睡眠時の無呼吸で「狭心症・心筋梗塞」はなぜ起こる?
心臓自身を養っている血管が詰まる心臓は、1日に約10万回も収縮と拡張を繰り返しています。このポンプ作用により酸素と栄養を血液に乗せて全身に送り届けているわけですが、休みなく働き続けるには心臓自身にも十分な酸素と栄養が必要です。
そこで、心臓(心筋)は自身を養うために専用の「冠状動脈」という血管を持っています。冠状動脈は、大動脈の根元から流れる左右一対の血管で、心臓を冠状に囲むように走っているので、このように呼ばれます。
この冠状動脈が動脈硬化などで狭くなったり、閉塞したりして心筋に血液が届かなくなる、つまり酸欠状態(心筋虚血)になることを「虚血性心疾患」といいます。代表的なのが「狭心症」や「心筋梗塞」です。
狭心症は、冠状動脈が狭くなって血流が悪くなり、心筋に必要な血液が不足することで胸痛が起こります。症状は一時的で、長くても10分くらいで自然に治まります。この状態から動脈硬化がさらに進み、血管内のプラークが破れて冠状動脈の血管内に血栓ができ、血管が完全に詰まった状態が心筋梗塞です。
こうなると、心筋に血液が届かなくなった部分の細胞は死んで(壊死)しまうため、心臓の収縮・拡張ができなくなるので命に関わる危険な状態となります。
冠状動脈が狭くなったり詰まったりする原因は、動脈硬化のほかに睡眠時無呼吸が挙げられ、重症になるほど動脈硬化が進行するという研究報告があります。
睡眠時無呼吸によって体内が低酸素血症になると、血液がドロドロになるほか、炎症を起こす物質の分泌を促進すると考えられています。血管に炎症が起こった状態が続くことで傷つき、それを修復するために血小板が集まって血栓をつくりやすくすると考えられるからです。
循環器疾患による死亡率は「健康な人の3倍」
厚生労働省が実施している「患者調査」(平成29年調査) によると、心疾患(高血圧性のものを除く)の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は、173万2000人にも上ります。男女別にみると、男性は96万3000人、女性は77万5000人でした。
冠状動脈に疾患のある患者で睡眠時無呼吸症候群を合併する率は、そうでない人の約2倍、健康な人と比較すると虚血性心疾患の発症リスクは1.2~6.9倍になると報告されています。
また、平均10.1年間、経過を追跡したスペインの研究では、無治療で重症化した睡眠時無呼吸症候群の患者群の心筋梗塞、もしくは脳卒中による死亡率は、健康な人と比べて約3倍に達することが分かりました。
このように、睡眠時無呼吸症候群は、致死的な虚血性心疾患の発症リスクを高めることになります。実際に、急性の心筋梗塞患者の14%は病院へ搬送される前に心停止しており、急性期死亡率(発症から30日以内の院内死亡率)は6~7%となっています。
睡眠時無呼吸症候群は「突然死のリスク」を高める
なんの前触れもなく働き盛りの人を襲う突然死。突然死とは、文字通り「予期していない突然の病死」のことで、急死ともいいます。医学的には、発症から死亡までの時間が24時間以内と定義されています。
突然死の原因には、急性心筋梗塞、狭心症、不整脈、心筋疾患、弁膜症、心不全などの心臓病によるものが6割以上と多く、このほかに脳血管障害、消化器疾患などがあります。
平成6年度の突然死に関する研究では、就寝中が最も多く、次いで入浴中、休養・休憩中、排便中となっています。また、最も多い心筋梗塞の発作は、朝方にピークがあることも知られています。
突然死の中でも心臓病に起因するものを「心臓突然死」といい、急性症状が起こってから1時間以内と短時間で死亡するため「瞬間死」とも呼ばれています。心臓突然死は、年間約5万人といわれ、その中でも特に多いのが急性心筋梗塞です。
心臓突然死は、心臓が停止する直接の原因として心室細動が大部分を占めています。心筋の細胞は、一つひとつが手をつないでウェーブをつくるように協調して電気信号を伝えることで、心臓全体が拍動します。
ですから心室細動の場合は、心室筋が協調した動きを失うことで、心臓はポンプとしての機能を果たせなくなります。そのため、脳に血液を送ることができなくなり、死に至るのです。
また、前述した大動脈での病気も突然死の大きな原因となり得ます。急性大動脈解離や大動脈瘤の破裂は即死につながることもあります。睡眠時無呼吸症候群の患者が、深夜0時~午前6時に心臓が原因の突然死をきたすリスクは、そうでない人に比べて2.57倍高いと報告されています。
末松 義弘
筑波記念病院 副院長・心臓血管外科部長・睡眠呼吸センター長