意外に多い父の遺産に、家族が困惑
今回登場するのは、父、母、長男、長女の4人家族です。両親とも穏やかな性格で、子どもたちは大きな声で怒られた記憶がない、といいます。そんな両親に育てられた子どもたちも、やはり穏やかな性格で、あまりに怒らない性格から、長男は「ほとけ」、長女は「聖母」とあだ名がつくほどでした。
近所でも評判になるほど、穏やかで物静かな家族でしたが、父は意外に投資には積極的で、株式の配当は結構な額になり、さらにいくつかの不動産をもつなど、会社員でありながら、かなりの資産を持っていました。
「何かあったときに、子どもたちに残せるものがあればと思って始めたんですが、相性がよかったのか、投資はすごくうまくいきましたね」と笑う父。とはいえ、あくまでも投資は将来のために行っているもので、日々の生活は非常に地味。周囲の人は誰一人と、父が資産家であるに気づいていませんでした。
意外にお金持ちの父、ということ以外は、きわめて穏やかなで地味な家族。月日は流れ、子どもたちは独立し、それぞれが幸せな家庭を築いていました。そんなある日のことです。家族始まって以来の大事件が起こりました。父が亡くなったのです。
父はすでに70代。病気が見つかったときには、すでに末期で、色々なところに転移も見られるとのことでした。それでも父は取り乱すことなく、最後まで穏やかだったといいます。
そのような父の姿があったからでしょうか。残された家族も取り乱すことなく、父をしっかりと送り出すことができました。そしてまた穏やかな日常が戻ってくる……誰もがそう思っていましたが、この家族に、もう一波乱、起こるのです。
ある日、食卓で浮かない顔をしている長女がいました。そんな長女の様子に、お風呂上がりの長女の夫が話しかけました。
長女の夫「どうしたの、そんな顔して」
長女「お父さんの遺産のことで……」
長女の夫「揉めてるの?」
長女「まだそこにもいけてない感じ」
長女の夫「どういうこと?」
長女「実はお父さん、投資でうまくいっていて、遺産の全体がやっと見えてきた感じ。遺産が多くて困っちゃうなんて、贅沢な悩みよね」
長女の夫「へえ、お義父さん、すごいな」
長女「ほんと、なんで会社員を続けていたのかしら、お父さん」
長女の夫「わかった。今度、家族で話し合うときに俺もついていってあげるよ」
長女「悪いわよ、そんなの」
長女の夫「いいよ。俺も前に父さんの相続があっただろう。そのときに色々勉強したからさ、結構頼りになると思うんだ」
長女「別にいいけど…」
長女の夫「それに家族全員、押しが弱いだろ。みんなで、どうしよう、どうしようって言っているんじゃないのか。相続の話し合いってものは、ちゃんとした船頭がいないと、進んでいかないんだよ」
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