキシンの活動が鈍り、眠たくなると考えられています。このような仕組みが、どうやら生物の進化の結果に生まれた人間にも継承されているようで、昼食後に眠たくなると考えられています。
このオレキシンを発見したのは、当時、米国テキサス大学におられた柳沢正史教授と櫻井武教授の日本人のグループです。現在は筑波大学で研究を続けられています。もちろん睡眠不足が原因のケースが多いのですが、睡眠が足りていても食後はオレキシンの影響で眠気に襲われるということです。
したがって、このタイミングに昼寝をすれば、眠気を解消できるというわけです。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」によると、「午後の早い時刻に30分以内の短い昼寝をすることが、眠気による作業能率の改善に効果的」とされています。
昼寝の効果を最大に活かすには、次のようにいくつかのポイントがあります。
1. 午後4時までに寝る:午後4時以降に昼寝をしてしまうと、夜の睡眠に影響が出てしまうので、午後1~3時の間にとるようにします。
2. 寝る時間は15~30分程度:30分以内なら、まだ浅い眠りなので目覚めも良く、作業効率が高まります。しかし、30分以上になると深い眠りに入るため、起きてからしばらくは頭がボーっとするなど、かえって仕事や勉強に支障をきたします。
3. 寝る前にカフェインを摂る:コーヒーなどのカフェインが含まれているものを寝る前に摂っておくと、ちょうど起きるタイミングである30分後くらいにカフェインの効果が出てくるので、すっきり目覚めることができます。
4. 寝やすい環境づくり:ネクタイや腕時計など体を拘束しているものを外したり、耳栓やアイマスクなどを活用したりして、眠りやすい環境を整えます。
そういえば、スペインでは「シエスタ」と呼ばれる昼寝の習慣があり、午後3時ごろはオフィスも店も休業時間になります。旅行をしたとき、どこの店も閉まっているので、買い物も食事もできずに困った経験がある人もいるのではないでしょうか。しかし、生体リズムから考えると理に適った良い習慣といえます。
入浴は「ぬるめのお湯に10~15分」浸かる
良い睡眠を得るためには、入浴も大きなポイントとなります。なぜなら、きちんとお湯に浸かると疲れが取れるだけではなく、良い睡眠を迎えられるように体が準備を整えるきっかけづくりになるからです。これには、体温が大きく関係しています。
もともと人間の体には体温のリズムもあり、朝方が最も深部体温(体の中の温度)が低く、時間の経過とともに交感神経の働きによって深部体温も上昇し、夜に最も高くなります。これは、日中に活動するために脳や内臓など体の中心部に血液が集まるからです。
そして、眠りにつく頃には、副交感神経の働きで末梢血管が広がり、手足から熱放散が起こって皮膚体温(体の表面の温度)は上がり、深部体温は下がって入眠しやすくなります。
つまり、眠気を感じるのは、深部体温が下がったときなのです。したがって、夜に向けて上がった深部体温を、いかにスムーズに下げるかが入眠のカギとなるわけです。そこで、重要な役割を果たすのが入浴です。
ここで皆さんは、体温を下げなければいけないのに、入浴すると体温が上がってしまうので逆効果になると思うでしょう。ところが、入浴によって体温は上がりますが、血管が広がるので入浴後は熱放散が進み、体温がスムーズに下がって入眠しやすくなるのです。
特に冷え性の人は、日常的に末梢血管が広がらず、熱放散が進まないためにスムーズに体温が下がらない結果、睡眠にも影響しています。それが、お湯に浸かることで末梢血管が広がって、体温を下げる良いきっかけになります。
中には、冷え防止のために靴下を履いて寝ている人がいます。確かに、寝る前に足を温めるのは理に適っていますが、靴下を履いたままでは深部体温を下げる熱放散が妨げられてしまうので、逆効果になるのです。ですから寝るときは靴下を脱ぐと良いでしょう。
最近は、お湯に浸からず、シャワーで済ませてしまう人が多いようですが、これでは皮膚体温は上がっても、深部体温を上げるまでにはなかなか至りません。良い睡眠へと促すには、やはりお湯に浸かる習慣をつけることも必要と思われます。
実は、入浴にはいろいろな効果が期待できます。例えば、お湯に浸かることで水圧がかかり、足に溜まった血液を心臓へと押し戻して血液循環が促進されます。また、腹部にかかる水圧が横隔膜を押し上げて肺の容量が少なくなるので呼吸も増え、心肺機能が高まります。これは、軽いウォーキングをしたような効果が得られるといわれています。
このような作用からも、入浴すると心身の緊張を解いてリラックスできるので、良い睡眠を得る環境が整うのです。しかし、入浴も入り方を間違えると逆効果になります。良い睡眠を迎えるには、次のポイントに注意しましょう。
1. 入浴のタイミング:目安は寝る1時間半前。例えば、いつも23時に寝ている人は、21時半が理想的です。
2. お湯の温度:40度以下。40度以上になると、深部体温が上がりすぎて交感神経の働きが活発になり、興奮状態になるので眠れなくなります。
3. 肩までお湯に浸かる:一時は半身浴が流行りましたが、肩までしっかり浸かったほうがベスト。入浴と睡眠は男女差もあり、一般的に女性のほうが体脂肪は多いので温まりにくい半面、一度熱を持つと発散しにくくなっています。
また、月経周期によって、基礎体温が低い「低温期」と高い「高温期」が交互にやってきます。高温期はしっかりお湯に入り、リラックスして体温をスムーズに下げるリズムをつけると、良い睡眠が得られます。
また、入浴の際は、自分が落ちつけるような好きな香りの入浴剤を入れるのも効果的です。
4. 入浴時間:10~15分程度。額からうっすらと汗が出るくらいがベスト。汗が出るということは、体が温まった証拠です。長い時間お湯に浸かっていると、皮膚を保護している必要な油分まで溶かしてしまい、肌が乾燥しやすくなって美容の面からも良くありません。