年間約130万人の方が亡くなり、このうち相続税の課税対象になるのは1/10といわれています。しかし課税対象であろうが、なかろうが、1年で130万通りの相続が発生し、多くのトラブルが生じています。当事者にならないためには、実際のトラブル事例から対策を学ぶことが肝心です。今回は、相続人の夫が遺産分割協議に介入し起きた相続トラブルについて、円満相続税理士法人の橘慶太税理士に解説いただきました。

家族全員を絶句させた、長女の夫の何気ないひと言

こうして、ある日曜日の昼下がり、実家に母、長男、長女、さらに長女の夫の4人が集まりました。

 

「相続の話、ちょっと行き詰っていると聞いたので、今日はおじゃましました。父の相続の経験があるので、何かとアドバイスできるかと思いますので」

 

長女の夫が軽く挨拶を交わしたあと、遺産分割の話が始まりました。父の遺産は、実家とマンションが8室、株式や債券、金、そして貯金と、総額7~8億円はくだらない、ということでした。次にこれらの遺産をどうするか。色々話をしましたが、最終的にそのまま持っていても運用はできないから、母が住む実家以外は現金にして、母1/2、子どもたち1/2と分けよう、という話にまとまりかけたとき、長男の夫が立ち上がりました。

 

長女の夫「ちょっと待ってください。安直に分けると後悔しますよ」

 

長男「でも普通、母が1/2、残りは子どもたちで分けますよね。普通どおり分けたほうが後悔はしないかと」

 

長女の夫「確かに、決められたとおりであればそうですが、あとで絶対後悔します」

 

長男「でも家族ごとに配分を決めて差が出たときのほうが、あとで揉める原因になりませんか?」

 

長女の夫「いえ何も考えずに、決められたとおり、というほうが揉めます。それにお義母さん」

 

母「えっ、はい!?」

 

長女の夫「お義母さんは、そんなに遺産、いりますか?」

 

母「えっ?」

 

長女の夫「お義母さん、今年で73ですよ。そんなにもらっても意味ないですよね?」

 

全員「……(絶句)」

 

長女の夫「それであれば、もっと……」

 

長女「ちょっと、何言っているのよ! ここから出ていって、出ていってよ!」

 

こうして、長女の夫は廊下につまみ出されました。ぽかーんと、何が起きたのかわからない様子。仕方がないので、先に家に帰り、長女の帰りを待ちました。そして夕方ごろ、長女がすごい剣幕で帰ってきました。

 

長女の夫「何をそんなに怒っているんだい?」

 

長女「あなた、どんなに失礼なことを言ったのか、わからないの! お母さんに、『あなたは早く死ぬから、そんなにお金を持っていても仕方がないですよ』って言ったのよ!」

 

長女の夫「もっと遠まわしな言い方で……」

 

長女「まずは謝れー!!」

 

今まで聞いたことのないほどの長女の怒鳴り声が、隣近所まで響き渡りました。

 

もう謝るしか……
もう謝るしか……

配偶者控除を最大限使うことが、正しいとは限らない

揉める相続には、いくつかのパターンがあります。法定相続人以外の第三者が遺産分割協議に介入するというのも、そのひとつです。

 

本来、遺産分割は非常にシンプルです。遺言書がある場合には、遺言書の通りに遺産を分け、遺言書がない場合には、法定相続人全員での話し合いによって遺産の分け方を決めればいいのです。

 

この遺産分割協議に参加できるのは、法律で決められた法定相続人という立場を持った人だけで、法定相続人が全員揃っていないのに勝手に進められた遺産分割協議は無効になります。

 

では法定相続人になれるのは誰かといえば、まずは配偶者です。戸籍上、配偶者となっていない場合、たとえば事実婚であれば、その人は法定相続人にはなれません。それ以降は、優先順位があります。第1順位の法定相続人は子ども、第2順位は直系尊属である父母、第3順位は兄弟姉妹と続きます。上の順位の法定相続人がいる場合には、下の順位の人は法定相続人になれません。

 

さらに本来、遺産を相続するはずだった子どもが先に亡くなってしまっている場合には、その相続する権利は孫に引き継がれます。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます。この時に気を付けなければいけないのは、相続権は孫には引き継がれますが、亡くなった子どもの配偶者には引き継がれません。亡くなった子どもの配偶者に遺産をあげたいときは遺言書が必要になります。

 

法定相続人以外の第三者が遺産分割協議の場に介入すると、家族の事情も顧みずに話をして場をかき乱したり、どんなに中立的な立場でいても誰かの肩をもっていると思われたりして、泥沼化することは多いのです。

 

ただ今回の事例で、長女の夫の言い方は悪かったとはいえ、提案は良かったと思います。通常、配偶者は、法定相続分と1億6000万円のいずれか多い金額まで、相続税が非課税となります。少々わかりにくいですが、「夫婦の間では最低でも1億6000万円まで相続税がかからない」ということです。

 

「そんなお得な制度、最大限に使った方がお得に決まっているじゃない」と思うかもしれませんが、配偶者の税額軽減があるからといって、必要以上の金額を配偶者に相続させてしまうと、結果として損をしてしまう可能性が非常に高くなるのです。

 

それは一次相続で配偶者がたくさん相続すれば、確かにその時の相続税は少なくなりますが、問題は二次相続の相続税です。一次相続で配偶者が多くの財産を相続すると、次に、その配偶者が亡くなったときの相続税が高くなります。一次相続と二次相続とでは、仮に、同じ金額の財産を相続する場合でも、圧倒的に二次相続のときのほうが、相続税は割高になります。

 

筆者は、「一次相続では、奥様が今後これだけあれば安心して暮らしていける、と思える金額を相続してください」とお伝えしています。

 

【動画/筆者が「相続税の配偶者控除」を分かりやすく解説】

 

橘慶太

円満相続税理士法人

 

 

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