相続の中でも、「不動産の承継」では特にトラブルが発生しやすい。物件に同じものは1つとしてないため、問題の争点・解決策は状況によってまったく異なる。そこで本連載では、不動産の相続対策に強みをもつ専門家集団・株式会社財産ドックの編著『20の事例でわかる 税理士が知らない不動産オーナーの相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)より一部を抜粋、事例を紹介し、実践的な対策方法を解説していく。

待てど暮らせど不動産会社から連絡が来ない

◆相続で突然不動産オーナーになったとき、管理しきれない土地をどう扱えばいいか

 

福岡県にお住まいのCさんのケースです。Cさんは70代の女性で、家族には長男と長女がいます。2年前にご主人が亡くなり不動産を相続したのですが、土地が広くかつ建物も古くて管理が難しかったこともあり、相続したあとすぐに売却したいと考えていました。

 

ご主人から相続した不動産は、広い土地と、その土地に建っている自宅とアパートです。相続が一段落し、改めて不動産を売却しようと考えたCさんは、近所にあるいくつかの不動産会社に足を運び、その中から2社に売却の依頼をすることにしました。

 

最初はどちらの不動産会社からも「この土地であれば、それほど待たなくてもすぐに買い手がつくでしょう」と言われていました。そのため、安心して買い手がつくのを待つことにしたのですが、待てど暮らせど不動産会社からの連絡はありません。

 

結局、2年経っても買い手はつきませんでした。すぐにでも不動産を売りたいと考えていたCさんは、しびれを切らして不動産会社に確認したのですが、相手は「なかなか買い手が出てきません」の一点張りで、その後も進展がないままだったため、途方に暮れていました。

 

あるとき、Cさんの長男がマンションから一戸建てに引っ越す機会があり、マンションの売却について私たちがお手伝いをすることになりました。長男のマンションはすぐに売却することができ、その際に「母親の不動産について話を聞いてもらえないだろうか」と相談をいただきました。

 

話を聞いてみると、母親であるCさんが不動産をうまく管理できず、売却することもできずにお金だけがどんどん出て行っている状況で非常に困っているということでした。そこで「まずはお話だけでも聞きましょう」ということで、ご相談を受けることになったのです。

 

長男から相談を受けてすぐに、Cさんにヒアリングを行いました。

 

Cさんがご主人から相続した不動産は、約200坪の土地と、その上に建てられた広い木造2階建の自宅、築50年の鉄筋コンクリート造の4階建アパートです。自宅はもともと家族四人で暮らしていたものでしたが、かなり広い上に、お子さんたちも独立していることもあり、70代になったCさんには手入れをするのが難しく、日々の管理だけでも体力的に厳しいという状況になっていました。

 

また、自宅に隣接しているアパートも築年数が経ち、かなり老朽化が進んでいて、新たに入居者を入れると維持管理費の方が高くなってしまい、赤字が膨らむ状況でした。こちらも管理が大変ということから、今は新たに入居者を募集していないという話でした。これ以上、この二つの不動産を持っていても、毎年の固定資産税とアパートの維持管理費でお金は出て行く一方です。Cさんは「とにかく早く売却したい」と話していました。

 

とにかく早く売却したい
とにかく早く売却したいのに…

問題点:不動産を売却するための流れを知らなかった

今回のケースで問題だったのは、Cさんが不動産を売却するための知識を持っていなかったという点です。ご主人が亡くなり突然不動産オーナーになったということもあり、Cさんは自分が何をしたらいいのかわからず、相続登記すら行っていないという状況でした。

 

売却をお願いする不動産業者の選定にしても「不動産業者であればどこに頼んでも売却できるだろう」と考えて、不動産売買の専門家ではなく賃貸管理がメインの地元の不動産会社に依頼をしていました。早期に売却を進めたいのであれば、売却について手続きの流れをしっかりと説明できるプロのアドバイスを求める方が適切だったと言えるでしょう。

 

また、Cさんは所有している土地はすぐに売れるだろうと考えていたことも問題でした。広い木造家屋と赤字経営になっている築50年の鉄筋コンクリートのアパートが建っているこの土地は、不動産の専門家から見ると、実は非常に売却が難しい土地だと言えます。

 

というのも、建物が古いためそのまま利用するのは難しく、購入したとしても建物を解体し更地にする必要があるからです。建物が大きく、かつアパートは鉄筋コンクリート造なので、解体費はかなりの金額が想定されます。土地の価格だけでなく解体費用も考えて購入しなければならないので、買い手が限定されるような状況でした。そういった点を理解した不動産業者でなければ、おそらくこの土地を売ることは難しいと言えるでしょう。

 

もちろん依頼していた不動産業者にも独自の顧客のネットワークがあり、売却活動もしっかりされていたのかもしれません。しかし、2年間も動きがないことを考えると、Cさんはもっと早い段階で土地の売買を得意とする不動産業者に依頼するべきだったと言えます。

解決策:正しい手続きを踏み、買い手を探す

「不動産を早期売却したい」というCさんの悩みを解決するために、まずはCさんに売却に必要な手続きや流れについての説明を聞いていただくところからスタートしました。特に相続登記に関しては、このまま放置してしまうと権利関係があやふやになる危険性もあります。

 

最悪の場合、買い手がついても売却できない可能性も出てくるため、すぐにでも登記をすることを提案しました。Cさんも現状の問題点を理解してくださり、紹介した司法書士のもとですぐに相続登記の手続きを始めました。

 

最初は全ての不動産についてCさん単独の名義で登記を行う予定だったのですが、司法書士のアドバイスを受けて、お子さんたちとの共有名義での登記に変更することにしました。というのも、売却することを前提に考えた場合、お子さんたちに所有権を持たせ共有名義にすると、売却時の譲渡所得税を節税することが可能になるからです。

 

そのため、Cさんの長男・長女も含めた話し合いを設け、法定相続分による持分で、共有名義で登記をすることになりました。

 

相続登記の手続きと並行して、土地の買い手探しも始めました。先述した通り、Cさんの所有している土地は解体費用を考慮の上で購入してくれる買い手を探す必要があります。そのため、最初から建築会社などに絞って掛け合うようにしたのです。

 

この土地を求める顧客の目星はある程度ついていました。実際、顧客をある程度ピックアップしてこの話を持って行ったところ、その場で良い反応をもらえていたため、すぐに買い手はつくだろうという感触を持ちました。

 

はじめの相談から1カ月が経った頃、ある建築会社からこの土地を購入したいという申し出を受けました。解体費用に1000万円以上かかるため、ある程度土地の売値は下げた上で交渉する必要がありましたが、想定内の金額で契約にこぎつけることができました。Cさんに「買い手がつきそうだ」という連絡を入れたときに大変驚かれていた様子は忘れられません。最終的には、はじめの相談から1カ月半で売買契約を行い、4カ月後には決済まで完了することができました。

 

現在、Cさんは長女の家の近くのアパートに引っ越して新しい生活をスタートさせています。以前の広い自宅とは異なり少し狭くはなりましたが、アパート暮らしは手入れの必要が少なく、Cさんもストレスなく暮らせると満足している様子でした。売却で得た資金は、将来一人での生活が不自由になったときのためにしっかりと貯めておくそうです。

 

今回のケースのように相続した不動産を処分しようにも処分できないと困っている不動産オーナーは少なくないと思います。特に、突然の相続で不動産について全く何もわからないままアパートオーナーになってしまった方など、お困りの方も多いことでしょう。

 

しかし、何もわからないからと言ってそのまま放置してしまうと、今回のように「売りたくても売れない」「お金だけがどんどん減っていく」といった状況が続くことになります。たとえ不良資産を受け取ってしまったとしても、その状況を変えることができるのは自分しかいないのです。

 

もし何をしたらいいのかわからないときは、まずは専門家にアドバイスを求めるようにしましょう。税金のことであれば税理士、登記のことであれば司法書士というように、不動産のことであれば不動産業者にアドバイスを求めるという手段があります。

 

専門家たちにアドバイスを求めて自分が何をしたらいいのか状況や方向性を確認する。何もわからない状況であっても、それさえ押さえておけば少なくとも大きな失敗は避けられると言えるでしょう。

 

まとめ

突然の相続で不動産を引き継いだとき、何もわからなくて不安なことも多いでしょうが、わからないままにしないことが肝心です。

 

 

株式会社財産ドック

20の事例でわかる 税理士が知らない不動産オーナーの相続対策

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