ストレス社会を生きる日本人。平日は多忙極まることから「休日だけは目覚ましをかけずに寝ていたい!」と考えがちなものですが、その不規則なリズムが、心身に悪影響を及ぼすことも…。※本連載は筑波記念病院副院長・心臓血管外科部長・睡眠呼吸センター長の末松義弘氏の書籍『その睡眠が寿命を縮める』(幻冬舎MC)の内容を一部抜粋・改編したものです。

「休日にすごく寝る」は心身に悪影響をもたらす

仕事や学校がある平日は決まった時間に寝起きしている人でも、休日になると深夜まで起きていたり、翌日は昼近くまで寝ていたりなど不規則な生活になりがちです。こうして心身を解放することで、日頃の疲れやストレスを解消しているものと思われます。

 

ところが、実はこうした生活は、逆に体の調子を狂わせて疲れやストレスを溜めることになっているのです。なぜなら、「体内時計」を乱すことになるからです。

 

私たちは通常、朝になると起きて日中は活動し夜には眠るという、地球の自転周期に合った約24時間のリズムで生活しています。この生活リズムは、地球上で何億年も生きてきた動植物が、厳しい生存競争に勝ち抜くために進化の過程で獲得した形質で、私たちは生まれながらにこのリズムを刻む遺伝子(時計遺伝子)を持っています。

 

この約24時間のリズムを「概日リズム(サーカディアンリズム)」といいます。睡眠と覚醒のサイクルだけではなく、ホルモン分泌、血圧や体温調節など、私たちの生理機能のほとんどはサーカディアンリズムを持ち、約24時間のリズムで変動しています。

 

人間の体は約37兆個の細胞で構成されているといわれますが、生殖細胞を除くすべての細胞が体内時計を持っています。それぞれの細胞の時計は、ばらばらに動くのではなく、体内時計の中枢からの信号を受け取って同期して働いています。この体内時計の中枢は、脳の視床下部にある「視交叉上核」という場所にあります。一般に体内時計というと、この視交叉上核を指しています。

 

実は、サーカディアンリズムは24時間より少し長いために、毎日リセットしなければ少しずつ地球の自転周期と「ずれ」が生じてしまいます。この「ずれ」を解消して日々のリズムを整えるには、朝に太陽の光を浴びて親時計ともいえる視交叉上核をリセットし、新しいリズムを刻む必要があるのです。

 

朝の光で親時計がリセットされると、親時計から自律神経を介して全身の細胞の時計(子時計)に時刻が伝えられ、それに合わせて子時計もセットされる仕組みです。これによって睡眠や覚醒、血圧、体温を含む全身のリズムがコントロールされており、これを「ホメオスタシス(恒常性機能)」といいます。

 

外部環境や内部環境の急激な変化をいち早く察知し、体内時計を修正することで、体のホメオスタシスを維持しているわけです。ほかにも、体液の浸透圧、PH、血液の粘性など、生命を維持する機能の全般に見られます。

 

ですから、休日に夜更かしをして翌日の起床が遅くなる生活パターンは、体内時計を狂わせてホメオスタシスを乱すことにつながります。体内時計は遺伝子レベルで設定されているため、これに逆らった生活は全身の各臓器に不調を引き起こし、不眠や循環器疾患だけではなく、がん、感染症、代謝疾患、精神疾患など、あらゆる病気の引き金にもなります。

 

平日と休日の睡眠時間に差が生じ、体内時計を狂わせることを「社会的時差ボケ」と呼び、その目安は起床時間に2時間以上の差が生じると、心身に影響が現れやすくなります。

 

たとえば、平日の朝は7時に起きる場合、休日に目覚まし時計をかけずに眠って、起きた時間が午前9時を回っていれば、あなたは慢性的に睡眠が不足しており、これによって体内時計に狂いが生じているので体に不調をきたす恐れがあります。

 

したがって、体内時計を狂わせないためには、平日の就寝時間を1時間ほど早くして睡眠を確保し、休日でも平日と同じ時間に起きられるようにすることが大切です。

 

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体内時計に生じた「ずれ」をリセットするには、朝に太陽の光を浴びることが大事ですが、同じ光でも夜に浴びると体内時計を後ろにずらして眠りにつく時刻を遅らせることとなります。そうなると、寝つきが悪くなり、不眠などの睡眠障害を起こす要因にもなります。ですから夜には、強い光を浴びないほうが良いのです。

 

親時計である視交叉上核は、体を昼夜の活動に適した状態に整えるための指令を出す働きがあります。例えば、朝に目を覚ます少し前には、脳下垂体という場所を制御して副腎皮質刺激ホルモンの分泌を促します。

 

このホルモンが副腎(腎臓の上にある器官)に働くと、副腎ではコルチゾールというステロイドホルモンを分泌して血糖値を上げるように促します。また、視交叉上核は、起床前に交感神経を高める指令も出します。

 

交感神経は血圧を上げるなど身体活動を高める神経ですから、これによっても血糖値は上昇します。このような仕組みがどうして備えられているかというと、睡眠中は血糖値が下がっているので、朝起きてすぐに活動するためには血糖値を上げておく必要があるからです。

 

コルチコステロンなどは「朝ホルモン」とも呼ばれ、活動する準備を整えているわけです。一方、夜になると親時計は、逆に睡眠を促すような働きをします。体の活動レベルを下げ、睡眠に導く作用を持つメラトニンというホルモンの分泌を促します。夜に「眠れるか、眠れないか」という、睡眠のカギとなる重要な働きをこのメラトニンがしています。

 

目から入った光の情報は、視交叉上核から脳の松果体という場所に送られ、ここでメラトニンを分泌しています。メラトニンは、「睡眠ホルモン」といわれ、朝に太陽の光を浴びるとつくられるセロトニンという脳内物質が変化したものです。

 

つまり、日中に太陽の光を浴びてセロトニンがつくられると、睡眠のタイマーがセットされ、14~16時間後にメラトニンに変化して分泌され、眠くなる仕組みになっています。

 

そのため、セロトニンが不足すると睡眠に支障をきたすばかりか、精神を安定させる働きも鈍って自律神経にも影響が及んできます。

 

ですから昼近くまで寝ていたり、夜にテレビやスマホ、パソコンなどを見て強い光を長く浴びていると、本来は優位になるはずの副交感神経のスイッチが入らなくなります。交感神経が優位のままで緊張が続くため、布団に入っても頭が冴えて眠れなくなり、体内時計が狂ってしまうわけです。

 

特にブルーライトは、メラトニンの分泌を抑えてしまう作用があるといわれているので、入眠を妨げる原因になります。また、深夜も営業しているコンビニは、なにか買い忘れた物があるときなど便利ですが、商品の見栄えを良くする目的もあり夜でも昼間のような明るさにしています。ですから夜遅くにコンビニで買い物をするのは避けたほうが良いでしょう。

 

メラトニンの分泌を邪魔しない理想の明るさは150ルクス以下といわれていますが、コンビニは1300~1600ルクスもあります。一般家庭でも200~500ルクスとされているため、夜はなるべく間接照明にすることをお勧めしています。

 

その点、理想的なのがホテルの部屋の照明ではないかと思います。宿泊中は書類を書いたり資料を読んだりするとき、部屋が暗くて不便を感じることもあります。しかし、ホテルの部屋は寝室になるわけですから、入眠しやすいように75~150ルクス、枕元は50ルクス前後に設定されているそうです。これを参考にして部屋の照明を調節するとよいでしょう。

 

ちなみに、1ルクスはだいたい1メートル離れたところで見たロウソク1本分の明るさ、もしくは月明かり程度となります。

 

 

末松 義弘

筑波記念病院 副院長・心臓血管外科部長・睡眠呼吸センター長

 

その睡眠が寿命を縮める

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末松 義弘

幻冬舎メディアコンサルティング

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