年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、相続人の夫が遺産分割協議に介入し起きた相続トラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

意外に多い父の遺産に、家族が困惑

今回登場するのは、父、母、長男、長女の4人家族です。両親とも穏やかな性格で、子どもたちは大きな声で怒られた記憶がない、といいます。そんな両親に育てられた子どもたちも、やはり穏やかな性格で、あまりに怒らない性格から、長男は「ほとけ」、長女は「聖母」とあだ名がつくほどでした。

 

近所でも評判になるほど、穏やかで物静かな家族でしたが、父は意外に投資には積極的で、株式の配当は結構な額になり、さらにいくつかの不動産をもつなど、会社員でありながら、かなりの資産を持っていました。

 

「何かあったときに、子どもたちに残せるものがあればと思って始めたんですが、相性がよかったのか、投資はすごくうまくいきましたね」と笑う父。とはいえ、あくまでも投資は将来のために行っているもので、日々の生活は非常に地味。周囲の人は誰一人と、父が資産家であるに気づいていませんでした。

 

意外にお金持ちの父、ということ以外は、きわめて穏やかなで地味な家族。月日は流れ、子どもたちは独立し、それぞれが幸せな家庭を築いていました。そんなある日のことです。家族始まって以来の大事件が起こりました。父が亡くなったのです。

 

父はすでに70代。病気が見つかったときには、すでに末期で、色々なところに転移も見られるとのことでした。それでも父は取り乱すことなく、最後まで穏やかだったといいます。

 

そのような父の姿があったからでしょうか。残された家族も取り乱すことなく、父をしっかりと送り出すことができました。そしてまた穏やかな日常が戻ってくる……誰もがそう思っていましたが、この家族に、もう一波乱、起こるのです。

 

ある日、食卓で浮かない顔をしている長女がいました。そんな長女の様子に、お風呂上がりの長女の夫が話しかけました。

 

長女の夫「どうしたの、そんな顔して」

 

長女「お父さんの遺産のことで……」

 

長女の夫「揉めてるの?」

 

長女「まだそこにもいけてない感じ」

 

長女の夫「どういうこと?」

 

長女「実はお父さん、投資でうまくいっていて、遺産の全体がやっと見えてきた感じ。遺産が多くて困っちゃうなんて、贅沢な悩みよね」

 

長女の夫「へえ、お義父さん、すごいな」

 

長女「ほんと、なんで会社員を続けていたのかしら、お父さん」

 

長女の夫「わかった。今度、家族で話し合うときに俺もついていってあげるよ」

 

長女「悪いわよ、そんなの」

 

長女の夫「いいよ。俺も前に父さんの相続があっただろう。そのときに色々勉強したからさ、結構頼りになると思うんだ」

 

長女「別にいいけど…」

 

長女の夫「それに家族全員、押しが弱いだろ。みんなで、どうしよう、どうしようって言っているんじゃないのか。相続の話し合いってものは、ちゃんとした船頭がいないと、進んでいかないんだよ」

 

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